第4話 はぁ?文官になる?計算もできないのにミスったら懲罰を受けますが大丈夫でしょうか?①

「おいユフィ!僕は文官になる! だからこの部署に配属されるように紹介状を書いてくれ!」

「はぁ?」


えぇと、この方はまた、朝からおかしなことを言い始めました。

私は危うく口をつけていたコーヒーを吹き出してしまうところでした。

なにか私の口やコーヒーカップに恨みでもあるのでしょうか?

 

それに旦那様は前回騎士になると言って訓練するために別荘に向かったのに道中で骨折して帰ってきたので、武官は諦めて文官を目指す、ということでしょうか?


いや、部署まで指定してきていることから、気に入った相手がきっとそこにいるのでしょうね。

わかりやすいけど、相変わらずなりふり構わない浮気性で困ってしまいますね。


そんな彼の誘いに応えてしまう方がいらっしゃるというのも問題なのですが、どうせ我がクルスローデン伯爵家の名前を出し、実家であるアーゼンベルク公爵家の名前を出し、ありもしない実績などを披露して気を引いたのでしょう。旦那様は口は回るようですから。

もしくは最初から全てバレていて、利用されているのでしょう。


困りましたわね。

 

実を言うと、現在我がクルスローデン伯爵家としては旦那様が指定してきた部署に手駒を配置したいと考えているところでした。

 

そこは貴族の税務を監査する部署です。


誤解しないでくださいね。

わが家が脱税とか、違法なことをしたい、またはしているというわけではなく、むしろ逆です。


最近、親しくしている侯爵様から脱税の可能性がある家があってその対応に悩まれていると伺ってしまったのです。今後その方と友好な関係を築き上げていくためにも、できれば調査して差し上げたい。そのために手っ取り早く誰かをその部署に配属させられないかと考えていたところでした。


ちなみに当家は基本的にそういった文官を出したことがありませんし、あの醜聞しかないバカな旦那様なので怪しまれることはないでしょう……というか、警戒するだけ無駄です。


あまりにもドンピシャなタイミングですわね。

ここは思い切って旦那様に行ってもらいましょうか。



「思い切りすぎではないでしょうか?」

心底呆れたといった表情でじっと私を見つめるのはやめてください執事長。

 

そう言いましても他に行かせるものがいないのですから仕方ありません。

税務は国の大事なのですから、それを取り仕切る部署には高位貴族の縁者がたくさんいらっしゃいます。そんな中にまさか平民や下級貴族の子弟を送り込むわけにはいきません。


女伯爵である私の夫にもかかわらず領地経営には全くもってこれっぽっちも携わっておらず、しかし出自は公爵の子である旦那様は、その部署に放り込んで全く違和感がないという稀有な人材なのです。

ちょっと頭が弱くて、浮気性で、飽き性だし、計算はできませんし、思考力もかなり偏っているというデメリットがありますが、侵入だけはできます。


「デメリットが多すぎると言っております」

わかっていますよ執事長。


でも他に手段がないのです。

それなら行かせてしまって……例えばあえてミスさせてあぶり出すとか、混乱を起こさせてどさくさに紛れて疑念がある貴族の書類を探るとか、そういった手段しかありませんわ。


逆に失敗しても話を伺った侯爵様の手伝いができないというだけで、端から過度な期待はされていません。つまり行かせることに特に大きな問題はないのですから。


「旦那様の醜態が露わになりますが?」

それでも執事長は折れてくれません。珍しいですわね。

 

「今さらそれに何の意味があるの? 周知の事実ですわよね?」

「そこまで開き直ることがそもそも問題のような……」

それこそ今さらです。もし醜聞を表に出さないようにするということであれば、幽閉するしかありません。

そして看守には枯れたおじいさんで、耳が遠くて、目も悪く、それでいて猜疑心の強い方をあてないと。

そこまでやって、ようやく彼の口先で騙されて幽閉を解いてしまうという事態を防げるでしょう。

そんな面倒なことをするつもりはありません。


そもそも……

 

「全て前公爵様のせいであって、当家の責任ではありません。これもかなりの方が理解してくださっています」

「そこまで仰るのでしたら……」


そんなこんなで自家で働いていない旦那様の働き口を求めているという名目で送り込んだのです。


公爵様から『あのバカが!?それは当家への嫌がらせか何かか?血迷うなユフィ殿。自爆攻撃なんか流行らないぞ?相談しよう、なっ!我々が協力すれば明るい未来が待っているからな』とか言われて握りつぶされそうになったのを誠心誠意説明して何とか回避し、見事に旦那様を希望の部署に送り込むことに成功しました。

公爵様にはそんなバカのお守りで大変なんですが……と嫌味を言ったら美味しいワインを頂きました。



そして当の旦那様は毎日張り切っておめかしされて出かけて行きます。

何も知らなければ毎日社交に忙しいのかと思うくらいの気合の入れようですが、行先は財務部門……。


当然こんな頭の中がお花畑な方はすぐに蹴り出されて帰ってくると思っていたのですが……




「ついに見つけたぞ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る