第570話 決まっちゃったか……

「なんじゃこれは?」


 と、自分の前に置かれたグラスをまじまじと見つめるガブロさん。

 それもそのはず、グラスの縁に塩が付着したスノースタイルは異世界には無いだろうからねぇ。


「ソルティドッグというらしい。塩を舐めて飲んでも良し、塩をカクテルに落として飲むもよし、好みだそうだ」

「ふぅむ」


 半信半疑ではあれど、ジンベースで自分の渇きを潤せる一杯に出会ってるからか、まずはそのままグビリと一口。


「ほー。果汁の酸味や苦み、そして塩のしょっぱさが甘さを手助けしとる」


 ソルティドッグも名前有名だよね。

 そして作り方は割と簡単。

 ウォッカとグレープフルーツジュースを混ぜるだけ。

 ちなみにグラスの縁に塩を付けないカクテルだと名前がブルドッグに変化するらしい。

 そんな変化で名前を変えてるからカクテルの種類が無数に増えるんだぞ?

 これだから人間は。


「これ美味いぞ!!」

「お前のはかなり悩んだんだからな……」


 目を輝かせながら言うのはマジャリスさん。

 デザートがいいとかさっきまで駄々こねてたのに、いざ飲み始めたらこうやってテンション上がるんだもんよ。


「チョコレートみたいだ!」

「チョコレートの原料から作られた酒を使っている。それに甘クリームを混ぜたのがそれだ」

「これならデザートとして認めなくもない」


 何様だっての。

 ……ラベンドラさんが作ったのはバーバラってカクテルだな。

 ウォッカとカカオリキュール、それに生クリームを氷と一緒にシェークして作る。

 食後酒やデザートの代わりとして、なんて紹介されてたりするよ。

 なお、アルコール度数は高い部類だから飲み過ぎには注意。


「私のは爽やかなオレンジのお酒ですわね」


 リリウムさんのカクテルは俺でも知ってる。

 あれだ、パイルドライバー。


「スクリュードライバーというカクテルだ」


 惜しいな。紙一重か。


「オレンジの甘酸っぱさでお酒感が綺麗に隠れてますわね。いくらでも飲めてしまいますわ」


 コークスクリューブローもレディキラーと呼ばれる程に飲みやすいけどアルコール度数が高いカクテルで注意が必要。

 あれ? スクリュードライバーか。

 ちなみにソルティドッグもレディキラーに該当するカクテルだけど……飲んでるのガブロさんだしねぇ。

 多分樽で飲ませないと酔わないよ、あの人。

 そもそも酔うんかな? ドワーフって。


「で、俺のはなンだ?」

「スレッジハンマーという名前でな、ま、飲んでみろ」


 促されるままに一口飲んだ『無頼』さん。

 その反応は……。


「くぅ~……。効くなァ」

 

 なんと言うか、堪えてるとか、そんな感じのリアクション。


「かなりアルコール感が強いだろう?」

「ああ。だがうめぇ。口当たりから飲み干すまで何から何までがつえぇしかなりの辛口。だが、それがいい」

「ほとんどベースの酒にライムジュースを混ぜただけだからな」

「それでうめぇんだから全部計算されてるんだろ」


 うわ、アルコール度数30度もあるんかスレッジハンマー。

 文字通りハンマーで殴られたような衝撃とか紹介されてるけど、俺はぶっ倒れる。

 下手すりゃ倒れるじゃあすまないかもな。

 材料もウォッカの方がライムジュースより多いし、そりゃあ強くなるよ……。

 多分一生縁が無いカクテルだな、俺には。


「私、マジャリスのチョコみたいなカクテルが気になりますわ」

「俺はリリウムのオレンジのカクテルが気になる」

「『無頼』が飲んでたのをわしにも」

「とっつぁんが飲んでたのをくれ」


 ちなみに飲み終わったら恒例のカクテル交換タイム。

 交換する先ももはやお決まりのペアである。

 ……あれ? 


「そう言えばラベンドラさんは飲まないんです?」

「飲むぞ。今から作る」


 声を掛けたらそうですか、今からですか。

 ……ウォッカとジンジャーエール? そこにレモン汁?


「ウォッカ・バックというらしい」


 ほへー。

 そんなのもあるんだ。


「ちなみにレモン汁ではなくライム果汁にするとモスコミュールという名に変わる」


 あ、それなら聞いたことあるかも。

 ……待て待て待て待て。

 だから! ほんの少量しか入らない果汁が何かによって名前を変えるな!

 だからカクテルの名前が膨大になるんだよ全く……。

 いやまぁ、身体の大きさで同じ魚の呼び方を変えてる人種が何言ってんだって話ですけどね?

 

「爽やかな香りと辛口のジンジャーエールのおかげでスルスルと飲める。ベースの酒が癖が無いおかげだな」

「その酒ももうすぐわしらの世界で作られ始めるじゃろうて」

「なぁ、今度開く飯の大会ってのは内容決まってンのか?」


 カクテルを飲みながら四人にカクテルを作るラベンドラさん。

 そんなラベンドラさんに、『無頼』さんから声が掛かり。


「何も決まってない。内容どころか開催日時すらな」

「だったらよ、出来たての蒸留酒を使ったカクテル大会なんてどうだ?」

「……ほぅ?」

「詳しく」

「俺ら以外に蒸留酒や、カクテルについての知識を持つ奴なンて居ねぇ。つまり、全員文字通りゼロからのスタートになる。そン中で、酒同士やジュースなんかを混ぜ合わせるセンス、それらが抜けた奴のいい選抜になるンじゃねぇか?」


 『無頼』さんの考えが共有されていく。

 ……ところで、日本には岡目八目、あるいは傍目八目という言葉がある。

 当事者ではなく、それを脇で見ている人の方が物事を冷静に分析できるという言葉だけど……。


「それ、カクテルや蒸留酒を知ってる『無頼』さんが審査員になって酒飲みたいだけでしょ」

「……バレたか」


 きっと、こういう時に使う言葉なんだろうなぁ。

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