第13話 デイビッドとリリーの決闘 後編
再び地を蹴り、二人の剣が交差する。
「随分と余裕そうだな」
「そういうデイビッド様は焦っていらっしゃいますね」
「っ、クソメイドが」
王族としてその言葉はどうなのか、とは言わない。
リリーはリリーでデイビッドのことをクソ王子と思っているからだ。
お互い様である。
――いける。
デイビッドの先ほどの発言から、リリーが余裕そうに見えるほど焦っていることがわかった。
リリーは常にメイド服で生活している。
いつどんな時でもユースティシアを守れるようにメイド服のまま戦えるよう稽古していたリリー。
そのため、うざったいメイド服を脱げれば当然の如く戦力を解放できる。
メイド服を斬ってしまったことは反省点の一つだ。
何かで縛ればよかったのだが、怒りで後先考えずに行動してしまった。
メイド服を一つ、無駄に捨てる羽目になってしまった。
ルーファスに叱られるのは確定だろう。
なら尚更勝たなくてはならない。
「ユースティシアへの不敬罪として決闘して勝った」となれば少しはお仕置きが軽くなるかもしれないからだ。
リリーはチラリと横目でユースティシアに視線を向ける。
心配そうにこちらを見ているユースティシア。
嗚呼、とため息が出た。
――やはりデイビッド様はユースティシア様に相応しくない。誰も、ユースティシア様のことをわかってない。
この世界は、不平等だ。
満足に食べられることの幸せを。
寒さを凌げる場所で寝れる幸せを。
欲しいものを買える幸せを。
満足に暮らす人ほどその価値をわかっていない。
今がどれだけ幸せで、満たされているか。
底辺を味わったリリーは知っている。
この幸せの価値を、そして、幸せには消費期限があることを。
「……本当に、わかってない」
デイビッドは、何もかも知らない。
無知で、哀れだ。
「あなたは何も分かってない。デイビッド様」
「なに……?」
豊かな世界に住む人が、リリーは哀れに見えてくる。
始まりがあれば、終わりもある。
それは万物全てに当てはまることだ。
だが、豊かな世界に住む人は、それを十分に理解していない。
「自分は大丈夫」と根拠もなく安心して、今日も生きている。
いつかそれが壊れ、落ちることを知らない。
本当に哀れだ。
「ユースティシア様のことも、私のことも、何一つわかってない……!」
ユースティシアは、豊かな世界に住む人にも関わらず、昔のリリーのような環境を当人以上に理解し、手を差し伸べた。
ユースティシアはリリーの唯一の光だ。
見ず知らずの自分を助けてくれた。
リリーの望むものを与え、支えてくれた。
自分を削ってまで誰かのために尽くす、まさに神様のような人だ。
――ユースティシア様がどれだけ我慢して、努力して、あなたを支えていると思ってる。
それを平然と、当然かのように受け入れるデイビッドが、リリーは大嫌いだった。
「っ……」
リリーの剣撃がデイビッドの頬を掠る。
右腕、左手首、右足首、左太もも……リリーの速さと攻撃威力が徐々に増し、デイビッドの胴を正確に傷つける。
「……先刻、ユースティシア様のことを特別愛しているとおっしゃっていましたけど、」
そしてついに、リリーの怒りは最高潮に達する。
「あんなものを“愛”だなんて呼ばないでください」
「っ……! 〜〜っ!!」
リリーの渾身の一撃にデイビッドの剣は耐えられなかった。
「なっ……!」
ピキ、ピキと剣身にヒビが入り、そして、粉々に割れた。
――もう終わりだ。
それでもまだデイビッドは剣を握っている。
ルール上、この状況でも「降参」と言わなければ決闘は続行される。
「戦いを続けますか? デイビッド様」
「……〜〜っ」
負けとわかっていても認めないデイビッド。
リリーも同じ立場なら負けは認めない。
「一つ、教えてあげます」
リリーはデイビッドの方に歩む。
「愛には様々な種類がありますが、共通点が一つあります。……相手を大切に想う点です」
剣先をデイビッドの首元に向ける。
「デイビッド様のユースティシア様に向ける感情は愛ではありません。“依存”です」
愛が歪み、狂った結果、依存となる。
リリーも例外ではない。
「……お前は、」
デイビッドが口を開いた。
「ユースを愛していると?」
「…………そうですね」
長い沈黙の後、リリーは答えた。
「少なくとも私は、ユースティシア様を一人の女性として、恋愛対象として、愛しています」
「!!」
「……」
ユースティシアは大きく目を見開き、デイビッドは眉間に皺を寄せた。
「……降参、しないんですか?」
「すると思うか?」
「……なら、必要程度に痛めつけるだけです」
リリーは剣を強く握り、攻撃に移る……はずだった。
「そこまでよ、リリー!」
「!?」
ユースティシアがデイビッドを庇うようにリリーの前に立ったのだ。
「もう、勝負はついているでしょう。攻撃をやめなさい。リリー」
「……嫌です」
おそらく、怒りでどうかしていたのだろう。
リリーは感情の制御ができていなかった。
「リリー」
そんなリリーを抑えられるのはただ一人。
「命令です。やめなさい」
ユースティシアだけだ。
「……………………かしこまりました」
リリーは攻撃の体勢をやめ、剣を捨てた。
「帰るわよ」
「はい」
「本日はわたくしのためにお時間を割いていただき、ありがとうございました。デイビッド様。近いうちに謝罪に参ります。では、失礼します」
そう言って、ユースティシアはリリーを連れてレイノルズ邸に戻るのだった。
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