第625話 いたずらごころ

「ふぅ……満足」


 鍋を平らげ、そう幸せそうに呟いたアメノサさん。

 ――だが、


「何を勘違いしている?」

「ひょ?」

「まだカケルの提供フェイズは終了していませんわよ?」

「ドロー!! 〆のお蕎麦!!」


 乗らんぞ?

 俺は絶対に乗らないからな。


「と言う訳で〆の蕎麦しゃぶですよ~」


 軽く茹でたお蕎麦を、残った鍋の汁に潜らせていただく絶品の〆。

 何がいいって、散々野菜やらイセカイハモやらの出汁がたっぷりと出た汁でやるって所。


「では早速……」


 誰よりも先に俺が堪能させて貰う。

 これが提供者特権という奴だ、ガハハ。


「もう最高!」


 不味いはず無いよなぁ?

 いや、マジで美味い。

 ここですりおろした玉ねぎが利いてくるね。

 たっぷりと滲み出たイセカイハモの旨味と、十分に加熱されて甘ーくなったすりおろし玉ねぎ。

 僅かに残る水菜を蕎麦にひっかけてすすれば、口の中は桃源郷。

 あ~……しめじからもいい出汁出てるわこれ。


「マジで最高だな」

「蕎麦の香りも『――』と合う」

「かなり相性良く感じますわ!」

「蕎麦を貰って、向こうで『――』蕎麦を作ろうか? 天ぷらを乗せたりしてな」

「最高じゃな。ぜひ作ってくれ」


 え、俺もご相伴に預かりたいんだけど。

 絶対に美味いじゃん、そんなの。


「そう言えば生春巻きの出来はどうでした?」

「大成功だったぞ? モチモチとした皮と、しっとりした『――』の身が相性が良くてな」

「チリソースやマヨネーズは微妙でしたけれど、ポン酢がもう相性バッチグーでして!」

「アエロスを見かけたからご馳走したら、文字通り美味さで飛んでいた」

「『はぁ、また呪縛みたいに美味いもん食っちまったっす』と大絶賛じゃったな」


 ……大絶賛なのか?

 むしろ呪いみたく受け取られてない?

 いやまぁ、よくある『もうここの○○以外食べられない』の最上級的表現と捉えられなくもないか?

 estであり、aboveではない事を祈ろう。

 顔も知らないアエロスさんとやら、強く生きろ。


「汁……無いなった」

「〆だからな。そりゃあいつまでも食える代物じゃねぇよ」


 そんな話をしていたら、〆の鍋スープが無くなってしまわれた。

 いやぁ、しかし。

 暑い夏に汗かきながら鍋つつくの、これもまたいいもんだねぇ。

 ……クーラーは必須だし水分補給も忘れずにしないとダメだけど。

 

「食後のお茶を淹れましょうか」

「頼む」


 という事で流しに鍋やらお皿やらを、ラベンドラさん達の魔法で移動して貰ってる間に俺はお茶の準備。

 ふっふっふ。

 今日のお茶はなんとそば茶だ。


「どうぞ」


 まずは何の説明も無しに一口試してみる。

 さぁて、反応は?


「む? ……そばのお茶か」

「香りが素晴らしいですわねぇ」

「これうめぇな」

「普通のお茶もいいがこっちも美味いな」

「……熱い」


 うむ、好評。

 ……アメノサさんだけ味の感想じゃなくて温度の感想だったけども。

 ……狐も猫舌なんだろうか? 

 特にそう言う話は聞かないけどなぁ。


「はぁ……チルですわ」

「うむ」


 物凄ーくまったりした時間が流れてる。

 こういう時間が日々のストレスを軽減してくれるんだ……。


「デザート」


 はい。

 まったり時間終了のチャイムが鳴りました。

 んじゃ、用意しますか。


「今日はこんなものをご用意しました」

「? ――!!?」

「離れろ!! カケル!!」


 俺が用意したものを見せたら、思いっきり後ろに飛んで距離を取ったアメノサさんと。

 俺に向けて離れろと怒鳴る『無頼』さん。

 うわぁ……すっごい既視感。

 

「大丈夫だ」

「どう見てもスライム! しかも、中に毒属性を蓄えてる!!」

「活性状態じゃねぇみてぇだが、いつ動き出すか分かンねぇぞ!!」

「だから大丈夫だ」


 ちなみに『夢幻泡影』は全く動じてない。 

 去年の水信玄餅の時は似たような反応してたのに。


「カケル、説明を」 

「これらは葛餅と呼ばれる食べ物でして……」


 なお、本日用意したのは葛餅なり。

 中身はあんこと抹茶餡の二種類。

 恐らくだけどアメノサさんが毒属性って言ったのは抹茶餡の方だね。

 緑だし。


「本当に動かない?」

「そもそもスライムじゃありませんね」

「……信じる」


 と、警戒を解かず、恐る恐る近付いてきたアメノサさんに。


「バウッ!!」


 突然大きな声を出し、持っていた葛餅入りの箱を大きく揺らすと。


「ヒィッ!!?」


 また後ずさり。

 なにこれ楽しい。


「殺」

「やめとけ。またここに来られ無くなるのはお前だぞ?」

「……カケルがいじめる……」

「もうしませんから。お皿に移しときますね」


 はぁ、楽しかった。

 なんだろうね、アメノサさん。弄りがいがあるんだよなぁ。

 ……まーだ尻尾の毛が逆立ってら。

 というか、この人らのスライムに対する警戒心って凄い気がする。

 一部例外を除いて、スライムって基本的に一番弱い魔物じゃないの?

 いやまぁ、作品の主人公を張ってるスライムとか、ゴールデンなスライムとかはまぁ強いけどさ。

 でも、言うてぷるぷるのスライムですよ?

 現代日本人の感覚じゃあ、ここまで警戒する意味が分からないんだよね。


「とりあえず食べましょう?」

「食べないなら貰いますわよ?」

「っ!? た、食べる!」

「このままそば茶でいただきましょう。お代わりいる人~」


 と言う訳でまだ警戒を解いてない『無頼』アメノサ組は一旦置き。

 葛餅、いただきます。

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