第28話 待ちうけていたウーウダリ



 ラビリン。黒ウサギ型ホプリン。ホプリンのなかでも、ことに可愛い美少女。フルネームはラビアン・ラビトス=ラビリン。

 その才光は一つだけだが、並玉五百個ぶんと同等。つまり、戦闘生命力は2500。攻撃力250。


「ラビリンの玉はなんでこんなに大きいの?」

「最初に出てきたときからです。キュル」

「そうなんだ?」

「あまり数が多いと、合体して出てくるらしいのです。キュルッピ」

「ふうん。そうなんだ」


 とかなんとか話してたくせに、いざ、自分の才光の玉を服の下から出してみたとき、レルシャはおどろいた。数が減ってる。いや、ただ減ってるわけじゃない。かわりに一粒、とても大きくなっている。


「こ、これ、合体したんだ!」


 ラビリンのほど大きくはないものの、合体した玉はまわりにキレイな座金の装飾がほどこされ、護符がとても豪華に見える。座金には小粒の玉も埋めこまれていた。


「わあっ、カッコイイ! 合体したの一個と、並玉が十六個か。えっと? それじゃ、ぼくの今の生命力っていくつなんだろ?」


 さっき、倍になる遺跡で解放されたから、387×2で774のはずなのだが、それだと数があわない。合体したのが六十個ぶんなら、並玉が十七はないといけないはずだが、一個たりない。小粒の端数も一粒だ。


「変だなぁ。それに六十で合体するって中途半端だね」


 スピカは鼻で笑った。

「愚か者め。並玉が合体するの少なくとも百単位だ。解放のとき、護符を持ち運ぶのに便利な携帯に変化するのだよ」

「少なくとも百……ってことは、ぼくの並玉百十六個になったってこと? 生命力なら1161? ええーっ!」


 二倍じゃない。最後の解放だけ、三倍だったのだ。


「1161……」


 レルシャはあぜんとした。今朝まで、戦闘生命力たったの95だった。それが、ほんの半日で千を超えた。憧れの兄が解放する前の数値に匹敵している。もう実家の兵士のなかでも、レルシャより強い者はいなくなった。ゆいいつ、兄だけだ。


「す、すごい……」

「あとは魔法をおぼえねばならぬな。今のところプチファイアしか使えぬではないか。炎のきかぬ敵に出会ったら、なんとする?」

「そうだね。ぼくの特技は発見だから、分化しても攻撃魔法にはなりそうにないもんね」


 なんとかして、魔法をおぼえたい。使える魔法を増やすには、古文書で呪文を学ぶか、魔法呪文を埋めこまれた装備品を身につけるかだ。あるいは魔法を使える人に教わるか。


「ディーンさんに教えてもらおう」

「あやつは戦士だという話だな。おそらく、それほどたくさんの魔法は知るまい」

「それでもいいよ。ディーンさんが知ってる魔法を全部、習おう」


 魔法は適性がなければおぼえられないが、魔法装身具なら誰にでも使える。ただし、不向きな属性では効果が半減する。


「そういえば前に魔法解放がどうとか言ってなかったっけ?」

「呪文解放遺跡なら、紫色に見えるやつだな」

「あるんだ!」

「魔法職についていれば、その呪文に適性がなくても、遺跡に入れるであろう」

「ぼく賢者だから、入れるね。次は紫の遺跡に行こう。どこにあったかな。あ、そうそう。南の花畑の入口に制限があったとこ。たしか、あそこが紫だった。条件が従者なし一人でっていうの」

「ふむ。まあ、今のおまえなら一人でも苦戦はするまい」


 明日は南の花畑だ。どんな魔法がおぼえられるのか、今から楽しみだ。

 そんなふうに考えながら神殿へ帰ると、馬屋の前にウーウダリが待ちかまえていた。


「ああっ、レルシャさま! やっぱり、ぬけだしてましたね。そうだろうと思いましたよ。ようすが変なんだから」

「えへへ……」

「えへへじゃありませんよ? しかも、またホプリンを買ったんですか? いや、お金はないはずだから、遺跡で手に入れたんですね?」

「う、うん……」


 隠し通路が見つかってしまったら、きっと寝室を別の部屋に移動させられる。せっかく遺跡めぐりを満喫してたのに、ここに来て、またもやピンチ……。


「マスターレルシャ。この無礼な人間は何者ですか? ラビリンがやっつけましょうか?」

「いや、それはやめて。悪い人じゃないから」

「ラビリンなら瞬殺できますよ?」

「だろうね……ははは」


 これが気にくわなかったのだろうか? ウーウダリはギュッと口を一文字にむすんだあと、こんなことを言いだした。


「わかりました。そこまでおっしゃるなら、私を倒してごらんなさい。これでも、私、昔は冒険者をしておりました。そこそこの腕前はございます。もしも、レルシャさまが私を倒せたら、遺跡めぐりを認めましょう」

「ほんと?」

「私より強いなら、危険はないわけですからね。従者に頼ってもかまいませんよ?」

「いいの?」

「男に二言はございません」

「じゃあ、ラビリン。やっちゃって」

「おまかせあれ」


 ラビリンのまわしげりをくらったウーウダリは一瞬で倒れた。

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