第五章 そっち側
そっち側①
「名々井紬。十七歳。……え、事故死、ですか」
突然呼び出されたヘルは殺人処理部、部長室にいた。
初めて任務の変更を言い渡されて珍しいこともあるんだなと思ったが、その内容に驚きを隠せない。
「しかも二日後。あの、これ本当に俺の任務ですか?」
「ええ、そうですよ。何か不満でも?」
「不満はないんですが……今までの任務が割とハードな感じだったので、戸惑ってます」
今までこれでもかと言うくらい残虐で悲惨な現場だったため、何か裏でもあるんじゃないかと疑いたくもなった。
「もしかして事故死はただの事故死ではない?」
ヘルは資料の隅々までチェックし、『実は結構グロいよ』とか『残虐描写あり』など注釈が無いか探してみた。が、そう言った文字は一つもなく、本当にただの事故死だった。
「それでは病院で魂狩りを行なってください」
そういうと、アイは早く出ていけとそれ以上ヘルに構うことはなかった。
自分から呼び出して任務の変更を言ったくせにと思ったが、少しだけ感謝もした。
ヘルは時間が経った今でも若干引きずる程度には錨地雫のあの殺人現場を結衣に見せてしまったことを気にしていた。
だからと言って仕事を疎かにするつもりはないが、もしかするとアイは配慮してくれたのかもしれない。
冷たいと思われがちだが、意外と部下思いで優しいところもある人だ。
その思いを無駄にしてはいけない、しっかりと任務をこなさなくてはとヘルは意気揚々と部長室を出ていった。
アイの意図はそこではないのだが。
二日後。ヘルは任務を遂行するため病院へと赴いていた。
病院は死神が多い。大抵の人間は病院で亡くなり、そこから天に送られることが多いため、自然と死神が集まる。だから結構忙しないのだが、今ヘルが向かっている病室までの道のりは死神的にかなり静かだった。
病処理部に所属していたとき以来の病院で任務。
当時は老衰で亡くなる方の魂狩りが基本で、一日に多くても三件しか任務をすることはなかった。時間も多く確保でき、資料室へ足を運んだり、先輩たちから話を聞く時間をとれたものだ。
だが最近は殺人、自殺と精神的に余裕のない任務しかやっていなかったため、久々に心の穏やかな時間を過ごせることに少し戸惑う気持ちもあった。
「ここか」
ドアをすり抜けて病室に入ると、そこにはベットの上に横たわる若い女性の姿があった。
体中に痛々しい傷。様々な機器が繋がれており、心音は弱く、呼吸はとても浅かった。
誰が見てももうその時が近づいているとわかる状態だった。
名々井紬(なないつむぎ)。十七歳。乗用車との接触による事故死。
前科なし。性格は穏やかなため、魂が天を拒否する心配なし。
短い二行程度の任務内容。
そんな彼女の最後を見届けるため、ヘルは再び記録帳に手を伸ばした。
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