第578話 好感度が7澗上がった
……よし、作るか。
仕事を終え、買い物を済ませ。
やる事と言ったら晩御飯の準備。
まぁ、今日はメインの大皿とスープだけだし楽な方楽な方。
昨日ドラ墨で作ったら美味しい料理を任せてくれって言ったし、もちろんその料理を作るよ。
ご飯泥棒とも呼び声高いその料理は……マーボー春雨なり!!
好きなんだよねぇ、あのスープをたっぷり吸った春雨を、吸いきれなかったスープをたっぷり絡めてご飯と一緒に掻っ込むの。
と言う訳で作っていきましょう。
「料理名がマーボー春雨になるかは不明だけどね」
メイン材料は春雨から変わらないけど、味付けはほぼドラ墨だからなぁ。
俺は料理に詳しくないけど、こう、麻婆ってなんか名付ける定義みたいなのあるんだろうか?
それともこれは麻婆です! って主張しちゃえばそう呼ばれるんかな?
まぁいいや。
あ、でも麻婆の麻は痺れる辛さを指すみたいな知識があったような……。
てことは厳密には麻婆じゃなくなるのか?
「なんて考えてたら下ごしらえ終わっちゃったよ……」
きくらげは一口大に切ったし、ネギもみじん切りが完了。
春雨は戻すだけだし……。
「スープだけ作っちゃうか」
リボーンフィンチの卵とわかめの中華スープ。
と言ってもこっちもすぐに出来るんだよな。
「ラベンドラさん無視して作ると落ち込みそうだし……早く来ないかなぁ……」
*
「兄者、一体どこに連れていくんじゃい?」
「エルフの手を借りてまで向かう所なんか?」
「黙ってついてこい。わしらのコネでしか出来ん極秘の招待じゃぞ」
ペグマ工房で働くドワーフ全員。
その代表のペグマの兄であるガブロにより、とあるところに集められ。
集まったと思ったらリリウム、マジャリスの手によってどこかの建物の中へと転移。
不満たらたらにガブロの案内に従っていくと……。
「なんだここは?」
そこには、色とりどりのボトルに入れられた酒と思わしきものと、カウンターが一つ。
そして、そのカウンターの中に立つラベンドラの姿があり……。
「魔道具を異次元の速度で仕上げてくれた礼だ。酒を振る舞おう」
現代人が見れば確実にバーテンダーと分かる装いのラベンドラを前に、ペグマ工房のドワーフたちはぽかん顔。
そもそも、『夢幻泡影』のようにドワーフとエルフが仲良くパーティを組むこと自体が異端中の異端であり、本来ならば顔を合わせるだけで罵詈雑言が飛び交う中。
犬猿の仲と現代日本でも評するが、それを五倍くらいに悪化させたような関係が普通なのだ。
であるために、
「毒とか入れんか?」
警戒するのは当然のこと。
だが、
「今回は蒸留ギルドからの依頼でな。出来上がった酒のサンプルの質を確かめて欲しいと言うものだ」
「別に私達だけで楽しんでも良かったのですよ? でも、折角ですし、ドワーフにも振舞おうと思いましてね?」
「あのガブロの渇きを潤す酒すら提供出来る。まぁ、飲む飲まないはそちらの勝手だが」
「と言う事でマティーニを。ステアせずにシェイクで頼むぞい」
『夢幻泡影』はお構いなしに、各々で飲みたい酒を注文していく。
「私はオレンジブロッサムですわ。あれ、お気に入りですの」
「それのベースをウォッカにしてスクリュードライバーを。あっちの方が美味い」
リリウムとマジャリスがそれぞれオレンジジュースと混ぜるレシピを注文すると、ラベンドラはそれぞれのレシピを提供。
それらを飲む姿を、文字通り喉を鳴らして見届けたドワーフたちは。
「ど、どんなレシピがある?」
と、興味津々に尋ね。
「好み次第だ。まずは酒の強さを指定、そこに果物のジュースを混ぜるかどうか、細かく聞いていこう」
それに対するラベンドラの返事は、カクテルと言う文化の無かったドワーフ達にとって、渡りに船のようなもの。
「とにかく強いの!」
「酒の味を楽しめる奴がいい」
「長く飲めるようある程度にまとまっとる酒はあるか!?」
と、一気に鉄火場のような雰囲気に蒸留ギルドの試飲室が包まれると……。
「レシピは絶対に見逃すなよ?」
「はっ!」
「分量まで細かく確認しろ。飲んだドワーフ共の反応もだ」
「はっ!」
「レシピを確認し終えた者は私に提出。確認後、あの中に入ってきていい」
「はっ!!」
二階部分から遠望魔法でラベンドラの手元を覗き、事細かにカクテルの詳細を記録する蒸留ギルドの職員たちも臨戦態勢。
当初は醸造ギルドで働いていたものの、新設されるこのギルドに配置転換となって若干モチベーションが下がってはいたが。
これまでにない新しい酒を作れるばかりか、酒と酒などを混ぜ合わせて新たな酒を作る行為まで行えるとは……。
と、モチベーションはうなぎ登り。
――余談だが、この現在記録を取っている研究員の内の一人が、後々様々なカクテルのレシピを考案し、ドワーフ達から『酒が沸く人間』とまで称され、崇拝に近い扱いを受けることになるのだが。
そんな事は、ドワーフどころかその研究員本人、さらには蒸留ギルドのギルドマスターすらも想像出来ない事であった。
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