第633話 作者の実体験
「相変わらず骨を抜いたやつだけでいいんですよね?」
「うむ」
持ち帰りの話だけど、やっぱり骨を抜いたイセカイハモを所望される。
まぁ、ぶっちゃけこっちでしか出来ない事がそれくらいしかないからだろうけど。
天ぷらとか、異世界でも材料があれば出来るだろうし。
「では、また」
「明日も楽しみにしとるぞい」
そう言って紫の魔法陣に消えていく異世界組。
それを見送りまして……。
「明日の朝ご飯の準備をしよ」
解呪だけして、骨を抜いていないイセカイハモを庭へ持っていき……。
「明日の朝までに干物にしておいて欲しいんだけど……」
「ンーゴッ!」
ゴー君に干物化のお願い。
今の内にイセカイカワブタ節から出汁を取って……みそ汁も作っておいて。
これで明日の朝に卵焼きでも作って、納豆を添えれば。
純和朝食の完成也。
あまりにも、あまりにも朝から贅沢過ぎる……。
だが待ってほしい。
朝起きたらご機嫌な朝食が食べられることで、仕事の憂鬱さを軽減しているだけなのだ。
これは心の健康のために必須なんだ……。
という事で、そんなワクワクを胸に就寝!!
さぁて、明日はマグロで何作ろっかなぁ!!
*
「……あのさぁ」
ご飯、味噌汁、卵焼きに納豆。そしてイセカイハモの干物。
どこからどう見ても文句の付けようのないご機嫌な朝食。
それはそれはもう、相当に素ン晴らしい気持ちでご飯を食べていたのに……。
「今から帰るって……俺もう仕事行くんだけど……」
あまりにも突然に、姉貴が帰ってくる。
そもそも、当日の今から帰宅するからとか連絡するな。
あと、せめて飛行機に乗る前に連絡しろ。
日本に着いた、じゃないんよ。
教えはどうなってんだ教えは。
「はぁ……流石に電子レンジくらいは使えるよな?」
いくら家事音痴な姉貴と言えど、電化製品くらいは使いこなせるはず。
てことは、温める時間を書いて用意しておけば勝手に食うでしょ、多分。
もし食えなかったとしても、人間一日くらい食べなくてもヘーキヘーキ。
俺が見てるドキュメント番組では二日とか食べてないみたいだし。
「とりあえず鱧を食わせろって言ってるから用意するとして……」
色々と考えたけど、それまで海外に行ってて、帰国してからの初っ端のご飯でしょ?
俺が今食べてる和朝食みたいなのが一番刺さるんじゃね? という事で。
仕方なく俺のお弁当用だった卵焼きの残りを、姉貴に恵んであげるとする。
……卵焼きだけど緑色なのはご愛敬。リボーンフィンチの卵焼きだし。
会社に持っていくと、ほうれん草入りの卵焼きかーって感想を言われたからな。
やべッと思ってそうなんですよ、って返しておいた。
普通の卵は黄色だったの忘れかけてたわ。
「温める時間も書いて……っと」
それぞれのお皿にラップをかけて、付箋で時間も書いて、これでよし。
んじゃ、仕事に行ってくるから。
神様、何かあったらよろしくお願いします。
*
「ただいまー」
翔が家を出ておよそ1時間。
共通認識の鍵の隠し場所から鍵を拝借し、翔宅に入る姉の早苗。
「全く、お姉ちゃん様が帰宅というのに出迎えも無しか」
などと言いながらも荷物を自分の部屋に置きに行き……。
「適当にコンビニで何か買ってご飯でも……ん?」
腹ごしらえを、と思っていた早苗の視界に、リビングのテーブルの上に置いてある翔からの気遣い朝食が入り込む。
「かー、出来る弟は違うねぇ!」
即座に移動。そして、それぞれに貼ってある付箋を確認して……。
「この時間温めればいいってわけね。なるほどなるほど」
翔の意図にしっかりと気が付き、電子レンジに入れてボタンを操作。
温め開始を押したところで――まだ早苗は気付いていない。
『レンジ』ではなく、『オーブン』で加熱を開始したことを。
最も、最初に温めたのが卵焼きで、加熱時間は三十秒であったため、ほとんど温まらずに首を傾げることになるのだが。
少なくとも、ラップが溶けて卵焼きに密着する、という事故は起きなかった。
なお、しばらく考えた末に何が原因だったのかを把握したのだが。
「日本製品の悪いところ出てるわー。ボタン多すぎなのよ」
自分の注意不足や観察不足ではなく、多機能の日本製品に責任を押し付けたりする。
それを知るのは翔に言われて渋々見守る神様のみ。
なお、神様は姉貴を見守るというよりは、姉貴が持ち帰ったお土産の中に眠るワイン類を見ているだけだったりする。
「ん~!! ご飯がおいひぃ」
そんな事は露にも知らず、早苗は翔の用意した朝食に舌鼓を打つ。
「みそ汁うっま。え? これ何出汁? うっま。卵焼きもいい塩梅の塩加減だし、やっぱ日本のお米は美味いわ」
と、先にメイン以外を一通り堪能したところで。
「鱧の干物ね。食べた事はないけれど……」
いよいよイセカイハモに箸をつける。
「ん~!! これよこれ! はぁ……美味しい……」
おおよそ他国では味わえないであろう鱧の干物。
それを口一杯に頬張った早苗は、文字通り幸せを噛み締める。
「やっぱDNAは日本人なんだなぁ、私。んめんめ」
そう言いながら、もの凄いペースで食事を平らげていった早苗は。
「はぁ、麦茶が美味い」
カラン、と氷の音を鳴らしながら、麦茶を堪能。
そして、そのまま旅の疲れが出たのか、椅子に座ったまま眠ってしまった。
……ワインのお供えが貰えると期待していた神様を置いて。
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