第615話 俺様の美味に酔いな

 アメノサさん達がブラッシングで騒いでたおかげで、茶碗蒸しはバレる事無く作られていく。

 それにしても、どっから湧いて出て来た? レベルの生え変わった毛が無頼さんの腕にこんもり山盛りになってるんだよなぁ。

 尻尾のシルエットが若干スマートになった気がするけど、多分気のせいじゃないな。


「超取れる!」

「次からは自分でやれよ」


 最初はもげるだのなんだの言ってたアメノサさんも、終わってみれば成果に感動。

 またブラシを『無頼』さんに押し付けてる辺り、自分でする気はみじんもないな、あれは。


「カケル、もうすぐ茶碗蒸しが蒸しあがるぞ」

「じゃあこっちも焼いたりして仕上げしますね」


 アメノサさん達のほのぼの風景を見ていたら、もうすぐ茶碗蒸しが出来上がる様子。

 てなわけで色々と仕上げをしていきましょう。

 ゴー君作のイセカイハモの干物をフライパンで焼き、その間にお吸い物に切り身を投下。

 湯引きをしてお刺身の隣に盛り合わせ、酒蒸しでふっくらに仕上げて……と。


「今日は豪勢だな」

「色々と思う所がありまして」


 なんも無いけどね。

 俺の思う所とは、すなわち何も思いつかなかった、な訳で。

 あ、でも、今日の天ぷらの出来が良かったら鱧天丼とか明日やりたいかも。

 レシピ見たら南蛮漬けとか、かば焼きとかも美味しそうだったんだよな。


「出来たぞ。お前ら、運べ」


 天ぷらが揚がり、茶碗蒸しは蒸しあがり。

 刺身と湯引きは盛り付け終わって、焼き鱧も完成。

 酒蒸しも完成して盛り付けたので、後は魔法でテーブルに並べるだけ、と。


「……? これ何?」

「開けてみてください」


 ご飯をよそい、お吸い物をよそっていると、アメノサさんが早速茶碗蒸しに興味津々。

 と言う訳で、


「? プリン?」

「今日の形式のご飯だと、食前にデザートを食べるんですよ。出来立てが美味しいのでどうぞ」

「いただきます」


 これが異世界……というか、日本料理の洗礼だ。喰らえ!!


「……っ!? 甘くない!!」


 何の説明も無いと、外国人観光客には、茶碗蒸しはプリンと思われるらしい。

 おかずプリンとか、総菜プリンみたいな英単語同士の組み合わせで何とか伝えるみたいよ?


「……でも、美味しい」

「デザートではありませんし」

「いい出汁が出ている。これも染み渡るような美味さだな」

「骨の無い身がふっくらで美味い」


 あーあ、俺が全員分のご飯とかよそう前に食べ始めたでやんの。

 まぁ、アメノサさんに食べてみてって促したのは俺だからいいんだけど。

 さて、いただきます、と。


「ん? 骨が無い?」

「今回は骨切りはしなくて済んだな」

「そうじゃなく……どうやって骨を取り除いた!?」


 はー、お吸い物美味しい。

 ……んで、何? なんで俺みんなからガン見されてんの?


「魔法?」

「カケルは人間ですわよ? 私たちに使えない魔法が使えてなるものですか!」

「普通にゴー君に任せましたけど……」

「カケル、嘘はいけない。普通、ゴーレムは魚の骨を抜くなんて細かな作業、出来ない」

「抜いたわけじゃなくて骨だけを消化吸収しただけらしいですけど……」

「全然納得出来んが……」


 だって、ゴー君には出来たんですもん。

 それ以上は知らんよ……。


「後でゴーレムから色々と聞き出す必要がありますわね」

「お手柔らかに、ですよ?」


 下手したら一度回収しますわね、とか言われそうだし。

 全力で抵抗するけど。拳で。


「今は食べる事に集中しよう。刺身は醤油か?」

「ポン酢や酢味噌も美味いらしいです」

「無論試す」


 という事でお刺身をいただきます。

 ……ん~。

 試食の時と同じ感想になるけど、マジで繊細な味だね。

 酢味噌で食べたんだけど、酢や味噌の香りの後からスッキリとした雑味の無い旨味が立ち昇って来る感じ。

 なんて言うんだろうな、うま味が薄く伸びながら口の中に広がっていくって感じ。

 それが噛む度に広がるの。

 ……うん、そこに放り込む米が美味い。

 コレ、日本酒だと最高だろうな。

 山間の旅館とかでさ、紅葉を見ながら、静かに一人で一杯。

 そんなイメージが脳内に沸くような、静かな旨味。


「ポン酢の香りに飛ばされるかと思ったが、意外と飛ばないんだな」

「醤油の味の後にしっかりと『――』の旨味を感じますわよ?」

「どんな調味料にもかき消されん味と香りという事じゃないか?」

「それはそれで凄すぎるが……。どんな調理をしても絶対に主役になり続けるという事だろう?」


 ガブロさんが言った、絶対にかき消されない味と香りってのがなんかしっくりくるな。

 思えば、味も香りも、感じる瞬間は試食の時と同じかもしれん。

 イセカイハモの味とかを感じる前に、酢味噌の方が感じられた感じ。

 ……何と言うか、俺はここをどかないから、お前らが調整しろ、みたいな事を食材の味がやってる感じなんだよな。

 繊細な味とは裏腹に、物凄く俺様気質というか。

 俺に合わせろ感が強い。


「湯引きも美味い」

「梅肉が合うそうです」

「試しますわ!!」


 と言う訳で刺身の隣の湯引きへ。

 これにはチューブの梅肉を少し乗せて、と。


「お、うめぇ」


 ツンと来る梅肉の酸っぱさが、イセカイハモの甘みを引き出してるね。

 そしてやっぱり刺身と同じタイミングで来るうま味。

 梅肉のさっぱり感を押しのけながら、俺が王だと言わんばかりに主張してくる。

 ……絶対に日本酒合う。

 もう出す! 我慢出来ない!!


「お酒、飲む人」

「もちのろんじゃ」

「いるに決まってンだろ」

「私も少し」


 と、飲兵衛組はともかく、アメノサさんやエルフの方々も挙手。

 やっぱりみんな、お酒が飲みたくなったんだねぇ。

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