人外の者、人助けする羽目になる

八田甲斐

第1話 Hiyori

 十一月初旬の深夜。

 G7に加わる欧米諸国からの来賓らいひんを迎えた東京は厳戒態勢げんかいたいせいにあった。

 その最中、国会や官公庁などが密集する霞が関かすみがせき近辺の上空を警戒していた警視庁の無人航空機対処部隊むじんこうくうきたいしょぶたいが不審なドローンらしき飛行物を感知≪かんち≫したのは午後十一時過ぎである。直ちに警戒態勢を強化し、対処部隊は小型レーダーなどを駆使して不審飛行物を追尾、緊急出動した警察ヘリ一機が急行する騒ぎとなった。

 同時に警視庁は海上保安庁、防衛省など関連各署に霞が関上空に不審機が飛来≪ひらい≫した事を報告。だが、日本の領海りょうかいや上空を監視する海上保安庁も防衛省も海上、上空とも国籍不明の艦船かんせん、航空機は見当たらないとの連絡を返してきた。

 霞が関上空に飛来ひらいした飛行物体が、どこの所属で、何が目的なのかを考えさせる暇もなく、飛行物は霞が関上空から芝浦しばうら方面へ悠々ゆうゆうと向かい始めている。

 まるで観光で東京の上空を飛んでみましたというような、速度を上げるでもなく、進路を細かく変えるでも無く、かなりゆっくりした速度で東京タワーの東側を抜け、海岸沿いへ向かっている。

 浜松町上空でレーダー誘導により追いついた警察ヘリは、「対象は鳥のような物」という報告後追跡を開始したが、追跡されていた飛行物体が突如とつじょ急転回し、さらには追跡していた警察ヘリのテールブームが折れ曲がるほど破損はそんさせたため、ヘリはほとんど制御不能におちいり、近くの小学校校庭へ不時着ふじちゃくした。

 不審飛行物はヘリ襲撃後、極めて低空を飛行し始めたらしく、レーダーの追尾から消えた。

 翌日のニュースでは、東京上空に現れた不審飛行物に関する記事はなく、ただ、故障を起こした警察ヘリが小学校の校庭に不時着した事だけが報じられた。


 ―誘拐―

 鮮やかな光に包まれた通り一つ奥に足を踏み入れると、そこは闇が支配する所だった。

 ここは渋谷の繁華街の一画で、明るい光に満たされた表通りも、闇が支配する裏通りも、良く見れば怪しげな人間がそこかしこにうごめいている地帯となっている。

 俺の知っている頃の東京にも、こんな場所は幾つもあったが、その土地その土地には暗黙の秩序が維持されていたように思う。だが、今のここには、そんな秩序などは無いようだった。

 酒としゃ物の匂い漂う暗い路地には、一見して怪しい者がたむろしており、俺のような場違いなが来るのを手ぐすねを引いて待ち構えている、そんな感じの場所である。

 俺がしばしばこうした繁華街の裏手に足を運ぶようになったのは、ほんの気まぐれであった。

 目覚めて間もない時でもあり、気持ちは殺戮さつりくを繰り返していた原初げんしょの頃のものに近づいている。それを解消しなければならない。

 その手段として、ここらの光と闇の対比に興味をかれ、闇の支配する路地に入り込んだのがきっかけだ。

 東京の闇も、だいぶ地獄に似てきたものだと思いつつ、ゆっくりと路地裏を歩んでいると、と俺を値踏みするような視線を何度も浴びることになった。

 その視線は不快でもあり、一方では暇を持て余し、え始めた俺の心にどす黒い衝動しょうどうをもたらしている。

(殺してしまおう)

 そんな感情だ。

 だが、路地裏を歩く俺にからんでくる者はいなかった。

 だが、徒党ととうを組んでいる者は別だ。俺の得物えものはそいつである。

 折しも八人余りの男が道端いっぱいに並んで、俺と対峙たいじするように歩いてきていた。

 恰幅かっぷくの良い男、痩せた男、背の高い男、低い男を取りぜた集団で、何やら大声を上げたり、下卑げびた笑い声を挙げて、まるで怖い者はないという風情ふぜいで歩いてくる。

 道を譲ろうと言う気はない、それはあっちも同じだったらしい、俺と集団の距離はどんどん縮まり、遂には互いの顔が良く見える距離まで迫っている。

「……どけよ、じじい」

 八人の中の一人がそうすごんだ。

 俺の頭を見てそう言ったようだが、「じじい」と呼ばれる筋合すじあいはない。

「そちらが退け」

 最も恰幅の良い男と鼻を突き合わせるまでになって、俺はそう答えた。

 男はへらへらとした表情を浮かべ、隣や後に控えている仲間と顔を見合わせている。そしてやにわに掴みかかってきた。

めた言葉をほざいてるんじゃねえぞ」

 俺が纏っている「トンビ(外套がいとうの一種)の襟を両手で掴み、少し顔をしゃに構えてにらみつける。

「舐めたのではない、お前らが邪魔なだけだ」

 男は短髪で顔や首の辺りにびっしりと刺青いれずみを入れており、こういったあらそいにははったりと恫喝どうかつが一番だと思い込んでいるやからである。

「言ってくれるじゃねえか…」

 刺青の男が俺を押し返そうと力を込めたらしいが、一歩も下がらすことが出来ないため、舐めきってのぞき込んでいる男の目に、怪訝けげんの色が浮かび始めた。

 事の成り行きをへらへら笑いながら見学していた残り七人は、いつもと違う様子に気付き始めている。

 易々やすやすと自分の思うがままにできると思っていた刺青の男は、どんなに力を込めても動かぬ俺にいつもと違うと思い始めたのだろう、「てめえ」とうめいた。

「じじい、殺すぞ」

 男たちの何人かがわめいた。

 俺はその言葉を待っていた。こいつらは俺を殺すと言った、言ってはならぬ言葉だった。

「死ぬのはお前達のようだなあ」

 刺青の男がはじかれるように、した店の壁に叩きつけられた。男は壁に背をもたせ掛ける格好をしていたが、やがてごろりと刺青の入った頭だけがべたに落ちた。その切り口から鮮血が吹き上がり、店の壁を汚していく。

 頭を落とされた当人も何が起こったのか分からなかっただろうが、まわりで見ていた男達も同じようだった。

 呆然ぼうぜんと立ちくす男たちの間をすり抜け、彼らの背後に抜け出た時には、残りの七人の身体はほぼ分断され、地面に崩れ落ちたにも関わらず、何が起こったのか分からぬように、切り離された胴体に残る腕や足を痙攣けいれんさせている。

 これまで事の成り行きを見つめていたであろう路地の住人たちが、惨状さんじょうに騒ぎ始め「警察だ、警察を呼べ」と口にしあっている中、俺はその場を去った。


 少し反省をした。俺の取った行動は、死んだ男達と何ら変わらない。言いがかりを付けるか付けられるかの違いだ。

 暇を持てあましてらぬ殺生せっしょうしたのかもしれない。やり方を変えねば、そう思った。

 そこで、今度は慎重に繁華街の裏道に潜み、不正や暴力をもたらしているやからを探し出しては始末することにした。

 つまり誤って裏道に迷い込み、災難を受けている者、暴力を振るわれている弱者達を見つけては、その加害者を始末していくことにしたのである。

 しかし、一つの所でそんな場面に出くわす事はそうそう無く、俺は東京の数多あまたある繁華街へ夜な夜な出掛けては、始末するという行動を繰り返した。

 そんな事を続けていくうちに、「路地裏の殺し屋」という別名が俺に付き、警備が厚くなり、「路地裏の殺し屋」を恐れるあまり繁華街全体の治安が上がるという効果をもたらし始めたようで、逆に俺の出番は次第に無くなっていった。

 俺は再び無聊ぶりょうこつこととなってしまった。

 

 暇だ。まったくもって暇である。

 なんせ、やることがない。だからこうして日がな一日、散歩をする毎日だ。

 以前と比べ、気分も落ち着きを見せ始めており、目覚めた当初のあらびた気分は影をひそめている。

 こうして東京のど真ん中に巣を構えて早一月、俺が知っている東京とはまったく様相ようそうが違っていて、いまだだ馴れない。

 なんだこの車の多さは、昼夜ちゅうやを問わず途切れることなく走り回るさまを見ていると、いらいらしてくる。

 それに俺の知っている東京の空気と全く違っていた。何かよろしくない物が街中を覆っているかのようだった。

 師走しわすに入り寒くはなったが、あの頃の寒さとは幾分違い、「トンビ(コートの一種)」を羽織って表にでると、暑いくらいだ。

 三月前から新富町に俺は巣を構えている。まあどこでも良かったので、ここに空きがあるということから、巣を構えた訳だが、失敗だったかなとも思っている。

 巣の周囲は目もくらむほどの高いビルディングが建ち並び、空が本当に狭いので、書き割りの絵を空にはめ込んでいるのかと思う程だ。

 流石にステッキと山高帽は被っていないが街行く者も、何やら軽妙な服装が目立ち、俺の服装とは大きく違う。俺の恰好が可笑しいのか、不躾な視線を投げかけて来るのも閉口した。

「何あれ、随分古いファッションじゃない」

 といった若い女たちの言葉も結構耳に入ってきてしまう。

 声の方を睨み付けると、一旦驚いたように俺を凝視し、そして慌てて声の主たちは視線をらし、足早に立ち去りながらひそひそと語る声も聞こえる。

「でも、イケメン」

 イケメンとはなんだ。そのような言葉を俺は知らない。

 明け透けに意味の分からぬ言葉で俺の感想を述べる女どももしゃくさわる。

 ついには、この時代に目覚めた事が失敗だったのではないか、そう思うこのごろである。


 その日も北風の強い一日だった。少し寒いが夕暮れ太陽がビルに隠れ、影絵のようになった景色は中々に美しい。

 夕刻、散歩も飽きたので、「新富町しんとみちょう沿いにあった堀を潰して敷かれた道が合流する交差点を左に曲がり、我が巣に戻ろうとした時だ。

「いりません、……やめて下さい。迷惑です」

 広い道を一つ外れると、ほど高いビルディングに挟まれるように狭い路地が多くなる。表に比べ、この辺りは比較的人影が少ない。

 道端に鉢植はちうえの花など(今は枯れてしまっている)が並ぶ細い路地に入る手前で、若い男と女がめていた。

 男は一見真面目そうな若者で、少し長めの髪をし、身体が膨れ上がって見える茶色の上着を身に着け、女の方は女学生のようで、長身だが線が細く、黒縁の眼鏡をかけていた。

 彼女がもう一度「やめて下さい」と叫んだようだ。

 俺は通り過ぎようと思ったが、女学生が恐怖と嫌悪けんおで身をすくめていることを知って、何んとなく足を止めた。

 俺と二人の距離はまだかなり離れているが、二人の声は明瞭めいりょうに聞こえる。

「なんで、僕は白河さんにプレゼントを上げようとしているだけだよ。昼からずっとここで君がくるのを待っていたんだ」

 こちら側を向いている男は満面の笑みを浮かべて女子学生を見つめ、小さな紺色の小箱を手にしていた。

「……だから、もうそんなことはしないでください」

 若い男の発する声に比べ、女学生の声はまるで消え入りそうな声である。そう述べただけで、胸にあった気力を一気に使い尽くしてしまったようだった。

「なんで、僕の気持ちは分かってるだろ。それに前は受け取ってくれたじゃないか」

「あれは、驚いて思わず貰ってしまっただけで……」

「でも、貰ってくれただろ。僕の気持ちが君に通じたんだ」

 相変わらず、少し粘着質ねんちゃくしつの笑顔を顔に張り付かせて、男はうつむいてしまった女学生の顔をのぞき込みながら言った。

「……そんなこと」

「なのに何で、僕に迷惑だなんていうんだい」

 笑みは貼りつけさせたままだが、少し語気が強くなった。

 女性学生はさらにすくんでしまったようだ。

「……勘違いです。私はあなたに……」

「そんなに恥ずかしがるなよ。君の気持ちはよく分かってるんだ、僕は」

 女学生の言葉に押しかぶせるようにそう言い、小箱を持っていない男の左手が、女学生の右肩に置かれ、彼女は肩を反らしてその手を外そうとした。

 男の手が彼女を捉えるように力が加わっていく。女子学生は明らかにおびえていた。

 俺は一旦止めていた足を再び運び始めた。男のニヤニヤ顔が薄気味悪うすきみわるかった。どう見ても、女子学生は嫌がっている、だが男は自分の願望だけに捉われ、それに全く気が付いていない。

「若いの、どうやら勘違かんちがいのようだぞ」

 二人に俺が近づいていくと、男の目が俺に移り、そして女学生の方も声の主である俺を横目でみた。

 その目は助けを求めていた。

「関係ありませんよ、僕たちはこうして……」

 これまでに通行人の幾人いくにんかが、俺と若い二人に注意を向けながら通り過ぎたが、介入しようと言う者はついぞ現れなかった。

「嫌がっていることを気付かないのか」

「そんなことはない、……ね、そうだよね」

 黒縁メガネの女子学生は、さらに縋るような表情を濃くしている。

「僕ら、付き合っているんだよ。……それが分からないの」

 女学生が俺の方に顔を向けたままなのにイラついたのか、手に持っていた小箱をポケットに押し込み、両腕を彼女の肩に置き、自分の方へ引き向かそうとした。

 俺に首を小刻みに振った女学生を見て、自分の推論すいろんは正しいと感じた。

「いや、やはり勘違いだ。その子を見れば分かる。その肩の手をどけろ」

 出来るだけ落ち着いた静かな口調で男に警告を俺は発したつもりだ。

「関係ないだろ、邪魔するなよ」

 男は引きつった表情を浮かべつつ、俺に抵抗を示す姿勢を崩さなかった。

 それほどこの女学生に執着しゅちゃくしているらしいが、その訳をどうしても俺は理解できない。

 だんだん面倒くさくなってきた。それに人から抵抗される事も好きではない。

「理をわきまえろ。その子が嫌がっているのがどうして分からぬ」

 トンビの裾を跳ね上げるとバサリと翼を広げる鳥のような音を立てた。トンビの中に腕組みをして仕舞っていた手を伸ばし、俺は彼女の肩に乗せられた男の手を乱暴にはずし、すぐさま彼女の二の腕を掴むと俺の背後に移らせる。跳ね上げられたトンビの裾が女学生の身体は俺の背後ですっぽりと隠れるようになっている。

「今まで紳士的に話してきたつもりだ。それに俺は気の長い方ではない」

 一対一で対峙たいじする格好になり、俺は男をにらみ付けた。

 あまり見せたくはないが、こんな時の俺の瞳は虹彩こうさいが広がり黒一色になる。それをまともに男は見ることとなった。

 最初、あっけに取られたような表情を浮かべたが、続いて強い恐怖を感じたらしい、男は一歩二歩と後ずさり、背を見せて俺たちから逃げ出した。

 男の姿は赤い乗り合い自動車が走る十字路に消えていった。

 再び十字路に男が姿を現すのではないかに見つめていたが、そのような気配はなく、男の足音もさらに遠ざかりつつあった。

「これ、男はんだぞ」

 腕をトンビの下に仕舞い後ろに隠れている女学生を振り返ると、彼女は背中に背負う雑のうの帯を握り締めている。その手が小刻みに震えていた。

「安心しろ、たぶん戻ってはこないと思うぞ」

 初めてしげしげと俺は女子学生を見つめる事となった。

 長身だが腕も足も胴体も細い、従って首に架かる程度まで伸ばした黒髪が乗った頭も小さく、俺の掌で彼女の頭を摘み上げれそうだ。

 目が近いのか黒縁メガネのぶ厚いレンズに隠れた瞳は大きく、目鼻立ちははっきりとしている。だが、黒縁メガネの影響で、顔全体が特徴のない地味な雰囲気となったいた。

「大丈夫かの」

 まだ怯えている女学生に俺ははげますように声をかけた。

「……ありがとうございます」

 身体も細いが、この時発した彼女の声も細かった。

「さ、帰れ」

 再び縋るような表情で俺を見上げてきた彼女の頬が血の気を戻し始めてきたようだ。

「ん? さあ、帰れ」

 聞こえなかったかと、もう一度同じ台詞せりふを言った。

「……」

「住いは遠いのか」

「……新富橋のすぐ向うにあるマンションです」

「ああ、子供達が良く遊んでいる広場にあるビルディングか。なら近いではないか」

「でも、あの人が家を知ってます」

 なるほど、追い払われた男がそちらで待ち構えているのではないかと思っているのだ。確かに男は新富橋方向に消えた筈だ。

「では、住いの近くまで送ろうか」

「お願いします」

 即答だった。俺が目的地の新富橋方向へ足を向けると、ちょこちょこと女学生は付いてきた。

 赤い乗り合い自動車を見かけた道に出ると、俺たちは左に折れた。この道は結構人通りも車も多い。

「名前は」

 弁当屋の前を通り過ぎた時、俺は女学生に訊ねた。

「……白河日和しらかわひよりです」

 聞いた彼女の名前を反芻はんすうしながら、俺は首を傾げた。

「どのような字を使う」

 最初は俺の問いかけの意味が分からなかったようだが、すぐさまどう書くのかきいてきたのだと気づいたらしい。

「しらかわは、白いに大河のがで、ひよりは日にちのひに昭和の和です」

 何時いつの間にか白河日和と名乗った女学生は俺と肩を並べるように歩いている。思いの外大胆な娘のようにも見えた。

「……日和と書いてひよりか。ふむうたいの文言もんごんみたいだの」

「変ですか」

 メガネのため、一見分かりにくいが、日和の表情は良く動く。この時は、本心は心外だと思っているものの、他の者からもそう言われる時が多いのだろう。多少憮然ぶぜんとした表情を浮かべていた。

 話題を変えるべきだと思った。

「あれは、いつもああなのか」

 俺は逃げ出した男について訊ねた。

「……ここ半年ばかり続いています。最初はそれ程でもなかったんですけど」

「嫌いなんだな」

 新富橋に差し掛かり、橋の左側に花壇と低い木を植えた広場があり、その片隅にガラス張りの小屋が設置されている。

 小屋には結構な人数がこもっており、そこで煙草を吸っているようだ。

 俺は吸わぬが、以前は至る所で煙草を吸っているのを見かけた。ここに来てとんと見なくなったのは、この辺りの煙草飲みが、ああした小屋の中で吸うようになっているためらしい。

「嫌い、しつこくて恩着せがましいから」

「ふうむ、この時世では押しの一手というのは効かぬのだな」

 橋を渡り終えると、木々に覆われた広場があり、その奥に高いビルディングが聳えていた。

「あそこか、お前の住いは」

 俺は顎でビルディングを指し示すと、日和はこくりと頷いた。

「あのマンションです」

「大きな所に住んでいるな」

 ビルディング全体が彼女の住いだと思ったのだ。

 最初俺が何を言っているのか日和は分からなかったようだが、俺がマンションとやらを一つの住宅だと勘違いしているのに気づいたようだ。

「ちょっと違うけど……」

「では、なんだ」

「あそこにはたくさんの人が住んでいるんです。私の家はその中の一つ」

「ふむ、俺が住んでいるところと同じか、いわゆる文化住宅だな」

「……文化住宅? なんですか、それ」

「文化住宅と言わんのか、ではアパートか」

「マンションです」

 ここでまた面倒くさくなった。俺にとって呼び名がどうなのかは、あまり関係ない。いつかまた、長い眠りに入るのだ。目覚めた時、呼び名が大きく変わっているのはいつもの話だ。

「ん、マンションな」

 そう同意し、話を切った。

 ちょうどその時である、広場の中にいたのであろう、日和と同じ制服を身に着けた一人の女学生が「日和」と呼びかけながら、小走りで近づいてきた。

 日和は「あっ」と声をあげ、そして胸元で小さく手を振った。それが妙に可愛かわいらしい。

「知り合いか」

「友達、待ち合わせしてたんです」

「そうか」

 近づいてきた友達だと言う女学生は、小柄で髪を金色に染め、日和のそれとは違う短めのスカートを穿いている。血色の良い太腿が丸見えだった。

「遅い、それにあいつを見かけたし、心配したよ」

 はずむような口調で女学生が日和に言った。

「ごめん」

 そう日和は友達に向けてそう答え、俺を見上げた。

「ありがとうございます」

「ああ、では気を付けて帰れ」

「はい」

 日和は友達に向かって歩き始めた。

「おい」

 その後姿に俺は呼びかけ、日和は振り向いた。

「ああは言ったが、なかなか良い名だとおもうぞ」

「……ありがと」

 明るい笑顔だった。

 友達と合流し、住いの方向へ去っていく二人を何とはなしに見送っていると「だれ、ひなの恋人、すげえイケメンじゃん」などはしゃぐ友達の声と、「違うってば」という日和の声、そしてキャラキャラと二人の笑い声が聞こえた。

 こもう会う事もないだろうし、これで終わりだと思っていた。

 だが、事態は少し違っていた。


 日和と言う娘に会ってから、三日ほど過ぎた。

 今日は日曜日だということで、街には人気が少なく静まり返っていた。

 俺は相変わらず暇を持て余している。仕方ないのでいつものように散歩にでるつもりでトンビを羽織ると、ふと日和の事を思い出したていた。

 あれは今何をしているのかと考える。すると彼女が一人で歩いている姿が脳裏に浮かんだ。辺りの風景からして、それほど離れていない所を、というより真っ直ぐ俺の巣の方向に来るようだった。

 これにはちょっと驚いた。いつの間にか日和と縁をつないでしまったらしい。こうなると、縁を繋いだ者がどこにいて、何をしているのかが分かるし、縁がさらに深まると離れていても直接話しかけることも出来るようになる。

(ちょうど良い。あれを誘って、散歩をするかな)

 俺と縁を繋ぐとどうなるかだが、好むと好まざるにかかわらず、その者を俺は「式」として使えるようになる。

 かなり前ではあるが、俺も「式」を使っていた時期がある。

 あかねと名付けた「式」だった。かなり便利に使っていたのだが、ある事態で俺は茜を失った。

 あの時、茜の変わり果てた亡骸なきがらを前に、俺は二度と「式」は使わぬと誓ったのだ。

 以来、茜を亡き者にした者だけは見逃しはしないつもりだが、何時いつも後一歩のところで取り逃がしていた。

 前の時も、奴に損害を加え、消滅しょうめつの手前まで追いめたが、大きな天災が起こりでその機会を逃している。

 考えてみると、日和はどことなく茜に似ているのだ。だから、知らず知らずに縁を繋いでしまったようだった。

 幾分の戸惑とまどいと縁を勝手に繋いでしまったことへの罪悪を感じながら、安楽椅子あんらくいす一つだけの巣からトンビを羽織はおり階段を降りた。

 住まい、というより巣として宛がわれた部屋は文化住宅の最上階である四階だが、俺の存在を隠すためもあり、部屋と直結する階段で一つ下の階に降りるようになっている。出入り口は集合住宅の納戸みたいな空間で、そこの扉から出入りするのだ。

 住んでいる文化住宅は、俺を含め各階に二世帯づつ人が住んでおり、俺の隣は若い子連れの夫婦者でその者達は隣に俺が住んでいることを知らない、

 何しろそこだけ出入りする扉がなく、その家族にはそこは大家が物置に使っていると説明してあるという。

 これも大東京に俺のような物が生息している事を隠す手立ての一つである。――まあ、そういう事になっているのだ。

 外に出てみると、北風が強く冷え込んでいた。その下を人気のない街の中を歩く、薄桃色のマフラーと白い外套を身に着けて歩く日和の姿を見つけた。

 同時に彼女も俺を見たのであろう、一瞬立ち止まると、続いて小走りで俺のもとに近づいてきた。

(黒縁眼鏡は外さぬのだな、外せば見栄えの良いものを……)

 俺はそう思いながら、小走りで駆けてくる日和を見ていた。

「このマンションに住んでいるんですね。意外と私の家と近いんだ」

 開口一番、日和はそう言った。

 そういった自分の言動を照れたのか、それを誤魔化すためか、俺から慌てて目を逸らすとマンションを見上げた。

「どこへ行こうとしている」

「えっ……、お母さん……母に買い物を頼まれたの」

 手元には紺の地に何やら模様の入った袋と、日和には似合わない茶色く大きな長財布を彼女は持っていた。

「おう、それは偉いな」

「偉いって、……わたし、子供じゃないんですけど」

 おや、この娘は馴れるに従い、俺へずけずけ言ってくる娘になりそうだ、そのような所も茜に似ている。

「日和、お前幾つだ」

「もうすぐ十七です」

「十七歳か、確かに大人だと言っても不思議はないな」

 俺からすれば、胸も薄いし、とした娘にしか見えぬのだが、日和は子供と言われる事がよほど心外なのだろう。

「でしょ……」

 日和は同意を得たというしたり顔を見せてきた。

「ところで、何を買い求めるように言われたのだ」

「……あの、聖路加せいろか病院近くの薬局でビタミン剤とお腹のクスリと、その近くの和菓子屋で菓子の詰め合わせを……」

「そうか、では俺も一緒に行こうかな。聖路加もまだ見ていないしな」

「えっ」

 日和が驚いたような声を上げた。

「迷惑か」

 黒縁眼鏡の顔を覗き込むようにして俺はたずねた時、彼女の睫毛まつげが黒く長いのに気づいた。

「いいえ、……またあんな事があるかもしれないから、助かります」

「ふん、では行こうか。あのあたりだろ」

 踵を返し、今ではまったく様相ようそうが変わっているが、かつて俺が覚えている聖路加病院が建っていた辺りを目指した。

「はい」

 日和はそう返事をした後、一拍置いて、多少おずおずとした調子で口を開いた。

「……あの、叔父さんの名前を聞いても良いでしょうか」

「ふむ、名前か」

 俺は少し考え、ある地名が頭に浮かび上がってきた。

石見いわみという」

 日和は少しに落ちないというような面差しを俺に向ける。

「それは苗字、それとも名前」

「いや苗字なぞではない、俺の名は石見だ。俺のような者は石見と名乗る者が多いのだぞ」

「じゃあ、石見さんですね」

 問答にちぐはぐな所があるのに、日和当人はまったく勘付いていないようだ。

「うむ、そう呼んでくれ。本当のところを言うとだな、俺らには正式な名前なぞないのだ。俺は名無しの権兵衛ごんべえよ」

 後に付いてきた日和は、すぐに俺の隣で歩き始める。風が冷たいせいか、彼女の頬が赤く染まっている。


 新大橋通りの交差点を渡ると、佃島つくだじま方面に向かう道は陸橋となり、その下にも道が複雑に交差していた。この時代の東京は、道が陸地以外に上下に敷かれてしまっており、大量な自動車が幅をかしている。

 そしてちょっとした大通りには必ずと言って走っていた路面電車が一切いっさい見当たらない。

 日和によると、彼女が生まれた時にはもう路面電車は走っていなかったという。

 彼女を伴って陸橋の下を潜り、聖路加病院がある界隈に入ったのだが、そこも大きく様変わりし、摩天楼のようにビルディングがそびえ立つ一帯となっていた。

 日和はその道々、何かに呼び出されるように肩から下げた小さなバックを探り、薄桃色の板状の物を見つめる時があるのに気づいた。

「いま仕舞った物はなんだ」

「えっ、……これですか、スマホです」

「知らんなぁ、なんだそれは」

 知らないという俺に日和は驚いたようだ。

「知らないんですか」

「だから、知らぬと言っている。街行く者が絶えず持っていたり見たりしているのは知っているがな」

「これだけで、電話やカメラ、地図、ナビゲーションといったいろんな事が出来るの。例えば……」

 日和は自慢げにスマホとやらの機能を説明してくれたのだが、その半分も俺には理解できなかった。ただ、便利な物ということだけは分かった。

「俺も持つべきかな」

「絶対、持つべきです」

「手に入れるにしても、面倒じゃないか」

「そんなことありません。簡単よ」

「しかし、どこで手に入れれば良いのか分からん」

「……もし買うなら手伝う。その辺りのショップに行けばすぐですから」

 そこまで話が進み、スマホに好奇心が擽られたが、面倒だという想いも半分ほどある。俺は話を変える事にした。

「あれからどうだ。あの男は現れるか」

 板状の物をバックにしまう日和に訊ねた。

「……遭わなくなったけど、大量のメールと通話があります」

 その答え方は本当に迷惑しているという色がありありと浮かんでいた。

「それに一々応答しているのか」

「いいえ、無視しています」

「それでも奴は未練たらしく送ってくるということだな」

「はい……」

 広い歩道を歩きながら、彼女は頷いた。

 しつこい奴だ、男の風上にもおけん、知らず知らずに俺は義憤さえ覚えていた。

「それを止めさせることはできないのか」

「……はい。できることは私があの人からの連絡をシャットアウトするしかありません」

「ならば、そうすれば良いではないか」

 少し日和の対応がぬるいのではと、多少彼女に対して腹立たしく感じた。あんな男など、り合わなければよいのだと、俺は思った。

「二コ上の部活の先輩だし、今の現役生と繋がりがある人なので……」

「そうし難いというのか」

「……はい」

「困っておるのだろう、迷惑に思っているのだろう」

 彼女が小さく頷いた。

「ならば、関係を断ってしまえ。嫌な男を相手にするなど、時間の無駄だと思うがな」

「……そうした方がいいのかなぁ」

 日和は自分に問いかけるよう、そう呟いた。

「してしまえ。つまらぬ男と拘っている必要はないのだぞ」

 そう俺が言うと、不決断気味にスマホとやら呼ぶ板をバッグから取り出した。

「男の連絡はすべてそこに来るのか」

「そうです。シャットアウトして大丈夫かしら……」

「大丈夫だ。さっさとそうしてしまえ」

 目的の薬局に近づいた時、俺は日和に良く考えもせずにそう言ってしまった。

 それが間違いだったのは、後日ごじつ分かることになる。

 あんな大胆な方法を採ってくるとは、思いもしなかった。


 ―拉致―

 年の瀬が押し迫ってきていた。街はクリスマスだという。

 日和の買い物に同行して十日程経つ。たったあれだけのことで、彼女との縁がさらに太くなってしまったので、俺は出来るだけ彼女に関わらないことにし、あの日から一度も会っていない。

 ただ、日和の事を考えれば、自然と彼女が今何いまなにをしているのかが分かる。

 前にも言った通り、俺は日和を「式」にするつもりはない。あんな思いをするのはたくさんである。

 しかし困った事に、日和は俺の心に食い込んでくる。彼女自身が俺との縁を望んでいるかのようで、いくらこちらが拒んでも、どういう訳か日和もまた俺の事を考えるので、はからずも繋がってしまうのだ。

 一度など日和が湯船で俺を想ったらしく、彼女鏡に映った姿が見えてしまい、慌てて断ち切ったこともある。

 まだ、大人になり切ってい無いような、それでいて充分蠱惑じゅうぶんこわく的な肢体したいであったのは確かである。

 俺の「式」になって、何も良い事はない。十中八九、悲惨な最後が待っている。

 それが分かっているので、今では彼女の思念が飛んで来たなと感じると、強制的に断ち切っていた。

 その日俺は安楽椅子上で、日がな一日うずくまっていた。

 夜のとばりが降り、巣の中は暗闇に包まれているが、俺には関係ない。暗闇の中で物を見ようとすれば明瞭に見えるからだ。

 俺にとって暗闇は、ただ暗闇という名の空間にすぎない。

 夜はそれほど深まってはいない頃である。激しい日和の思念が俺の脳裏に入り込んできた。

 日和からの恐怖、混乱とあせりともに、日和が見ている光景が俺にも見えた。

 彼女の目を通して、俺の目の前に四十がらみの小ざっぱりとした身なりの女性が男に羽交はがいめにされ、男の右手がその女性の右肩と胸の間に取っ手の太い刃物を突き立てている。

 二人の背後に炊事場すいじばらしき物が見えた。

 刃物が突き刺さった傷口から血が滲みだし、女性の白い服を染め始めている。

 刺した男は、日和に付きまとっていた男であった。彼は切羽詰せっぱつまった表情をし、何かにかれたように目を見開き、こちらを凝視ぎょうししている。

「やめて、……お母さんを離して」

 今にも泣きそうな声で、日和が叫んだ。

「君が悪いんだ、君が僕の誠意を無視し続けるからこうなるんだ。僕は悪くない」

 事態が発生しているのは、どうやら日和の家の中らしい。

 どうしてこうなったと思っていると、羽交はがいめられていた日和の母親の右手が男に伸び、その顔半分を爪で掻きむしった。

 獣のような咆哮を上げると、右手の爪を避けながら刺している刃物をさらに押し込んだのである。

 その痛みで日和の母親が叫び、掻き毟っていた右手が力なく垂れさがった。

「なあ、一緒に行こう。……僕の事を君が好きなのは知っている。それを邪魔しているのが、この女達だと言う事も知っているんだ」

「違う、違うわ」

「いいや、違わない。僕だってこんなことはしたくない。……ね、僕と一緒に行こう、そうすればお母さんは助けてあげるから」

 男の右手は相川らす日和の母親に刺さったままであるナイフのつかを握り締めており、その手が血にまみれている。

 それが母親の血液なのか、刺した際に自分の手を傷つけたための物かは分からない。

「……ひどいわ、こんなこと、ひどすぎるわよ」

 悲痛な日和の叫びを聞きながら、俺はつえを手に取り、トンビを羽織り巣を出た。

 二人のやり取りは続いている。

「うるさい」

 男が怒鳴りつけた。

「君が悪いんだ。僕を焦らすから、僕を無視するから」

 まるで自分を納得させるように、奴は先から同じ言葉を口走くちばしり続けている。

「してない」

「いいや、してる。その罰として、君のお母さんをこうしたんだ……。当然のむくいさ」

「死んじゃうわ……」

「知るか」

 男の顔が悪鬼あっきの表情に変わった。

 その様を見ながら、俺は夜の街を疾走していた。俺を走らせるなど、かつてない事だ、しかも俺は、それ以上の手段を必要ならばるつもりになっている。

「行くわ、だからお母さんを離して」

 馬鹿者、そんな妥協をするのではないと思いながら、俺はさらに足を速めた。

「……じゃあ、こっちへ来い、僕の近くに」

 以前二人で渡った新富橋まで来たときには、日和が男に近づいていくのが見える。彼女の住む高いビルディングが見え始めた。

 日和は男の顔と、ぐったりとした母親を交互に走らせながら、男に近づいているようだった。

「声を上げないで、僕の近くに来るんだ」

 近づいた日和に向けて、握り締めていたナイフの柄から手を離した男のこぶしが、彼女の顔面に飛んできた。

 常人じょうじんではない力だったようだ。拳を喰らった日和の身体が大きく飛び、部屋に置かれていた長椅子のひじ掛けが急速に接近するのが見え、そして俺は彼女との接触を失った。

 日和に何が起こっているのか分からなくなってしまった。

 めったにない事だが、多少あせったみたいだ、幸い、日和の住いはビルディングの八階だと聞いていたので、俺は走る勢いそのままで跳躍し、明りの灯っている八階の窓を目指して飛び込んだのだ。

 まさか、日和の住む八階に別の住人がいるのだとは思いも及ばなかった。てっきり、飛び込めば彼女の許へ行けると思ってしまっていた。

 大きな窓ガラスを破り、中に飛び込み羽を仕舞ってみると、そこには日和もその母親も、奴もおらず、代わりに居たのは食卓に並びあんぐりと口を開けている見知らぬ家族の四人であった。

 その四人がが俺を見つめていた。四人は食事の最中だったらしく、あまりのことに声がでないようだ。

 その四人を一瞥し、懐から笹金ささがね(竹の中に金を流し込んだ物)を一本、ごとりと床に投げた。

「窓の修繕しゅうぜんにでも使え」

 そう言い捨て、廊下の先にある玄関からそこを出た。

 通路に出てみると、白々と灯っている照明の下、廊下の両側に同じような扉が幾つも続いている。これのどこかだ、俺は思った。

 血の匂いがした。

 匂いはここの反対側方向から漂ってくる。日和の体臭が混ざった匂いと、全く知らぬ者の血の匂い。恐らく母親のものだろう。そして獣のような匂いも。

 右手の奥から二つ目の扉から血の匂いがしていた。そこが日和達の住いのようだ。

 ちょうど隣に当たる三つ目の扉が少し空き、男が恐る恐るといった具合に顔を出してき、俺の姿を見て驚愕きょうがくしたまま固まっている。

 俺はその男をじろりと見つめながら、匂いが漂ってくる扉を開けた。

 部屋の灯りはともったままであり、室内は濃密な血の匂いに包まれている。炊事場のある部屋に繋がる居間なのか長椅子などが置かれてある部屋の境目に女が倒れていた。仰向けに日和と似た顔立ちの女である。

 ずかずかと部屋に踏み込み、日和を探したが姿はない。あの男が連れ去ったらしい。そこで倒れたまま動かない日和の母親に近づき、彼女が生きているのか確認した。

 傷口から流れ出でた血が、血溜ちだまり形成しつつあったが、彼女はまだ息をしていた。出血の具合で見ると、刃物は最も大事な血脈は傷つけてはいないようだ、助かる余地はある。

 先ほど外で出会った男が、何事なにごとかと部屋の中で動き回る自分をのぞき見ているのは分かっていた。

「男、医者を呼べ。それからなこれに刺さっている得物は動かすな、動かせばさらに出血する」

 後ろも見ずにそう伝えた。


 日和の気配は感じられない。

 死んではいないとは思う。「式」を失うと感知する嫌な感覚がないからだ。

 彼女と接触が出来ないと言う事は意識を失っているからだと思われた。息をかえさねば、日和の居場所は分からない。それがもどかしい。

 こんな事になるのなら、もっと縁を太くしておくべきだった。死んでいないのであれば、日和の居所はすぐに判明したであろうからだ。

 俺は日和の住いであるビルディングの頂上に立ち、その時を待っている。

 空はくもっているが、眼下の景色は人家やビルディングの灯りが星のまたたきのように見えた。

 そんな風景を上空で見ながら散策するのが俺は好きなのだが、今はそれどころではない。

 地上では大騒ぎだ。明かり明滅燈めいめつとうともした車が大量にビルディング周囲に集まってきており、多くの警官が動き回る中、結構な数のやじ馬も押し寄せ始めていた。

 日和は無事だと思う、だが確証はない。

 彼女によると、一度親し気にしゃべったらストーカーとやら(何の意味だかわからぬが)になったと日和は男について話してくれた。

 そしてついには一方的な想いのまま、日和の母親を傷つけ、彼女をさらったことになる。そこまで執着しゅうちゃくする気持ちが分からない。例え執着したとしても、他にやりようがあっただろうにと俺は思う。

 自分の想いを満たそうと、刹那せつなに動く男を俺は理解できないでいた。


 三十分ほど経った時であろうか、いきなり日和と通じた。彼女は高速で西に向かっているのを感知した。彼女は高速で疾走する何かに乗せられ、両手両足を細く固い紐状の物で縛られ、思うように身動きできないようだ。

 東京の西は山岳地帯にも通ずる。

 ビルディングの頂上に立ち、早速追跡に掛かろうと神経を彼女に集中した。そのため日和の事だけが念頭にあり、周囲への警戒を疎かにしていたのもある。

 そのすきじょうじられ、背中からの打撃を真面まともらった。

 何の警戒もしていなかった所への痛打つうだだ。俺はビルディングからはじき落とされ、翼を展開する間もなく、隣接する広場に植えられている桜の枝を折りながら、地上に落下した。

 辺りは制服を身にまとった刑吏けいり達がようよう集まり始めており、その彼らの集まる真ん中に俺はうつ伏せに落ちたことになる。

 落ちた際の傷は負っていないのだが、落ちている時、むやみやたらに手と足を振り回しながら落下するという醜態しゅうたいをさらしてしまった。自分にも自尊心じそんしんとやらはある、それがかなり傷ついていた。

 突然、空から落ちて来た自分に驚き、周囲にいた刑吏達が呆然ぼうぜんとしている中、身体を起こした俺は、胴回りや太腿に落とされた際に付着した土や枯葉をはたき落としながら、あんぐりと口を開けてこちらを見ている刑吏に怒りの眼差しを向けた。

 変な所を見られたものである。その戸惑いと傷ついた自尊心、そして怒りを抱きながら素早く翼を展開し空を駆けあがった。

 蹴落けおとされる前まで俺が居た所に、宮廷きゅうてい衣装のようなものを纏った奴が、こちらもまた翼を広げたまま腕を組んでおり、さらには小癪こしゃくにもクスクスと笑っていた。

「久しぶりじゃ、みごとに落ちたものだの」

 出会ったのは百年ぶりである。相変わらず派手な出で立ちだ。そしてコロコロと小石を転がすような柔らかな声もそのままだ。

 こいつは若草わかくさ色の小袖こそで緋色ひいろ切袴きりばかまを身に着け、横に張り出したような大垂髪おおときさげに結い、長い髪を丈長たけながわき背中に垂らしている。

「俺は今はちと忙しい」

 傷ついた自尊心を抱えたまま、俺は応えた。

「そのようだの、わたしの気配けはいに気付きもしなかった」

 普段はしとやかな顔つきをしているのだが、俺と相対あいたいする時は大概たいがい、金色に輝く目と大きく割けた口をしている。であるから、俺の印象では、禍々まがまがしい妖物ようぶつに見える。

 そしてこの時は、淑やかな顔つきのままであった。俺より後に目覚めたのか、いまだ本来の力を取り戻してはいないかのようだった。

 始末するならこの時ほど有利な場面はないのだが、俺は日和の事で激怒し、焦ってもいた。奴と時間を喰っている暇はないのだ。

「ふん、またぞろ女に係わって、本来の役目を忘れたか」

 俺を見下すような口調であった。こいつは「鳴子(なるこ)」と名付けられていたが、流れから外れた時から本人はそう呼ばれたくないようで、その名で呼ぶとあからさまに嫌な顔をする。

「忘れたことはない」

「そうか、そうかの、違うと思うがの」

「……」

 日和の意識がはっきりし始めたのか、拘束こうそくされさるぐつわをはめられ車に揺られている光景が目に浮かんでいる。

(時間がない)

 俺はじりじりし始めていた。それが危険な状況に陥らせる事は良く分かっていたが、目の前の敵より、日和に気が取られていた。

「あなどられたものよな、このわたしも」

 そう言った瞬間、奴は大きく跳躍ちょうやくし俺に殺到さっとうしてきた。

 俺の脇をすり抜ける刹那せつな、鳴子が翼を大きく広げたため避ける目算を誤った。鳴子の白い翼が俺の脇腹を切り裂いていた。

「つまらない、つまらないぞ。わたしに後れを取ってばかりではないか。本当につまらぬ」

 脇腹を押さえ、少しふらつきながら後方に飛び退ずさり鳴子を見ようと身体の向きを変える。

 俺と同じく空中に留まっている鳴子が再び殺到してきた。

 今度はかろうじて鳴子の攻めをよけることが出来た。

「どうした、反撃はせぬのか」

 実力はほぼ同等で、僅かに自分の方に利があるに過ぎず、勝ったり負けたりをり返して俺は長い年月をこいつと関わってきた。

 今回は負けを認めよう。

 俺は鳴子に攻めけようとみせて、急展開に身をひるがえし、鳴子を後に残したまま日和の後を辿たどるため全速で空を駆けた。

 鳴子は俺と同等の者だ。俺と同じ目的目的を持っているが、ちといわくがある。

 そのせいで、俺と鳴子は仲がよろしくない。

 先にも述べた通り、伯仲はくちゅうする力量のため、中々雌雄を決する事ができないでいる。何度か俺は鳴子を消滅させようとし、鳴子もまた何度か俺を消滅しかけた。

 力の戻っていなに本当ならば、鳴子を狩るには絶好の好機であったのだ。

 弱体状態にあるあいつを倒すのは容易かったであろう。だが、俺はその好機を逃したことになる。


 そんなこともあり、日和の存在を感じた方向へ飛びながら、俺は激怒していた。好んで散策する東京の夜景も目に入らぬほどに激怒していた。

 何んという取り合わせだ。

 鳴子の登場と、日和の変事へんじが同時に起こるなど、それにあいつが現れたために日和の身に起こった危険の度合どあいは増してしまっている。

 縁を繋いだ者の生殺与奪せいさつよだつは俺にある。それをないがしろにする事は何人なんびとたりとも犯してはいけない行為なのだ。俺たちの一族はそうして暮らしてきた。

 我々が生殺与奪の権利を持つと言う事は、縁を繋いだ者達の平安を我々が護るということ、ひいては我々は彼らの運命に責任をう事ともいえる。

 それがあってこそ「式」を思うままに命令する事ができるのだ。

 東の雲が少し切れ始め、そこから満月とはいかない月が顔を出し始めていた。

 だが俺が辿り着いた日和の居場所は荒廃こうはいとそれに伴い崩落ほうらくしかかった倉庫のような所だった。

 俺の脳裏に日和が見ている光景が流れ込んできた。

 倉庫は山深い所に忘れ去られたように建つ廃墟であり、天井の高い建物の中はこれまた荒廃している。

 その一画で淡い月明かりの中、男は彼女にし掛かっている。

 何をしているのは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

 口を半開きにした男の獣じみた声と、欲望でぎらついた目が目的を果たそうとしていた。

 日和の苦悶に満ちた悲鳴が廃屋に響き渡たる中、それに構わず、彼女の目から映し出された光景は、陶然とした表情でをしたまま上下に激しく律動を始めた男の上半身で、たちまち頂点に達したのかひと声吠えると動きを止めた。

 奴の腰が何かを絞り出すように痙攣けいれんし、快楽を吐き出した男は日和に覆いかぶさった。

 日和の悲痛な鳴き声が俺の耳朶じたを叩いている。

「僕が初めてだったんだね、それでこそ僕の日和だよ。ぼくは嬉しい」

 この男、何をのたまわっておる、お前の汚い身体を日和の上から除けろ。

 言葉で表せない怒りが渦巻うずまいている。茜を失った時と同じだ、いや日和を「式」にはしないと決め、ただ親しい感情だけを保持したがための、複雑な想いも怒りには混ざっている。

 俺は日和の扱いを誤ったのだろうか……。

 俺の想いもむなしく、再び日和の上で動きを止めていた男は、彼女の胸肉から薄桃色のベルト状の物をはぎ取り、むき出しになったまだ幼さの残るような胸に顔を埋めてきた。

 日和は涙に滲んだ瞳を天井に向けたまま泣いており、抵抗をしようとはしない。

 彼女は両手を紐で縛られ、それを上に掲げさせられ、ご丁寧にも、その端をそこらにあった機械のパイプに括り付けられて思うように身動きができないようにされていた。

 そのため、一旦いったん日和の両足の間に男の身体が入り込むと、彼女ができる抵抗のすべはなくなる。もう絶望の声で泣くしかない。

 その声を俺は感じ続けた。

 怒りで全ての機能が研ぎ澄まされ、姿は俺本来の物になりつつある。そんな中で俺は、日和の居場所に到着した。

 やはり、深い山の中といって良い所だった。先ほどまで煩いぐらいまたたいていた街の灯りは姿を潜め、漆黒しっこく占領せんりょうする山に分け入っていく一本の道があり、この道沿いにそれはあった。

 俺は急速にそこへ近づいているのだが、男の行為は終わっておらず、日和に対して激しい律動りつどうが長く続いている。

 速度はそのままで、俺は倉庫か工場かの建物の天井を突き破った。その衝撃を身体に受けているだろうが、いきどおっている自分には感じられない。あるのは、男をむごい手立てで殺すことだけである。

 ここは切り出された岩を加工する工場けん倉庫だったらしく、どこもかしこも白い粉塵だらけであった。

 粉塵ふんじんと共に工場の床に降り立った俺は、日和を探した。

 粉塵が収まり視界が晴れ、俺は廃棄されず残されている汚い紙を寄せ集めた上で、日和に圧し掛かり、生白い尻を彼女の足の間から見せている男を見つけた。

 屋根を突き破って降り立った際の轟音ごうおんに奴は度肝どぎもを抜かれた様な面持おももちちで俺を見つめていた。

 工場に差し込む月明かりの中、奴は俺をどのような姿として見たのだろう。

 激怒したまま、俺は二人に近づいた。吐く息が火のように熱い。

 男が日和の上に圧し掛かったまま凍り付き俺を見上げ、混乱の余りか泣くような笑うような表情を浮かべていた。

(いつまで、日和の上に乗っているのだ)

 男が我に返り日和の上から逃げようとする前に、俺は男の首を掴み持ち上げた。男は両の手で首を掴んだ俺の指をゆるめようと足をばたつかせて抵抗してくる。粉塵の収まらない工場の空気を男の足はむなしく蹴りつけている。

 奴を無駄に足掻あがかかせ、俺は自分の顔近くに男の頭をせり上げた。

 まともに俺の顔を見たのだろう、男は甲高い悲鳴を上げ始めている。

「助けて、ああ、助けて……」

 聞くに堪えない悲鳴を上げ続ける男を、そこいらに生えている雑草を放り投げるように放り投げた。男は宙を飛び、無様な形で白く汚れた床をものの見事に転がっていった。

 男をそのままにして横たわったまま、どこかあきらめた様な表情でこちらを見つめている日和を片膝かたひざを立てて覗き込んだ。彼女の膝や腕に擦過傷さっかしょうができ、殴打おうだされた顔の左側が無残むざんれ、優美な唇からも血が一筋流れている。

 かわいそうに、だが彼女の瞳は正気を保っている。日和は未だに俺が誰なのか分かっていないようだが、大きく変容した身体に張り付いていたトンビを外し、それを彼女の上に掛けた時、日和は俺が誰かが分かったのだろう。

 苦悩と羞恥、そして絶望が内混ざった表情を浮かべ、日和は俺を見上げていた。

「大丈夫だ、死のうと思うなよ。あだの打ち方をみていろ」

 背後でへたり込んでいる男は、ただ恐怖の眼差まなざしでこちらを見つめていた。

 俺はいたぶり殺す事は好きではない。ただ、この時はそんな気持ちを持ちあわせてはいなかった。

「立て」

 男に近づき俺はそう命じた。

 男は泣きじゃくり始めている。

「立て」

 もう一度命じた。

 涙と鼻水を垂らしながら、男は不決断によろよろと立ち上がると懇願するように俺に手を合わせてくる。その下半身は真に見苦しい物がぶら下がっていた。

「助け、……助けて下さい、どうか、乱暴は……」

 命乞いをするにはもう遅いのだ。

 俺は杖に仕込んだ刀を二度振るった。

 血が飛び散り、奴の両の手が切り離さた。そのため男は両腕が無い状態で立っている。余りのことで、腕が切り落とされたことさえ気付いていないのかもしれない。

 そしてそれに気づいた。

 欲も得もない断末魔のような悲鳴と奴が上げ続けていた。

 だが、まだ断末魔の叫びをあげるには早いのだ。

 次は足を切り離してやろうと刀を構え直した時、俺の後ろで日和がこの惨状さんじょうを見ている気がし、考えを改めた。

 一気にけりをつけてやろうと決めた。

 刀を上段に振りかぶると、男の脳天へ切り下した。男の身体が血飛沫ながら、縦に二つ切り分けられて床へと湿った音をたてながら転がった。


 二つに切放たれたむくろを後に、俺は日和に近づき、全裸になっている身体の上に掛けたトンビごと抱き上げた。

「あの人、死んだの」

「ああ」

「……ごめんね」

 日和は何か考えていたように一拍間を置いて言った。彼女の瞳は固く閉じられている。

「謝る事はない」

「でも私のためにイワミは……殺したんでしょ」

「違う。俺はあれを許せなかった、だから殺した。俺のためだ」

「でも……」

「もう言うな。お前は気にせずとも良いのだ」

 俺は彼女の身体を労わりながら、翼を展開し始めた。例によって背中が少し軽くなる。

「わたし、もうイワミの巫女みこにはなれないね」

 日和は俺が神から遣わされた者だと思っているらしく、俺は何時かまつられるようになったら、巫女にでもなってもらおうかのと、戯れに言っていたのを覚えていたらしい。

莫迦者ばかもの。誰がそんなものになってくれと本気に思うか。お前はお前で生きておれば良いのだ」

「おかあさん、大丈夫かな」

「大丈夫だ、死んではおらぬ」

 そう答えた俺に日和は「よかった」と一言つぶやいた。

 その後、密やかに声を押し殺すように泣き始めた。その泣き声は彼女の受けた心と身体の傷の重さを表している様だ。

 日和を抱きながら、俺は開けてしまった天井の穴からそろそろと上空へ昇って行った。

 辺りの山々より上空に出た俺は、ゆっくりと東京へ戻り始めた。

 それにしてもこの日和と言う娘は強い。あんな目に遭い心と身体に傷を負いながら、自分を見失わず、他人の事さえ気にする娘だ。

 俺は益々日和が気に入り始めていた。


 戻る道すがら、日和はずっと泣いていたようだ。

 彼女のすすり泣く声を聞いていると、新たな怒りが湧き上がってくる。

 あの男をさいの目に切りきざんでやれば良かった。殺しても飽き足らぬ奴と俺は奴の霊魂が、暗黒のむろに落ちる事を願った。

 しかし奴の霊魂は、天の腕に掬い上げられるに違いない。

 天は霊に対して平等に甘いのである。

 日和の住いに近づいてきた。

 深夜にも関わらず、東京の輝きは変わってはおらず、本当に不夜城ふやじょうと化しているのだなと思う。

 赤色灯が瞬くビルディングの周囲は今だに多くの刑吏が右往左往している。隣り合わせた広場に日和を横抱きに着地した。突然空から日和を抱いて降り立つ俺を見た十数人の刑吏けいり達は、先ほど鳴子に蹴落とされた時と同じよう呆然として立ち尽くしている。

 着地した周辺に居る刑吏達を見回し、その中に小柄とがっしりした体形の女性の刑吏が二人ほど混ざっているのを認め、俺はその女性刑吏に向け声を掛けた。

「済まないが、この娘を受け取ってくれ」

 そう言うと、我に返った刑吏達が俺を取り巻き始める。それを一睨みし、もう一度と同じことを伝えた。

 彼女らは、自分達に向けられた言葉に戸惑ったのか、辺りの男性刑吏にうかがいを立てるような目つきで命令を待って視線を走らせている。

「よし、行け」

 と一人の刑吏があごをしゃくってみせた。

 二人の女性刑吏は左手に警棒を握り、右手は腰に下げた拳銃に手をえた姿で、じりじりと俺と日和に近づき始めた。

 小柄の女性は目端めはしが利く刑吏らしく、俺が抱いている日和が裸なのに気付き、急いで自分の着て居た厚手の上着を脱ぐと、その上着で日和を包もうと考えていることが分かった。それに連れられ、大柄の刑吏も自分の上着を慌てたように脱ぎ始めている。

 俺は日和を抱いたまま片膝を立てるようにしゃがんだ。

「この娘を受け取ってくれぬか」

 俺の手がトンビをぐのと同時に、女性刑吏の腕が伸び、日和の裸体に自分の上着を被せてきた。「自分が」と大柄の刑吏が日和の腰辺りに自分の上着を被せ、そのまま彼女を軽々と受け取った。

「心と身体に怪我をしている。手当てしてくれ」

 言い終えて立ち上がった俺に、周りの刑吏達が一斉に「動くな」と命じてきた。

 その隙に、日和の「歩けます、歩けます」という声を残して彼女を抱きかかえた女性刑吏達が逃げるように離れていく。

 黄色い綱が張られた外側の奥まった辺りから写真機の音が盛んにしている中、刑吏達のがじりじりと迫り始めている。

 この場を立ち去る時だ。俺は刑吏達を驚かせるように飛び上がった。

 取りあえずこれで一つの決着は着いた。高度を上げながら、俺はそう思った。

 下では「追え」や「逃がすな」「ヘリをこちらに廻せ」などと刑吏の怒鳴り合うのが聞こえていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る