今日も素敵な退屈で

発酵食品

第1話 人生はチョコレートの箱のよう

「人生はチョコレートの箱のように開けてみるまで中身はわからない…ってセリフがあるけどチョコレートの箱なんだから入ってるのもチョコレートだよな?」


いつも通りの放課後の昼下がり、俺は何気ない疑問を投げ掛ける。


「フォレスト・ガンプだね…!うーん、あれは人生は予想不可能で何が起こるかは起きてみるまでまでわからない!っていう解釈じゃないのかな?」


 俺の話に明るく返してくれたのは佐藤陸、ふわふわとした栗色の髪とクリッとした大きな目、ほんわかした癒し系美少女だ…?ん、美少女?あれ、でも男子の制服を着ているから男なのか?こんなにかわいいのに??


陸と出会ってからというものの何度も行っている自問自答を心の角に追いやりつつ


「いや、俺は"チョコレートの箱"っていうのが己の器を暗喩していると思うんだ…ようするにあの言葉は己の器…身の程を弁えつつバランスよく生きなさいというメッセージだと考えられる!」


「まったく相ノ木はひねくれるんだから」


まったくもう、といった表情で陸が俺に柔く笑いかける。かわいすぎかよ。


「ふっ低俗な話だ……」


俺の対面に座る男が二人の甘い談笑に水を差してきた。


「なんだよ紫音、会話にまぜて欲しいなら素直にそう言えよ。」


「そ、そ、そんなこと言ってないだろ!」


コイツは長門紫音、腹の立つことに長身で黒髪でメガネでイケメンだ。普段だったらこんないけすかない美男子とつるむなんてごめんだが、一応同じ部活に所属してしまっているので仕方がなく同じ空間に存在していることを許容している。


ん、コイツなにやら先程からノートに書き込んでるみたいだぞ?


「紫音、それ何をしてるんだ?」


「ふっ……見て分からないのか相ノ木……算数だ!」


やれやれと言った感じで額に手を当てつつそう言い放つ。

……数学のことを算数と言う高校生なんてこいつくらいのものだろう。おちょくってやるか。


「なるほど、紫音は偉いなあ勉強してるのか~」


「英国紳士として当前だ……」


「おまえ純日本人だろ……?いやバカだし"準"日本人か。」


コイツとの会話は変化球でキャッチボールしてるのかって言うくらい毎回噛み合わないな。

あっ俺の隣で陸が小刻みに肩を震わせている。


「ふっ……ふふ……コホン……あ、相ノ木、言いすぎだよ!紫音はその…ちょっと勉強が苦手なだけで…」


菩薩の様な慈愛の心を持つ陸が、いつもの様に会話がヒートアップしないためにバランサーとして介入する。……笑いを堪えながら。


「何を言う陸!僕以上の"インテル"は中々いないぞ!」


「"インテリ"な?とりあえずお前の脳みそはインテルが入ってないことが分かった。」


「い、言い間違えただけだ!いちいち揚げ足をとるな!」


「い…ふふっ…インテルって…ふふふ。」


どうやら紫音がインテリをインテルと間違えたのがさらに陸の笑いのツボを刺激してしまったらしい…まったく可愛く笑うやつだ…ほんとに可愛いな!?


「紫音、11×11は?」


俺はさっきまで算数を頑張っていたと言う紫音に適当な問題を出題してみることにする。


「なめるな相ノ木………132……だろ?」


「流石だな紫音…」


流石のアホさ加減だ。


「このくらいは余裕だ」


そう紫音がドヤっている前で陸が笑い過ぎて過呼吸気味になっていた。ごめんな陸、コイツがアホすぎるあまりに……。


そう、長門紫音は壊滅的に勉強が出来ないのだ。

コイツは見た目には恵まれているが最高にアホなのだ。やはり天は人に二物を与えないものであると俺はしみじみ思った。


「はぁ、はぁ……もう相ノ木!紫音をイジったらだめでしょ!」


透き通るような肌に赤く染まった頬をぷくーっ膨らませながら陸が、めっ!と怒ってきた。

陸はかわいいし性格もいいし勉強もできるしかわいい、前言撤回…神は人に二物も三物も与えたもうた。


「それで相ノ木達は何の話をしていたのだ?」


これ以上からかわれまいと紫音が会話を戻す。コイツにしては賢い選択だ。


「あぁフォレスト・ガンプのチョコレート箱のセリフの考察をしてたんだ!ふふっ僕たち映研っぽいことしてるよね!」


「おう!名作の名言の真意を理解することによって映画の理解度を上げようとしているんだ!」


 そう俺たち三人は高校の映画研究会の集まりで、放課後に部室に集まってはこうやってだらだらと会話しながら日々を消化している。


 俺達の通う御机高校は何か1つは部活に入ってなくてはいけない校則で、特にやりたいこともない俺は、好きな映画をだらだら見れると踏んでこの部活に入部した…訳ではなく、映研に1人だけいる先輩に半ば強引に脅されて入部させられたのだがこれはまた別のお話……。

 

 そして入部してから分かったことだが映画研究会は部員が俺たちと先輩を合わせても四人しかいないらしく、部員のやる気が感じられず、映画研究会として何の成果もないということで部費は降りないわ、映画研究会なのに備え付けのテレビすらないわで部室も部室棟の最奥に追いやられている。


 まあでも紫音はともかく陸と無料で会話できるので悪くない環境ではあるな。


「なるほど、チョコレートの箱か…よく分からないがチョコレートの箱ってどんなものなのだ?」


 紫音がそんな質問を投げ掛けてきた。どゆこと?


「紫音…おまえチョコレート食べたことないのか……」


 まあコイツのことだ今更そんなことでは驚かないが


「違う!チョコレートは好きだ!そうじゃなくてそもそも"チョコレートの箱"というのも色々あるし、バリエーションに富んでいるんじゃないか?という話だ!」


「なるほどね!紫音の言うとおり確かに板チョコの箱だったりゴデ○バの箱だったり色々あるよね!」


陸が紫音の言葉を分かりやすく整理する。さすが出来る子!よっ良妻賢母の鏡!


「なるほどな……紫音もたまには鋭いことをいうじゃないか?」


「ふっ……貴様ら凡夫とは目の付け所が違うのだ。」


「俺、バカだからよくわからねえけどよ!って頭につければ完璧だったな」


「誰が普段はバカだけど時々鋭いことを言うキャラだ!」


そんな会話をしている横で陸がスマホで何やら調べていた。


「今、携帯でチョコレートの箱を色々調べてみたんだけど、中が幾つかの仕切りで区切られてるタイプが多いみたいだね!あっハート型の箱とかもあるよ!」


どうやら俺と紫音がじゃれてる間に、陸はチョコレートの箱について調べていたらしい。さすがだな!


「ふむどれどれ、あうっ。」


「ん、どうしたの相ノ木?」


「あ、いやなんでもない。」


検索画面を見ようと陸の携帯を覗き込んだ折に陸の髪の毛からいい香りがした。すごいいい香りだ、桃とキンモクセイが混ざったようなフローラルでいて透き通ったスメル…男子特有の雄臭さがまったくない…!今度、こっそりビニール袋に陸の周辺の空気を確保して家で楽しもう…!


そんなギリギリ最高にキモいことを考えつつ気を取り直して三人でデコを突き合わせて画面に映るチョコレートの箱をながめていく。


「これなんか引き出しみたいになっていて高級感があるな…まるで僕のようだ。」


紫音が三段の引き出しがついた、いかにも高級感溢れる箱を指差して言った。


「確かに多種多様なボケの引き出しの多さは紫音の特権だもんな」


「別に普段からボケてないのだが?」


いや、お前はちゃんと危機感持って自覚したほうがいいぞ?いつかやらかしそうだ。


「ん~じゃあ相ノ木はこれかな!」


陸が某き○この山のパッケージを指差す。指先が綺麗!ポイント高いな!


「おっき○この山か!好きだぞ!」


「ふえっ、あっ、ああきのこの山がね!」


なぜか赤面している陸を傍目に紫音が疑問を放つ。


「陸よ何故、相ノ木がき○この山なのだ?」


「はえっ!あっ、う~ん、相ノ木って基本ひねくれてるから、たけ○この里とき○この山だと判官贔屓で、き○この山側について、俺はき○この山の良さが分かる男……みたいなこと思ってそうだからかな!」


おっとこれは聞き捨てならないぞー!


「おやおや陸くん?き○この山が"判官"贔屓だって?それはそもそも仮定が間違ってるんじゃないのか?き○この山は別に負けていないと思うけど??」


「ほら、どう考えてもたけ○この里の方が人気なのにこうやって突っかかってくるでしょ?」


そう言って陸がいたずらっ子のような顔をする。かわいい!しかし俺にも譲れないものはある!


「よろしい、ならば戦争(クリーク)だ!いくら陸だからと言っても容赦しないからな!」


「き○こ、たけ○こ戦争でき○こ陣営が勝つことなんて未来永劫ありえないけどね。」


 めったに熱くならない陸が意固地になっているッ…くっかわいい!負けてやりたい!しかしレペゼンき○この山として負けるわけには……。


「クックック貴様ら作戦室で戦争は困るぞ。」


 紫音がキューブリック映画の有名なセリフで横やりを入れる。こいつに『博士の異常な愛情』を理解できる頭があるとは到底思えないが、なんとなくタイトルが格好いいから試聴したのだろう。


「おい紫音、おまえは高貴なき○こ派か?それともミーハーなたけ○こ派か?」


 一応、紫音にも聞いておこう。コイツもどちらかと言うとき○この山派っぽいし。


「紫音は民意を尊重するたけ○こ党だよね?き○こ党なんていう独裁政権、この令和の時代に許されていいことじゃないよね?」


 陸がかわいい顔して中々なことを言ってくる。たしかにき○こ派が排他的なのを否めない感はあるが、そんなに言わなくてもよくない??

 紫音は指で眼鏡をクイッとあげるメガネキャラがよくやるムーヴをすると


「僕は木こり○切株派だ!」


 紫音がいい放った言葉により静寂が訪れる。

ああそういえばそんな菓子もあったなあと、ぼんやり頭にパッケージが浮かびそうで浮かばなかった。


「うわ~こいつ一応、第三勢力としてギリギリ聞いたことがあるマイナースナック出してきやがった。」


「話にならないね…がっかりだよ紫音。」


 俺と陸は落胆したといった感じでじっとりした視線を向けた。

 だが紫音は何か変なことでも言ったか?といった様な様子で


「いや、家の近くのコンビニによく売っていたので子供の頃からよく食べていたのだ……そんなにマイナーなのか?あのパッケージに斧を持ったおじさんが載っているやつだぞ?」


 いや共感を求められても分からないものは分からない。

 しかし、どうやら本当に紫音は切り株派らしい……そしてこういうところが紫音らしいっちゃ紫音らしい。


「いや、切り株型なのはギリギリ思い浮かぶけど斧を持ったおじさんのパッケージのイメージはないぞ?」


「うーん、僕も想像つかないなあ。」


 どうやら陸もパッと来ていないようだ。

まあそりゃ俺を含め大体の人間は木こり○切り株とは所縁がないだろう。そんな態度に紫音はご不満なようで


「何故なのだ!あ~んぱんおじさんの親友で薪を渡してパンを焼いて貰い、エブリバーガーによくイタズラをされるおおらかで頼もしくロマンチストでもあり趣味は登山と散歩、特技は歌うこと、十八番はオペラ、休日にはSNSチェックをし好きな言葉は燃え上がれ!の木こりのおじさんを知らないのか!?」


「設定が大渋滞してるじゃねえか!そんな奴いるわけないだろ!」


俺は紫音が無駄に饒舌に言い挙げた木こりのおじさんのプロフィールに思わずツッコミを入れる。


「いや、相ノ木…木こり○切り株の公式サイトに紫音が言った通りのことが書かれてるよ…」


陸がスマホを片手に恐る恐るといい放つ。え?マジでそんなキャラが存在してるの?


「ほらみたことか!きこりのおじさんは愉快なのだ!」


紫音が鬼の首でも取ったかのように言った。


「な、んだと……」


「なんかそこまで言われると気になるよね……木こり○切り株。」


ぐっ悔しいが陸の言う通り気になってきたッ!


「ふっではこれから買いに行こうではないか!もう時期、下校時間だろう。」


 紫音がそう言うとタイミングよく下校のチャイムが鳴り響く。まあやることもないし3人で買いに行くか。


「よし、それじゃみんなお疲れ!じゃ紫音、店まで案内してくれ。」


「よかろう貴様らも木こり○切り株の虜になるがいい!」


 まるで市民権を得た難民のようにはしゃいでいる紫音を横目に帰り支度をしながら


「なんだか楽しみだね!どんな見た目でどんな味なんだろう!」


「どうだろうな、チョコレートの箱は開けてみるまで中身が分からないもんらしいからな。」


そう言って俺たちは部室を後にした。


               つづく


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