第2話 はぁ?旅に出る?そんなことをしたら路頭に迷う気がしますが大丈夫でしょうか?

「僕は旅に出るぞ!探さないでくれ!」

「はぁ……」


今朝もまた寸劇が見られるのでしょうか?


数日の監禁で離婚に関する法律や、わが家の現状などについてまとめられた文章を渡しましたが全く読まないので目の前で執事に朗読してもらい、それでもダメなので執事にもう一度読ませてそれを旦那様に復唱させてみました。


復唱後に内容確認のために旦那様に簡単な質問をしたところ1問目から首を傾げられ、無力感に苛まれた執事を慰めるのが大変でした。


それでこのバカはなぜ突然旅などと言い出したのでしょうか?

旅先で活躍して……無理ですね。きっとこの方は子供にも勝てません。


「どなたかと一緒に行かれるのですか?」

「詮索はしないでもらおう!お前の監禁から逃れるためなのだから!」

ダメです。このバカは既に悲劇のヒーロー気取りです。


もういっそのこと旅とやらに出てもらって、そのまま行方不明になってもらいましょうか……。

ついでに領内にいる竜の生贄になってもらえたら……。


「わかりました。路銀は渡せませんが、幸運をお祈りします」

「なにっ?」

えっ?なにを驚いているのでしょうか?

私がすんなりと許可を出したことにでしょうか?



「この僕が旅に出るのだぞ?道中の安全を祈ってむしろ警備の冒険者を雇うため、さらに食料や地図などの必要品を買うために路銀を渡すべきだろう!」

そっちかよ!?


バカなのでしょうか?そもそも普段から相応のお小遣いはあげているはずでしょう?

まぁ、どうせ女との遊びに全部使ったか、賭博ですったのでしょうね。

借金だけはしないように監視はさせているので特に問題はありませんが。


「それをするとなると、まず行先と目的を明示してもらって、それに必要な金額を計算し、予算から出せるかを検討する必要があります。お金は伯爵家のものなのですから勝手には使えませんので」

「なっ?」

やはりバカなのですね。

湯水のように勝手に自由にお金を使えるとでも思っているのでしょうか?

家が傾くことに何ら興味を持っていないバカ貴族家なら当主やその妻が散財しているという話を聞くことがありますが、当家でそれは許しません。


「それではまず、旅に出る目的はなんでしょうか?行先は隠したいとのことなので、ひとまず置いておきますわ」

「ぐっ……」

はい、目的は言えませんよね。

きっと女遊びのため、または気に入った女との旅行、他に可能性があるとしたら気に入った女を助けるため……これくらいしかないでしょうから。


「目的も言えない、行先も言えない、では予算申請ができませんので却下ですわ」

「ふざけるな!それくらいお前の裁量でなんとかなるだろう!」

「では、毎月差し上げている旦那様の財布からお出しください。あれが私の裁量の結果です。あれ以上は無理ですわ」

「もういい!自分でなんとかする!」

どうせ全部使っているでしょうから無理でしょうね。


黙り込んで行ってしまいました。

あれはきっと借金でもしていこうとしていますね。

それは無理ですよ?


「執事長」

「はい、こちらに」

「伯爵家では旦那様の借金の保証はしないことを全ての商人に伝えなさい」

「むしろ旦那様をどこかに閉じ込めた方がいいのでは?」

あっさりと怖いことを言いますね。


「ある程度自由にやらせないとまたなにかバカなことをし始めますから」

「わかりました」

執事長は私を哀れみながら部屋を出て行きました。離婚だの旅に出るだのと言い出すこと自体がバカなことだとはわかっています。ただ、実害は……執事たちや私の困惑や疲労だけですわね。



夕方……。


「どういうことだ!?」

予想通りやってきました。バカが。

きっとお金を用意できなかったのでしょう。


「どうされたのですか?」

面白いのでとぼけてお返事します。


「とぼけるな!僕の借金の保証人には一切ならないと言ったそうじゃないか!」

「あたりまえですよね?ご自身の言葉を忘れたのですか?」

「僕がなんだと?」

「ご自分で何とかすると仰いました。ですので、伯爵家では何もしないことを決めて、方々にお知らせしたのです」

「なっ」

ぷぅ、すみません、勘弁してください。

目の前でぷるぷる震えるのは面白すぎますよ。

でも、さすがにこれ以上はまずいでしょうか。


そもそもこの方は致命的に貴族の責務をわかっておりませんし、驚くほど自由奔放で女好きなので、あまり追い詰めるととんでもないことを仕出かしそうですね。


そろそろ公爵家に帰っていただきたいのですがそれも難しいでしょうか……。


離婚を言い出したときに受け入れて公爵家に叩き返していればよかったでしょうか。

現公爵からは恨まれそうですが。


難しいものです。

伯爵領を守るためと思えば結婚相手がバカなくらいは受け入れられるのですが、こうも問題を起こされるとさすがに。


「聞いてるのか!僕の邪魔をしたんだからお前がなんとかしろ!」

「黙れ」

「ひぃっ……」

いけません、つい殺意と殺気を表に出してしまいました。


とりあえず騎士の一人に旦那様を演技で襲うように言い、全く対応できない旦那様に旅など無理ですと伝えました。


誘拐でもされて当家に身代金請求なんてされても断りますよ?

そういったことをこんこんと説明して差し上げたのですが、驚きすぎてひっくり返っていらっしゃったのでどこまで覚えていらっしゃるか不安ですわ。

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