十四話 (レオンハルト視点)
チップの埋め込みは終わり、先ほどまで苦しそうだった青年からは随分と落ち着いた寝息が聞こえる。そして、レオンハルトはまだベッド脇に座っては頭を抱えていた。
「不味いな」
手に残る頬の柔らかい感触や温かさ。言葉にしたくなるほど、レオンハルトはある事を一つ心の中で引きずっていた。
イナミ隊長じゃないの、分かっているのに
ため息が指の間を抜けていく。
レオンハルトはこの青年と会話するたびに思い出すのは、イナミという好きだった人間の影。別人だと分かっているのに、どうしても存在がチラついては掴みたくなっては離したくなくなる。
「彼は違う」
言葉や考えで否定するたびに、一緒にしていると自分の中で明確になっていくのが虚しい。まるで二股をしている気分になっては、自分を酷く嫌悪した。
「ハル……」
呟く声に反応して体がビクッと跳ねた。
声がするベッドを覗いてみると、まだ安らかに目を瞑り眠っている『リリィ』がいた。
邪な感情に気づかれたと思っていたレオンハルトは胸を撫で下ろした。
「一体君は誰なんだろうね」
傷一つない頬を手で摩れば、もっとと言わんばかりに頬が手に吸い付いてくる。
本当は誰だっていい。
もう、分かっている。俺は確実に彼に惹かれている。
あの人がまだ心の隅にいるというのに、欲とは厳禁なものだ。
そういう歯の浮く様な話をしている場合じゃないと分かっていても、何をしてもいいから目の前の青年が欲しいと思う。
だから、つい目で追ってしまう自分がいる。新しい表情を見つけるたびに脈や鼓動が早くなっては体が熱い。
全てを知りたい、自分だけを知っていて欲しい、会話を重ねるたびに気持ちが大きくなっていくのを感じる。
たかが嫉妬で口奪って、タガ外れた時の自身は一体何をするのか。
欲しい、駄目だ。
だからといって、眠っている相手に手を出しては男として、人としてどうかと思う。
「だから早く、目覚ましてよ」
薄茶の髪の毛を解かすように頭に触れた。
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