第572話 神様「少しは頭を冷やせ」
ふぅ。とりあえずこれ位仕込めばいいかな。
今日の晩御飯はラベンドラさんが用意してくれるらしいからね。
んで、マジャリスさんからデザートをしつこくリクエストされたので……。
おからドーナツと豆乳アイス、更には豆乳プリンを作ろうと思う。
というか作った、うん。
黒蜜も用意したし、異世界ピーナッツからきな粉も作ったからね。
作ったきな粉の半分の量の砂糖を加え、ここに塩を一つまみ。
これが美味しいきな粉の黄金比だってさ。
ちなみにこのきな粉、味見したのよ。
そしたら凄いの、豆の香りと香ばしさがかなり強いんだけど、香るの一瞬。
即座に深いコクが広がってさ。
市販のわらび餅に掛けたら絶対に美味しいだろうなって。
で、そんなこんなやってたら紫の魔法陣登場。
皆さんいらっしゃ~い。
「おい、アメノサのやついねぇぞ!?」
……おや?
*
「よし、お仕事終わり」
フンスと鼻を鳴らしたアメノサは、手に持っていた書類を机に置き。
そこに自身の名が彫られた判を押して、立ち上がり伸び。
国の内政に関わる部分、特に、これから他国との交易で伸び始めるであろう分野への投資。
それらを指示する書類の山の片付けが、ようやく落ち着いた。
「蒸留は……一旦保留」
最も、直近で『無頼』が持ち帰った蒸留なる技術が及ぼす範囲があまりにも広く。
醸造ギルドのみならず、調薬や錬金術に至るまでの広い範囲で用いられる技術であり。
今まで『蒸留』と呼んでいなかっただけで、独自に名前を付けてその技法を使っていた研究者はそれなりに居た。
そのほとんどに、蒸留に関する研究への助力を願ったはいいのだが……。
「研究者は、自我が強くて困る」
自分のやりたい研究と違う、と断られることが多く、思ったほど人材は集まっていない。
最悪、ソクサルムに相談し、研究員を派遣して貰う必要があるかもしれない。
そう考えるアメノサは、
「とりあえず、カケルの所」
これから向かう美味しいものが食べられる場所。
そこでリフレッシュし、また明日に供えよう。
そう考えて、『夢幻泡影』と『無頼』の待つ待ち合わせ場所へと外出する。
美味しいものを食べれば、ある程度は気が晴れると信じて。
*
「なんで? ……なんで!?」
なお、現実は無情である。
これまで通りに『無頼』と共に、『夢幻泡影』の肩を掴んで一緒に魔法陣に侵入した。
――筈だった。
なのに、魔法陣を潜る瞬間、ゴンッと頭をぶつけたような衝撃が体全体に伝わって。
気が付けば、『夢幻泡影』と『無頼』の五人だけが魔法陣を通って行ってしまい。
すぐに後を追って魔法陣へ入ろうとするも、まるで侵入を拒むかのようにぶつかるばかり。
そうして、目の前で魔法陣が消えてしまったせいで、アメノサは一人途方に暮れることになった。
「ご飯……美味しいご飯……」
食べられるはずだった、けれども食べられなくなってしまったカケルの居る場所で食べるご飯。
きっと、今日も驚くほどに美味しい料理が出ていたはずだ。
そう思うと、涙があふれ出てくる……訳もなく。
「理由があるはず。私だけが拒まれた理由が!」
アメノサは立ち上がり、すぐに自分だけが弾かれた理由を探すことを決意。
一度自分の執務室に戻り、そして……。
「カケルへの防がれた吸血行為三回、くすねようとして持ち込めなかった謎の液体調味料が四回。ならばとカケルをおだてて持ち帰って来た例の物が一回……どれだろう?」
神様がこの場所に居れば、
「全部じゃ! バカモン!!」
と怒鳴る行為を書き出し、首をひねるアメノサ。
なお、現在この異世界の神様は翔宅にお邪魔中なのでアメノサの言葉に反応することはない。
……果たして神様がそれで務まるかは疑問の余地しかないが。
「仮にどれかが影響していると仮定して、その影響でカケルの場所に渡れないとするなら……邪魔しているのは誰?」
まず思いつくのはカケル本人。
ただ、対面したからこそ分かるが、カケル本体からは全くと言っていいほど脅威は感じられない。
カケルを取り巻く雰囲気がヤバ過ぎるだけだ。
であるならば、その取り巻く雰囲気を作り出した本人から拒否られていると考える方が自然。
……で、この場合にそれに該当しそうな存在と言えば……。
「神様」
神の御使いであると考えられるカケルにしかちょっかいをかけていない以上、怒るのは本人かそれより上の存在。
となるとアメノサは神の意志で翔宅から弾かれたということになる。
そうなると、アメノサが許しを請うのは神様に対してであり……。
「とりあえず、ワイン。あとは……バハムートの血?」
ご機嫌取りの為に、ワインを捧げなければと考えて。
「今日は、歯を食いしばって我慢する。明日は、仕事をやりつつ教会に行って、神の許しを得るまでお供えと祈りを繰り返す」
既に外は暗くなり、教会も新たな捧げものや祈りを受け入れてはくれない時間帯。
「はぁ……。そう言えば、ようやくうちらが引き込んだ職人がお店を出したんだった……」
割り切ったアメノサは、前回大会で唾を付けた料理人が出した店へ足を運ぶ。
店の看板メニューはもちろん、ラーメ――ラメーンである。
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