第10話 稽古場のデイビッド
「デイビッド様なら稽古場にいますよ」
「ありがとうございます」
デイビッドと会う約束をして王城にやってきたユースティシアは、いつもの柔和な笑みを浮かべてデイビッドがいるという稽古場へ向かった。
「ユースティシア様。平気ですよ」
「っ、ありがとう。リリー」
今日来たのは、デイビッドにユースティシアの想いを伝えるためだ。
自分を偽り接することに息苦しさを感じ、また、周囲の大切な人を騙し続けることの罪悪感に耐えられなくなったのだ。
もう、迷わない。
昔のような関係を、デイビッドともう一度築きたい――。
「あそこですね、ユースティシア様」
「…………」
王族は命を狙われやすい。
そのため、性別を問わず一定の年齢になったら護身術を学ぶことになっている。
それは何歳になっても変わらないことで、デイビッドもそのうちの一人だった。
「! ユース……! 来てくれたのですね」
「お疲れ様です、デイビッド様」
「ユースから会いたいと言われたのは初めてかもしれませんね。どうしたのですか?」
「……わたくし、言わなくてはならないことがあって」
ここで決まる。
ちゃんと、言えるかどうか。
言えたとして、願った未来になるかどうか。
もし、壊れてしまったら、と考えると、怖くて仕方がない。
震えが止まらない。
だが、言わなくては進まない。
それは嫌だった。
「……っデイビッド様! わたくし、デイビッド様と仲直りしたいんです……っ」
「……仲直り?」
「その……ちゃんと、向き合いたいんです。デイビッド様と」
うまく伝えられるかはわからない。
だが、少なくとも、ユースティシアは昔のようにデイビッドから純愛を受けたいのだ。
今のデイビッドは
王位争いのための道具としか見られていないように思える。
そうなのだとしたら、これは狂愛だ。
愛、だなんて呼べるものではない。
「……僕のことが嫌いになったの?」
「っ!? いえ、そうではなくて」
いや、本当にそうではないのか?
昔のような関係に戻りたい。
つまりは、今は悪く、嫌いだということなのか?
自分は、デイビッドを愛しているのか。
心の底から。
本当に。
――わたくし、は……。
ユースティシアには、答えが出せない。
「ユース」
「っ……」
デイビッドがユースティシアの頰に触れる。
「ユースは、僕が特別愛していることを、僕のモノだってことを、わかってないようだね」
ゾッ、と、背中に何かが走った。
なんだ、なんだ、この感情は。
理解できない、いや、理解したくない。
ユースティシアは“怖い”と感じた。
そんなふうに思ったのは初めてだ。
前はなんとなくだったが、今回は違う。
「ユース。僕から逃げられると思う?」
“怖い”と思ったのはなぜか。
――所有物扱いをされていることに、嫌悪感に似た何かを感じたからだ。
本当に自分がデイビッドを愛しているのなら、こんなふうに、思うのだろうか。
「それにユース。君は蝶よ花よと愛でられているからわからないかもしれないけれど、ユースの存在はとても大きいんだ」
それはユースティシアが公爵家の娘であるからだろうか。
きっとデイビッドはそんなふうに思っていない。
だがそれは願いであって、事実ではない。
「ユースは僕の言う通りにしていればいいんだよ。美しい薔薇はただそのまま静かに愛されていれば」
一生、このままなのだろうか。
デイビッドから永遠の愛を受け、
愛する人の全てを信じ、
その人の幸せが自分の幸せであることを、
決して疑わず信じ、行動する。
――そのことを、リリーは許せなかった。
デイビッドの手を叩き、ユースティシアから離す。
そして優しくも強くユースティシアを自分の方に引き寄せ、デイビッドと距離を取った。
「……なんのつもりだ、リリー」
「デイビッド様こそ、どういうおつもりですか? ユースティシア様はデイビッド様の所有物ではございません。ちゃんと意思があります。それに、ユースティシア様の自由を束縛するような発言は見過ごせません」
「……っ! リリー……」
リリーはユースティシアの前に出て、凛とした視線をデイビッドに向ける。
何一つ逃さぬよう、じっと、獲物を狩る前の獣のように。
「デイビッド様。あなたに決闘を申し込みます」
「!!」
「……」
ユースは大きく目を張り、デイビッドは静かで冷たい視線を送る。
「本気か?」
「当然でございます。あるじを
「そうか。……なら、受けてたとう」
リリーはピリピリとした殺気を
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