23_Xデー~X day~

 変化は、大きく分けて二種類ある。


「じゃぁここの問題を……真中、解いてみなさい」


「……はい……」


 一つは、ある瞬間を境に、せきを切ったかのように怒涛どとうの変化が起こるものであり、これを制御することは不可能と言っていい。


 そしてもう一つは、氷が水に変わるようにに徐々に変化するものであり、前者に比べて抑制するなり促成するなり、ある程度の手心を加えることができる。


「えっと……ここがこうなって……」


 そしておおよそ努力と呼ばれるものは後者に属し、『黄瀬と勉強をして、真中の学力はどうなったか?』については、まだまだ


 今も、教師から指名されて問題を解くように促された真中だったが、手元のタブレットに書いた答案が合っているのか、自信は全くない。


 そのうえ、答案は共有している教室のスクリーンから投影されている。自分がどこでどのようにつまづいているかは、他のクラスメイトにも一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「おいおい真中、そこの式間違ってるって、x1とx2の時の加速度は等加速度運動だから変わってるぜ? だから答えが合わねぇんだよ」


「う……」


 まじめに考えてもこの様に間違える。


「……もういい、後は解説しながら授業を進める。真中、ゴールデンウィークはもうとっくに開けてるぞ? もう少し努力をしないと今後ついてこれなくなるからな?」


 教師の𠮟責に、クラスから失笑がちらほらと聞こえてくるが、


「他のみんなもそうだぞ。予習と復習はしっかりしておけよ」


 それを聞いて、教師は付け加えるように全体に注意を促した。


 ただ、それは真中を擁護ようごするものではなく、吊るし上げることで他の生徒へ注意喚起するものだった。


「はぁ……」


 思わずため息が出るが、今更といったところだ。入学してすぐだというのに、授業に遅れ始め、そのせいで不本意な評価をされていることは、何となく肌で感じていた。


 正直に言ってしまえば『辛い』の一言に尽きるが、真中の周りには比和や黄瀬といった、数少ないながら友人が出来ている。


 『努力していれば報われる』と前向きに考えられる程度には、真中が受ける精神的ダメージは少ない。


 無論、多少トゲのある言い方に心が乱れるものの、真中の生活はある程度は平穏と言える日々を送っていた。


 ただ、そんな日々ほど、得てして小さな出来事で大きな変化が訪れる。


「おっす真中、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……今、大丈夫か?」


 ホームルームが終了してすぐ、そう言って比和が真中を呼び止めた。


「何だよ急に? 今日はがあるから無理だぜ?」


 何となく勉強会のことをクラスメイトに知られることが嫌だった真中は、『アレ』と言って比和にだけ通じるように返事をした。


 いつもならこれだけで「お、そうか、悪かったな」と言って引き下がる比和だったものの、今日は少し様子が違う。


「図書委員の仕事で手伝ってほしいことがあるんだよ。男手がいるのに今日に限ってオレだけで人手が足りないから……頼む! 今度ジュースおごるから」


「うーん……」


 手伝いたいのは山々だが、この後は本当に予定がある。


 勉強会の開始時間を多少ずらせばいいのかもしれないが、そのことを黄瀬に相談しているところを誰かに見られれば、『二人が付き合っている』という根も葉もない勘違いをされることは想像に難くない。


 さて、どうしたものかと悩んでいると、おもむろにそのが比和に話しかけてきた。


「あの、比和くん。きょ、今日だけど、図書室って開いてるかな?」


「ん? あぁ、今日はオレがカギ当番だからな。下校時刻の30分前までは開いてるぜ?」


 突然の出来事に、真中は焦り、比和は何を意図しているのか分かっていない様子だったが、


「じゃ……じゃぁ、 


 『今日は図書室で勉強会をするから比和の手伝いをしてあげるように』と、黄瀬が彼らだけに分かる内容で提案してきたことに、二人はハッと気が付いた。 


「おう、そのくらいならお安い御用だぜ。ハジメ君が手伝ってくれるだろうから、ちょっと後ろでうるさいかもしれないけどな」


「はぁ……分かったよ、分かりましたよ。手伝えば良いんだろ手伝えば」


 黄瀬が機転を利かせてくれたおかげで、三人が同時に行動していても不思議はないようになった。ただ、それは同時に『真中は比和の手伝いをしに図書室へ行く』ということもセットになる。


 今日はいつもより帰るのが遅れそうだと少し憂鬱になる真中だったが、乗り掛かった舟ということもある。仕方がないと諦めた真中は開き直って、カバンを手に取り、教室を出て行った。

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