第10話

「あ~!思い出した。お前、あの時の女の子だったのか」

「今更っすか!私はめちゃくちゃ救われたのに」

「だって口調変わってるじゃないか!あの時は普通に敬語だっただろ!なんで今は~っすなんだよ」

「それは先輩ともっと親しくなりたいと思ったからっすよ!敬語だと距離遠いでしょ!」

「まあ確かにそうだけど」

「私はあの時から先輩のことが……」

「なに?」

「なんでもないっす!」

「え~?」


 こはねはなんか怒って帰ってしまった。

 俺も参考書を買ってさっさと家に帰った。

 それにしてもあの女の子がこはねだったとは。

 確かにあの日もかわいかったっていう印象があったな。




 月曜日。

 ついにこの日が来てしまった。

 俺は8時15分ちょうどに放送室に来て震えていた。

 マジでやるのか?

 この高校の生徒全員に俺の声が届く?

 そう考えただけで震えが止まらなくなった。

 すると、なにやらばたばたという足音が聞こえてきた。

 この足音を俺は聞き覚えがあった。

 

「せんぱいー!お疲れっす!放送頑張ってください!」

「こはね。来たんならお前がやってくれよ!」

「だめっすよ。これはせんぱいがトラウマを克服するための試練なんすから」

「まじかよ~」

「じゃあ、先輩がうまく放送できるようにいいこと教えてあげるっす」

「え、なに?」

「ちょっと耳貸してください」


 こはねは俺の耳元でそっとささやいた。


「うまく放送出来たら、ご褒美に何でも言うこと聞いてあげますよ」

「っ!だから、そういうことを」

「じゃあ、がんばってくださいね~」

「あ、逃げるな!」


 こはねは、ものすごい勢いで走っていった。

 転ばないかな。


「はあ……。あれ」

 

 気づいたら緊張はほぐれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る