第24話


 「ん、なんだ耕平。

  どうした?」

 

 「あの、さ。」


 「なんだよ。」

 


  「今日の放課後、僕、

   柚に告白しようと思ってるんだけど。」



 「……は?

 

  お前、マジで大船夕空狙いじゃなかったのかよ。

  マンションにまで行っといて。」

 

 「だから、なんでそう思うの?

  夕空さんとはそういう関係じゃないの。

  それより、高槻のことでさ。」

 

 「あ、あぁ。」

 

 「高槻って、

  きみが作った学年RINE、入ってるの?」

 

 「入れるかあんな奴。」

 

 「。」

 

 「?」

 

 「3組の男子、

  組織化しといて欲しいんだけど。」

 

 「は?」

 

 「あと、

  ?」

 

 「……

  お前、なに言って」

 

 「だって、夕空さんの時、

  露骨だったんだもん。」

  

 「……

  わかったわかったわかった。

  なら、いっそ、こうしてやるから。」


*


 ……はは。

 あはは。

 

 「な、なにこれ。」

 

 これはこれで、

 卑怯な気もするけど。

 

 当たり前だけど、生徒たちに、見られまくってる。

 でも、自分でものなら、なにも感じない。

 

 「柚。」

 

 「う、うん。」

 

 ……はは。キョドってる。

 にしても、凄いなギャラリー数。

 っていうか、この人数、一年だけじゃないよね。


 これで、いい。 

 これは、だから。


 一切、隠さないのなら、 

 つきあって欲しい、

 って、言うんじゃ、なくて。

 

 

  「柚が18になったら、

   結婚して欲しい。」

 

 

 「え゛っ!?」

 

 だって、

 付き合ってからやるようなことは、

 以外、ほとんどやってる。


 朝、家で朝食を食べて一緒に登校し、

 放課後も手を繋いで一緒に帰る。

 一緒に街に出てるし、カップル割も体験してる。


 同じものを見て、同じものを食べて、

 時間を、空間を、感覚を共有して。

 

 誠実な交際が、

 結婚への助走だとするならば、

 もう、終わってる。

 

 「柚が、いい。

  柚だけが、いい。

  柚しか、見えてない。

  

  土浦柚さん。

  僕の、生涯の伴侶になって下さい。」


 旧校舎を覆う青い空が、

 びりりっと揺れた。

 

 う、わ。

 柚、きょろきょろしてる。

 逃げ道、探してたんだ。

 

 ふふ。

 やっぱりこれ、ずるいな。

 

 「……

  

  あの、ねっ。」

 

 うん。

 

 「その、わたし、

  わたしっ」

 

 うん。

 

 「……

  だ、だって。

  だって、わたしじゃなくて、

  もっと、

 

 「柚。」

 

 「う、うんっ……。」

 

 「僕は、

  柚の、気持ちを、聞きたい。」

 

 ……

 これも、狡いのか。


 あぁ、

 恋愛って、ほんと、

 人を、狡くするな。

 

 「……

  そんなの、

  そんなの、決まってるよっ。

  

  でも、

  で、でもっ。」

 

 「夕空さん、

  しばらく恋愛はいいって。」

 

 「!?」

 

 「あんなことがあったからね。

  無理もないと思うけど。」

 

 「で、でも、

  そ、それって。」

 

 「夕空さんはね、

  明るくて、可憐で、抜け目がないように見えながら、

  

  人としてすごく素敵な、誰からも愛される人。」

 

 「……。」

 

 「でも、

  柚は、夕空さんと違う素敵さが、

  柚にしかない素晴らしさがある。」

  

 「う、嘘っ。

  わ、わたしなんて

 

 「華奢で、おどおどしてるのに、

  実は負けん気が強くて、頑張り屋で、

  心の中に凛とした芯を持ってる。

  

  でも、僕が一番好きなのは、

  なんでもない日常を、心から楽しめるとこ。」

 

 「……。」

 

 「たぶん、身体が弱かったからなんだろうけど、

  柚は、どこに行くのでも、なにをするのでも、

  心から楽しそうに、輝いて生きてる。」

 

 「そ、それは、

  こ、耕平と一緒だからでっ。」

  

 「それは光栄だね。」

 

 「こ、耕平と一緒なら、

  誰でも、そうなるよっ。」

 

 「ならない。

  母さんも、倫子も、そうはならなかった。

  僕は、誰かを繋ぎとめることができないから。」

 

 「違う。

  違うの、そうじゃないの。

  倫子ちゃん、ずっと、ずっと、ずっとっ。」

 

 「柚。」

 

 「う、うん。」

 

 「もし、柚に、

  僕よりも好きな人が現れたら、

  柚は、どうする?」

 

 「ありえない。

  絶対、そんなこと、あるはずない。」

 

 「もしも。」

 

 「ない。

  ありえない。

  

  だって、耕平のことを知るのに、

  こんな時間を掛けて、

  そのたびに、どんどん、どんどん、

  好きに好きに好きになっていったんだもん。

  

  十八歳になるまで、二年間もあって、

  毎日、毎日、もっと、もっと好きになるんだもん。

  

  そしたら、

  ほかの人を、耕平より好きになるためには、

  いちばんみじかくても四年以上かかるんだよ?

  

  ありえないよ、

  そんなの。」

  

 その数式、いろいろおかしいと思うけど。

 

 「いまの話は、

  結婚することを前提とした交際を、

  認めてもらったと考えていいね?」

 

 「!?

  

  ……だ

  

  ……

  

  ……

  

  ぅんっ……。」

 

 うわ、

 顔、茹蛸みたいになってる。

 

 え。

 なに、この歓声。 


 あ、

 そういえば、周りに人、いたんだっけ。

 

 いや、そんな拳つきあげるテンションで

 大喝采されても困るんだけど。

 校舎、揺れちゃってるし。

 

 うわ。

 黒山の人だかりだ。さっきよか絶対増えてる。

 あぁ、キスまでいきたかったんだけどなぁ…。

 

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