一般人の成り上がり、術師同士の抗争、褒美として女を抱く、一夜限りの関係を引き摺るヒロイン、略奪ハーレム、現代ファンタジー

三流木青二斎無一門

序章①


彼の地には龍脈が眠る。

異能者に力を与える根源。

広大な大地を支配すれば、無限の力を得る事も可能。

故に、異能者たちは領土を巡り争い始めた。

血が絶えぬ戦禍。

異能者は徒党を組んで他の異能者を刈り続けた。

それが何れ血族と成し。

異能者の在り方は一族として変容を果たす。


結果、異能者は術師と言う名に変わり。

一族総出での戦乱と化した。

戦国の世から続く超常の戦。

政府すら介入出来ない力を宿し、

結果的に、彼の地は治外法権と化す。

法の届かぬ土地には、表に出る事の出来ない者達が集い。

何時しか、この術師の地は、『檻』と言う名が付けられた。


現代では無数の術師が牽制し合い、拮抗状態と成した。

多くの術師は小規模な小競り合いを除き一時の安寧と平和を手に入れた。

地位の確立。

現状維持に甘んじる状態。

野心溢れた術師の全盛は低下していき。

性根は腐敗した後に玉座を奪う気力すら失せ掛けた。


が。

力の均衡。

術師同士による"竦み"は。

外部から渡って来た異分子によって亀裂を生み。

その果てには、難攻不落の城を崩し、三つの血族を根絶した。






聞けば。

その異分子は元は一般人。

力を得て檻へ収監されて僅か一月も経たず。

単騎を以て城の攻略を果たした。


ある血族は。

その男の力を買い。

いち戦力として迎え招いた。

その男の名は―――。








ぼん


複数の子を成した母親。

未亡人とは思えぬ若々しさ。


鮮やかな紅髪を揺らし、

主席の座から頭を垂れる煤神すすがみはじめを見詰める。


「此度の戦、単騎ながら美事な働きぶりであった」


褒めの言葉を受ける。

煤神すすがみはじめは目を細めて笑った。


「お褒めの言葉、誠に嬉しゅうございやす」


適当に嗜んだ敬語を使ってそう言う。

すると妃龍院ひりゅういん瑠璃媛るりえんは手招いた。


「近う寄れ」


言われるがまま。

妃龍院瑠璃媛るりえんに近付く煤神壱。

胡坐を掻いた状態で、腕を使って前へと向かう。

体が触れる程に接近した煤神壱に向けて彼女は足を伸ばした。

開けた着物を着込んでいる為に衣服の隙間から卑猥なものが見える。

すらりと伸ばした足で、煤神壱の股間に足を押し付ける。


「褒美をやろう坊…何が欲しい、妾が持つものならば、なんでもくれてやるぞ?名か?それとも…妾の身体か?」


体。

体とは即ち、麗しい未亡人を抱けると言う事だ。

褒美としてはこれ以上ない程の極上のものだろう。


「何をバカなッ」「この男を次期当主にするつもりかッ!!」


騒然としている臣下達。

それもそうだろう。

檻と呼ばれる異能者達の戦禍の地。

何百年も続いた由緒正しい術師の家系。

その上に立つ男が、外部からやって来た異分子に継がせるのだ。

他の臣下にして見れば、愚行も良い所だろう。

そんな最中、煤神壱だけは事態を軽視していた。


「マジっすか、是非とも堪能したいもんですなぁ」


にやにやと、妃龍院瑠璃媛の肉体を視る。

彼の視線を受けた彼女は頬をほんのりと紅くしていた。

久々に、女として認識されているのが嬉しいのだろう。


「戯言は申さぬ、坊、主の子を孕んでやっても良いぞ?」


くすりと笑い、小指で唇に触れる。

薄桜色の唇から、細い舌先が伸びていた。


「母様ッ」


重苦しい空気の中。

風船を割るかの様に大きな声が響いた。

臣下の列の中から出て来たのは、妃龍院の産んだ子供の一人であった。


妃龍院ひりゅういん紫藍しあんだ。

彼女は顔を真っ赤にしながら頭に青筋を浮かべて憤りを見せる。


「御戯れをッ、この男にそこまでの価値などありませんッ!!」


妃龍院紫藍の言葉に、臣下達は頷いた。

母親譲りの鋭い目つきで、煤神壱の事を睨んでいる。


「紫藍ちゃんよ、御当主様の言う事は絶対じゃね?」


けらけらと笑いながら、煤神壱は彼女を宥めようとしていた。

しかし、その笑い方は逆に彼女の神経を逆撫でさせる行為である事は明白だろう。


「貴様がッ、父様とッ、同等なワケッ、無いだろうがッ!!」


妃龍院瑠璃媛が性交すると言う事は。

それは自分の価値に見合う人間であると言う事。

これまで、彼女に抱かれた男はこの世で唯一人。

それが、妃龍院紫藍の父親である。


「…なんじゃ?紫藍、妾の言葉に間違いがあると言うのかの?」


鋭い目つきを浮かべる。

退屈そうに、平凡な臣下達を見下している。

当然、その視線の対象は自らの娘も入っていた。


「(良いねぇ、期待が膨らんじまう、龍神様を抱けるなんざ、この世の何よりも至福な事だろうぜ)」


龍神様。

それが妃龍院瑠璃媛の総称である。

頭首でありながらも神の如く崇められている彼女。

彼女を信仰する限り、彼らは龍神の加護を得られるのだ。


「し、しかしッ…」


妃龍院紫藍は尚も食い下がろうとする。

彼女が懸念しているのは内部分裂だ。

血統主義である臣下は外部から来た余所者を嫌う。

龍神が煤神壱を選ぶのならば神の認識に対する相違が生まれ、間違いを正す為の抗争が始まってしまう事を懸念していた。


確かに、煤神壱は大業を成した。

単騎で同盟を結んだ三家に挑み、討伐して見せた。

難攻不落の城を崩したこの男の偉業は称えるべきだろう。

しかし、だからと言って新参にして無法者。


外部からやって来た者など冷たくあしらうべきだ。

どちらかと言えば妃龍院紫藍も煤神壱は排除すべき存在だと思っている。

しかし、それが出来ないのは、末っ子を助けた恩人であるが故だ。


性格や境遇を鑑みても忌むべき存在ではあるが、

実力だけは確かでありそれも認めている。


「(…致し方あるまい)」


この場を何とか納める方法は複数ある。

しかし龍神は煤神壱の能力を買い、血族に加えようとしていた。

それは、彼女にとって絶対に譲れない事だと理解している。

ならば…方法は一つのみだ。


「母様は高貴な存在、その身を穢す程ではありません…こいつに対する褒美は、この私が勤めましょう」


母親の代わりに、妃龍院紫藍が煤神壱と血を混ぜ合う。

そうすれば、少なくとも煤神壱は妃龍院家の血族として認可される。

その言葉を聞いた妃龍院瑠璃媛は初めて娘に目を向けた。


「ほう、意外じゃの、お前が坊の相手をすると言うのかえ?」


恥辱を憶えながら、妃龍院紫藍は首を縦に振った。


「少なくとも…イヌ…いえ、煤神は、その実力は確かなものです、褒美を与えるのは妥当ではありますが…母様の伽を務める程ではありません…この私が、務めるのが相応しいでしょう」


熟した肉体は確かに魅力的だ。

しかし初々しくも瑞々しい肉体もまた魅惑的だろう。

どちらも捨て難いが、しかし煤神壱はその提案を受けて溜息を吐いた。


「え、なに?紫藍ちゃんが?じゃあいいや、要らない要らない」


掌を左右に振り、煤神壱はご褒美は不要と自ら断じた。

母親とは違う態度に一瞬呆気に取られた妃龍院紫藍は後に彼の不遜な態度に再び怒りを浮かべて見せた。


「は?…はぁ?!き、貴様ッ」


彼にも、彼なりの事情と言うものがある。

その理由を彼女に簡単に説明した。


「だって絶対に因縁しこりが残るじゃん…龍神様とだったら大人の余裕さがあるけど、紫藍ちゃんは、なんつぅか…ねちっこい」


そんな理由だった。

彼女と夜を明かした後の事を考えていたらしい。

恐らく愚痴愚痴と文句を垂れるに決まっていると、煤神壱は確信してものを言っていた。


「ねちッ…」


唖然としてしまう妃龍院紫藍。

それを端で聞いていた妃龍院瑠璃媛は思わず失笑してしまう。


「ふはッ!ねちっこい、とは…愛い愛い、では坊、何が欲しい?」


煤神壱は周囲の人間を見回した。

殆どの人間が、煤神壱など認めてはいない。

そんな憎悪と侮蔑を込めた視線を送り続けている。

それを見て、いつもの調子で、ちゃらんぽらんな風体をしながら軽口を叩いた。


「まあ、俺の功績に対して不満抱いてる方々が多いんで、要らないっすよ、強いて言うなら…まあお小遣い程度貰えば十分なんで」


彼の実力を認めない者たちに向けての言葉でもあった。

今まで成し遂げなかった家臣たちは、何もせずとも老臣として威厳と権威を振りかざせる。

だが、突如としてやってきた部外者が戦況を引っ掻き回し武功を立てる事が気に食わず、自分の地位すら危うく感じてしまっている。

彼のような異分子は、存在事態が認められない一つの理由だった。


「ふざけるなよ、貴様ッ!」


声を荒げたのは妃龍院紫藍だった。

彼の胸倉を掴んで無理矢理立ち上がらせる。

彼女の怒りは、褒美など不要と言う点だった。

まるで自分の体に何も価値はないと言われているように思えて、馬鹿にされた気分だった。

確かに妃龍院瑠璃媛には劣るが、同世代であるのならば中々の肉体美を持ち合わせている。

若さを売りにした張りと弾力は、母親にも勝るものがあった。


「今すぐ私の家に来い、そして抱けッ!」


恥を忍んで提案したのが断られ、それで良かったと安堵の息など吐けない。

断られたら断られたで屈辱を抱いてしまうのだ。

だから、一度自分の言った事を不問にさせない為に、彼女は意地になって煤神壱に迫り出す。


「いや、だからさ…後で何言われるかわかんないし、良いって言ってんの」


彼女の気迫を見て、煤神壱は気圧されながらも言い返す。

顔を赤くしながら言葉を捲し立てる妃龍院紫藍。


「それは憐みだ、貴様、私よりも下に見ているつもりか?」


いやいや…と、決してその様に思っているわけではないと言いたげな表情だった。

だが、その軽薄そうな表情が説得力なんて皆無であった。

決して煤神壱が取り入ろうとしない彼の性格を熟知しているのだろう。

妃龍院紫藍は彼の性格を見抜き、頬を引き攣らせながら嘲笑した。


「それともアレか、貴様には自信が無いのか、女を満足させられぬから逃げているだけか?」


逃げの姿勢を取っていた煤神壱。

しかし、彼女の言葉に表情は真顔に変わる。


「あ?…紫藍ちゃん、それは違うでしょ」


彼にも譲れないものがあった。

彼女から舐められた以上、それを有耶無耶にする事は彼の意思に反している。

言うなれば、煤神壱は、まんまと妃龍院紫藍の口車に乗せられたと言う事だろう。



提灯のみが灯る妃龍院紫藍の自室。

敷かれた布団は一つ、枕は二つ置かれている。

身を浄めた妃龍院紫藍は薄地の襦袢を着込んでいた。

首元で整う鮮やかな紫陽花を連想させる黒髪の毛先は濡れていた。


「さっさと、済ませるぞ」


反抗心を浮かばせながら。

妃龍院紫藍は煤神壱の顔を睥睨して言う。


「はー…全く、紫藍ちゃんさぁ…」


本当に良いのか。

確認を取ろうとした煤神壱に彼女は諄い、と叱咤する。


「黙れイヌ、私が言った以上、呑み込む真似などしない」


妃龍院紫藍は煤神壱を蔑称を込めてイヌと呼ぶ。

蔑む相手に体を許すなど、我ながらどうかしていると、彼女は思っていた。

襦袢を開けさせる、彼女は煤神壱の前に曝け出して布団の上に横たわった。


「だが、忘れるな…これきりの関係だ、私を抱いたからと言って、馴れ馴れしい態度など、取るなよ」


煤神壱は彼女の本気を受け取った。

最早のらりくらりと逃れる事は、逆に彼女に失礼だと思ったのだろう。

サングラスを外して、着込んでいた甚平を脱ぎ捨てると、彼女の上に跨った。


「取るわけねぇだろ?…今夜限りな」


今宵だけ。

その言葉を受けて妃龍院紫藍も納得した。

胸元を腕で隠しながら、眼を瞑る妃龍院紫藍。


「(初めてだが…痛いだけだ、苦痛に耐える事は慣れている)」


勉強した性知識を思い浮かべて、妃龍院紫藍は平然を装う為に秒数を数える。

煤神壱が、彼女の体に触れていき…夜の最中。



ん、ぁっ


   まて…やめろっ

 そんな、やめろとっ   なッ


 ぁ…ふ、ぅぅっ


い、ぅな…そんなあまい、ことっ


    ちゅっ…んふぁっ


ふーっ…ふーっ…

           ?な、 あ?

  !? き、きさっ


ぃッいぬっ、やめ、そんな、言う、なぁっ!


  か、




 かわいいって…言うな…っ


ん、ぃ…  あっ!





その日。

…彼女の甘い声が部屋中に響き渡った。


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