第25話 ニャルニャの力



 強いとは思っていた。前にスライムを次々なぎたおしたときも、いくら最弱モンスター相手とはいえ、圧勝だった。


「ニャルニャの玉、数えてもいい?」

「ニャ」


 いいよと言ったらしい。

 数えると、百二十二個もあった。


 スピカが知識をひろうする。

「ホプリンの才光は平均百五十前後だ。成長率はよほどのことがなければ、個人差はなく五倍であるな」

「えっと、大人になってるから、成長限界値には達してるんだよね。じゃあ、百二十二の五倍……ろっ、610? ニャルニャの戦闘生命力って610もあるの?」

「戦闘攻撃力は残念ながら十分の一になる」

「それでも60もあるよ!」

「なーな、ななーな、なんなんなー」


 またまた、スピカの通訳。

「ニャルニャはホプリンの仲間のなかでは弱いほう、なのだそうだ」

「ホプリンって、どんだけ強いの!」

「まあ、ほとんどは戦闘用ではないから、頑健かつ力持ちでよく働くだけだがな」

「だって、610なら兵士四人ぶんの強さだよ?」

「伝説のホプリン大王は戦闘生命力かるく五千ごえだったというぞ? 能力を十倍に伸ばす幻の秘宝ホプリン石を持っていたというがな」

「五千……兄上よりずっと強い……」


 ホプリン族、じつは最強説……。


 レルシャはハッとした。

「それって、ぼくの生命力95にニャルニャの610を足して、あのゴーレム、700生命力ってことだよね?」

「うむ。そうなるな」

「そんなの勝てないよ!」「まあ、がんばれ」


 こうなれば、持久戦だ。

 レルシャのマジックポイントは現在47。十五回はプチファイアを打てる。ニャルニャのネコパンチとあわせれば、一回で100ていどのダメージだ。つまり、七、八回も攻撃すれば倒せる!


「よし。やるよ。ニャルニャ」

「なー!」


 こっちが話しこんでるあいだ、なぜか、ゴーレムは攻撃してこなかった。いったん戦闘休止だと察してくれたのかもしれない。本物の魔物だったら、こんなに悠長に待ってくれていない。レルシャは女神に感謝した。


「さあ、来い」


 ゴーレムはまた関節をクルクルまわすと、あらためて走ってきた。


「なー!」


 さっきの方法でニャルニャがゴーレムをとばしてくれれば、プチファイアとの連携で安全に敵だけにダメージを負わせられる。


 が、ニャルニャの能力値を足されたゴーレムは強かった。一度受けた攻撃を二度はくらわない。ネコパンチがあたる寸前しゃがみこみ、バネの力を利用して跳躍ちょうやくしてきた。ニャルニャの頭上をとびこえ、レルシャにむかってくる。あっと思ったときには、ゴーレムの木のかかとが頭の上に落ちてきた。俗に言う、かかと落とし。レルシャの意識は遠のいた。


「……シャ。……レルシャ! えーい、起きんか。レルシャ!」


 スピカに呼ばれて、ようやく気づいたのは何分後だろうか。ニャルニャとゴーレムが激戦をくりひろげている。が、レルシャぶんの能力をふくんだゴーレムのほうが少しだけ強い。ニャルニャはもうダウン寸前だ。


「な……なー……」

「ニャルニャ! ごめんよ。プチヒール!」


 ほんの少しニャルニャの生命力が回復するものの、ゴーレムの一撃でそのぶんだけ減る。


(プチヒールじゃ足りない。もっと大きく治せる魔法じゃないと!)


 呪文は知っている。これまでマジックポイントの不足で、ほとんど使ったことがないだけだ。よほど調子がよくないと成功しなかった。


(やれる。今のぼくならやれる)


 決心して、レルシャは叫ぶ。

「ハーフヒール!」


 呪文には術者の魔力に関係なく、最低限約束された固定威力がある。プチヒールでは30しか回復しないが、ハーフヒールなら100前後だ。三回くりかえせば、ニャルニャの生命力は半分もどる。


「なー!」


 グッタリしていたニャルニャが反撃を開始する。ネコパンチ連打だ。ゴーレムは両手で頭部をガードしながら、すみに追いつめられていく。


「なー!」

「ギギギ……」

「なー! ななー!」

「グ……ギギグ……」


 ゴーレムはもう、うずくまっている。


「よし。最後の一撃だ。プチファイア!」


 炎が頭にあたると、ゴーレムは動かなくなった。


「やったー! 勝った。勝ったね。ニャルニャ」

「な〜な〜」

「おおっ、われらの勝利!」

「スピカはなんにもしなかったよね?」

「何を申すか。われが起こしてやったではないか。あのまま失神しておれば、負けておったぞ」

「まあ、そうだけど」


 三人(一人と一匹と一柱)の勝利と言えなくもない。

 天井から女神の像がおりてきた。赤いあたたかな光がレルシャを包む。自分のなかから力がわきあがるのを感じた。攻撃力がグンとあがったと自分でもわかる。


「護符石に赤いのが増えてる」


 才光の玉とは形状が異なる。なんとなく剣に見えなくもない、ぷっくりした十字架形だ。


「それは攻撃比率に補正をかける玉だな。その大きさなら一割増しになっているであろう」


 レルシャの攻撃力が20になった。

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