脳裏際脳裏裏脳髄近郊水底村
我社保
怪の一
第1話 マーメイド号に乗って
高校生になると、一人暮らしがしたいっ! と両親におねだり。
高校に近い街中にあるボロボロの古アパートの一室を借りた。
六畳一間のフローリング。三坪ほど。
決め手は家賃の安さだった。家賃は四万円。親の仕送りや、アルバイトで貯めた金でもなんとか余裕を持って生活できるいい部屋だった。
街の大通り側にある窓に沿ってローデスクを置いて、学校から帰ると、そこに腰を下ろして、勉強をする。
課題を終えて予習をある程度行ってから、本を読んでいると、高校の先輩、
倉田パイセンからこういうお誘いをしてもらう時はだいたい奢りなので、俺は喜んで部屋を飛び出した。
しっかりと鍵をして、錆び付いた駐輪場にある自転車「マーメイド号」に跨がって、倉田パイセンが指定したラーメン屋に行く。
「おっす~しむちゃんが来てやったぞクソバカ先輩」
「貧乏な自転車で羨ましいなあ。やっぱり廃墟で拾ったのか?」
「おっ、死?」
別に不仲という訳ではない。
これが俺と倉田パイセンのコミュニケーションだった。倉田パイセンはめちゃくちゃ頭が悪く、スポーツの才能しかなく、それで大学を目指しているイカレた奴であった。
俺が一年生の頃にこの男に出会い、散々格闘技やらスポーツやらを付き合わされた為、怒りは危険な領域に達していた。
倉田パイセンの背後に男がいた。うちの制服で一年生のようだった。
「誰すかそいつ」
「後輩の
「え、そいつもいるんすか? 俺あんま知らん奴と飯とか食いたくないんですけど」
「僕も別に猿みたいな人とご飯とか食べるの慣れてないです」
「あれ、え、喧嘩……?」
俺達はなんとなく気が合いそうになかった。きっと、佐々木祐樹も同じ事を思っていたろう、と思う。
とてつもないくらいに。
店内に入って、昔ながらの醤油ラーメンとを注文して、店内に置いてある昔の野球漫画を読んでみる。
「そういえば」
佐々木祐樹が答える。
「倉田先輩、この人が
「先輩な。後輩に敬称省略される筋合いねーから」
「ないのは筋合いじゃなくて知能でしょ」
「自己分析が完璧なこって」
「すいません、あなたに感情移入したことないです」
一旦話は置いといて。
「志村、お前旅行しないか」
「旅行すか? あーいっすね。それがどうかしたんすか」
「俺と、こいつと、お前で海に行こう。もうすぐ夏休みだろ」
「いっすね! 佐々木ィ、仲良くしようや」
「襲われそうで怖いです」
「恋人いるから浮気とかは絶対にしないんだよなあ」
俺の恋人……形式上のもので、事実上あんまりラブラブではないけれど、一応俺には恋人がいた。
名は
どういう経緯で付き合いはじめたのかはわからない。気がついたらそういう事になっていたから、そうらしい。
時折聞いてみるが、どうもまだそれは続いているらしい。
恋はしたいが、此方から先に他の奴にお手々を出したとなるとプライドが傷付いてまるで俺が軽い男であるみたいなフウの風評が流れ出してしまいそうなので、俺はいまだに浮気というものの一つもしたことがない。
夏は暑い。
「こいつはプライドが高いから浮気というのをしたくないんだ」
「へー。きっとされてますよ」
「お前ほんま殺すぞ」
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