星空の約束

水戸 遥

第一章: 再会

田中涼太は高校生としての最後の夏休みを迎えていた。蒸し暑い日々が続く中、彼は夏の夜空を見上げることが増えていた。田舎町に生まれ育った涼太にとって、星空はいつも特別な意味を持っていた。彼が星を見るたびに思い出すのは、幼い頃の彼女、桜井美咲との思い出だった。


涼太と美咲は幼稚園からの付き合いで、いつも一緒に遊んでいた。彼らが秘密の場所としていたのは、町外れの森の中の小さな丘にある古いベンチだった。そこは、二人が未来の夢を語り合う場所だった。星空の下で、二人はいつか再びこの場所で会おうと約束した。


美咲が都会の高校に進学してから、二人の距離は次第に離れていった。都会の忙しい生活に追われる美咲との連絡は徐々に途絶え、涼太は彼女との思い出を胸にしまいこんでいた。しかし、高校生活の最後の夏休み、涼太は再び美咲に会う決心をした。



涼太は早朝の電車に乗り込み、都会へと向かった。美咲の通う高校の近くに降り立つと、彼は緊張と期待で胸が高鳴るのを感じた。都会の喧騒に包まれながらも、彼の心は昔の記憶に引き戻されていた。


彼は美咲が通う学校の近くで待ち続けた。放課後、美咲が友達と一緒に校門から出てくる姿を見つけると、涼太は躊躇せずに声をかけた。


「美咲!」


彼女は驚いた表情で振り返った。涼太の姿を認めると、目が大きく開かれ、瞬く間に笑顔が広がった。


「涼太!久しぶり!」


二人は再会の喜びを感じながら、近くのカフェに入った。涼太は、美咲が変わらず美しい笑顔を見せることに安堵した。しかし、彼女の瞳の奥に微かな寂しさを感じ取った。


「都会の生活はどう?」涼太が尋ねると、美咲は少しだけため息をついた。


「大変だけど、楽しいよ。でも、やっぱり田舎の方が好きかな。涼太は元気にしてた?」


「うん。相変わらずのんびりしてるよ。でも、美咲に会えて本当に嬉しい。あの丘のこと、覚えてる?」


美咲は微笑んでうなずいた。「もちろん。あそこは、私たちの秘密の場所だもんね。」



夏休みの間、涼太と美咲は昔のように頻繁に会うようになった。二人は再び親密な関係を築き、都会の喧騒の中でも心の安らぎを見つけた。涼太は美咲の悩みを聞き、彼女を支えることに全力を尽くした。


ある日、涼太は美咲に提案した。「夏休みが終わる前に、あの丘に行ってみない?もう一度、星空の下で話したい。」


美咲の顔が明るくなった。「うん、いいね。行こう。」


二人は再び森の中の丘に向かい、星空の下で過ごすことにした。彼らは古いベンチに座り、夜空を見上げながら未来の夢を語り合った。


「涼太、私たちの夢、まだ覚えてる?」美咲が尋ねた。


「もちろんさ。いつかまたここで会って、未来のことを話すって約束したんだろ?」


美咲は満足そうにうなずいた。「そうだね。私たち、ちゃんと約束を果たせたんだ。」



再会の日々が続く中で、涼太は美咲が都会で抱えるプレッシャーやストレスを少しずつ理解していった。美咲は勉強や部活に追われ、心の余裕を失っていた。しかし、涼太との再会によって、彼女は少しずつ元気を取り戻していった。


涼太もまた、美咲と過ごす時間を通じて、自分自身の成長を感じていた。彼は美咲を支えることで、自分の存在意義を再確認し、彼女との未来に向けての希望を抱くようになった。


夏休みが終わると、涼太は再び田舎に戻ることになったが、二人は互いに連絡を取り合い続けることを誓った。都会と田舎の距離を越えて、彼らの絆はさらに強くなっていく。

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