呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります⁉~
さとう
第一章
プロローグ
ソラシル王国。
世界最大の王国であり、人類最強の戦士である『騎士』が集う国。
ソラシル王国王都ギラファド。貴族街の片隅にある小さな屋敷の庭で、少年と少女が木剣を振っていた。
「やっ、はっ!!」
「甘いぞ、レイアースっ!!」
カコン、カコンと木剣のぶつかる音が響く。
黒髪、赤目の少年ラクレス・ヴェンデッタは、幼馴染の少女レイアース・ヴァルキュリアの一撃を受け、軽くいなし、木剣を叩き落とした。
ラクレスはニカっと笑い、木剣をレイアースに突きつける。
「俺の勝ち」
「あっ……う~、また負けた」
ライトシルバーのショートヘアに、アイスブルーの瞳を潤ませるレイアース。ラクレスが手を伸ばすと、その手に掴まって立ち上がる。
お尻の砂をパンパン叩き、ムスッとして木剣を拾う。
「また負けた。ラクレスってば強すぎるよ……私、ちっとも勝てないし」
「ははは。そりゃそうだ、俺毎日訓練してるし。父さんに稽古も付けてもらってるしな」
「わ、私だって、お父さんに訓練してもらってるもん。でも……訓練時間はラクレスのが長いし」
「お前、おばさんから料理とかも習ってるんだろ?」
「まあ……」
その料理を習う理由がラクレスのため、だとはラクレスは知らない。
ラクレスは、木剣を庭に置いてある樽に戻すと、レイアースに言う。
「とりあえず、今日はここまでだな。今日は母さんがシチュー作ってるんだ」
「あ、いいなあ」
「たぶん、またお裾分けすると思うぞ。なあなあ、そっちの家は晩飯なに?」
「うちは、昨日お父さんが買ってきた子豚かな。蜜漬けにして一晩おいてあるから、す~っごくいい味になってると思うんだ」
「おお、そりゃ楽しみだ!!」
「ちょっと、私いっぱい食べるし、ラクレスのぶんはないからね!!」
「あ、ずるいぞレイアース!!」
レイアースは木剣を樽に投げると、塀を駆けのぼって隣の家へ。
最後に、アッカンベーをラクレスに向けてやると、手を振って家に入った。
「子豚……へへ、わくわくするな」
幼馴染。
一緒に訓練をする仲で、夕食のお裾分けもする。
これが、ラクレスとレイアースの日常。二人が十四歳の時だった。
◇◇◇◇◇◇
ラクレス・ヴェンデッタとレイアース・ヴァルキュリア。
二人の父親は『騎士』であり、それぞれ騎士爵の爵位を賜った貴族であった。
貴族と言っても、暮らしは平民よりやや裕福な程度。
王都の貴族街の片隅に、平民の家よりやや大きな屋敷をあてがわれ、そこで暮らしている。
ラクレスとレイアースの家は隣同士。二人は幼馴染であり、共に騎士を目指す同士でもあった。
今日も、ラクレスとレイアースは木剣で訓練……訓練を終え、二人は庭のベンチに座り、果実水で喉を潤していた。
ラクレスは、レイアースに言う。
「な、レイアース。あと一年で十五歳……十五歳になったら、王城に行って兵士になろう。そして、『魔法適正』を調べて、騎士になるんだ」
「魔法適正かあ……」
魔法。
騎士になる最低条件。
魔法適正がある者は、兵役を終えた後に『準騎士』となれる。そして、そこから数々の任務をこなし、一人前の騎士となるべく歩み出すのだ。
「俺もお前も騎士の子だ。魔法適正は絶対にある。問題は……準騎士になったあとだ」
「う、うん」
「きっと、騎士の訓練はつらいし厳しい。準騎士から騎士に、騎士から聖騎士……そしていずれは『七曜騎士』になる。俺は絶対になってみせる」
「ラクレス……」
「レイアース。その時はお前も一緒だ。俺たちは二人で、騎士になるんだ」
「…………」
すると、レイアースは顔を伏せてしまう。
ラクレスは首を傾げ、レイアースに聞く。
「どうしたんだ?」
「……私、無理だよ。体力はないし、女だし、弱いし……騎士にはなりたいけど、絶対に途中であきらめちゃう」
「そんなことない。俺が一緒にいるさ」
「……ラクレスが?」
「ああ。っと、そうだ!! えーっと……ちょっと待ってろ」
ラクレスはポケットを漁り、レイアースの手を取ると何かを握らせた。
それは、指輪だった。
「え……これって」
「城下町の露店で買ったんだ。ペアリング……その、安物だけどさ。露店のおじさんが『約束の指輪』って教えてくれたんだ。心通わせた者と約束を誓い、指輪を互いの指にはめると、その約束は果たされるって」
「え」
レイアースは動揺した。
それはどう考えても『プロポーズ』の言葉。
レイアースは知らない。ラクレスがおつかいの帰りにたまたま見つけたアクセサリーの露店で、露店のおじさんと仲良くなり、友人に贈り物をしたいと言ったラクレスのために用意した指輪だと。
おじさんは、その友人が女だと会話の中で看破し、こんな指輪を用意したのだと。
ややはた迷惑な恋のキューピット……レイアースは名も知らぬ露店のおじさんに感謝していいのかどうか迷ったが、指輪を受け取った。
「さ、手を」
「え、え……あぅ、あぅ」
ラクレスは、自分の持っていた指輪を、レイアースの左中指に迷わず嵌めた。どうやらこれも露店のおじさんの入れ知恵らしい。
そして、自分の手を出す。
「レイアース、頼む」
「………あぅ」
レイアースは、震える手でラクレスの左薬指に、指輪を嵌めた。
ラクレスは立ち上がり、木剣を掲げる。
「約束する!! 俺は騎士になる!! そしてレイアース、もしお前が騎士になれなかったら、お前のことは絶対に、俺が守ってみせる!!」
「……あぅ」
「さ、レイアースも誓ってくれ」
「ぇ……ぅん。わ、私は……騎士になる!! そして、その……私も、ラクレスを守る!!」
こつんと木剣を交差させ、二人は笑った。
ラクレスは『友情』を、レイアースは『愛』を誓う。
いつの間にか、二人の両親が顔を合わせて苦笑している姿が見えた。
「へへ、頑張ろうぜレイアース」
「……うん!!」
ラクレス、レイアース、十四歳。
二人が兵士志願を受ける、一年前の誓いだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
薄汚れた、小さな部屋だった。
軋むボロのベッド、小さな椅子とテーブル、小さな窓に、クローゼット。
「…………ん」
ベッドから起きたのは、体格のいい少年……いや、青年だった。
黒い髪を掻き、ベッドから起きてカーテンんを開け、窓を開ける。
外の冷たい空気が室内に入り、青年の肺を満たす。
「ふぁ……朝か。準備しなきゃ」
青年は手早く着替える。
ズボンを履き、ブーツを履き、一般兵に支給される平服を着用する。
そして、部屋の片隅に立てかけてある剣を取り、腰に下げる。
「よし、朝飯食べて行こう」
青年の名は、ラクレス・ヴェンデッタ。歳は十八歳。
ソラシル王国歩兵隊、第十二中隊第七班班長補佐。
騎士ではない、一般兵士。
一般兵宿舎にある食堂でパンとスープを食べ、第十二中隊の部隊室へ向かう。
向かう途中、ラクレスは立ち止まり、敬礼を取る。
「おはようございます!!」
挨拶をするが、相手は無視。
なぜなら……相手は『騎士』だ。
ラクレスは、騎士が見えなくなるまで敬礼……小さく、ため息を吐いた。
「……俺も」
騎士になりたい。
騎士の礼服を着て、堂々と歩きたい。
だが、それは叶わない夢。
すると、早朝なのに騒がしい声が聞こえてきた。
周りにいた兵士たちが最敬礼。また騎士が来たのかとラクレスも最敬礼をする。
そして……その騎士は来た。
「……っ!!」
ホワイトの騎士鎧、美しいライトシルバーのロングヘア。
堂々と歩く騎士の名は……七曜騎士『光』のレイアース・ヴァルキュリア。
ソラシル王国最強の七騎士の一人であり、最年少天才騎士だった。
従者の騎士を引き連れ、堂々と歩く姿は、美しさと気高さで溢れていた。
「…………」
レイアースは、ラクレスに視線を送ることなく、歩き去った。
そう……これが、今の二人の距離。
ラクレスは、兵士。
レイアースは、騎士。
幼馴染であり、騎士になると互いに誓った。
だが……二人の距離は、あまりにも離れてしまった。
「…………レイアース」
騎士になるためには『魔法適正』が必要。
レイアースは『光』の魔法適正があった。だがラクレスは。
「……俺も、魔法が使えたら」
ラクレスは、魔法適正がなかった。
騎士には絶対になれないという現実が、今目の前にあるのだった。
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