隠語

美容室は薬剤をディーラーさんに注文して持って来てもらうか、配達してもらうんですけど、何が足りなくて何が必要なのかって、さじ加減が難しいんです。


 在庫に無いものを発注すればいいじゃん!


 そうなんですが、お客様が今何を求めているのか。


 今の時期によく出るカラー剤は?


 お客様の気分次第で偏りがあったりもします……。


 そこで注文の多いカラー剤が無くなっちゃうと大変ですよ!喧嘩ですよ!ケンカ!


 「おい!ブルーバイオレットがないんだけど……ちゃんと発注しとけよな!」


「えぇ?……多めに入れてたのになぁ」


「予約が入ってる時点で分かるだろ?どのくらい発注しておけばいいか!」


「そうですね、だからいつもよりも多めに入れておいたんですけど……みんなが使いすぎちゃったんですね!へへ」


「「へへ」じゃねぇよ!どうしてくれるんだよ、お客さんの希望なんだよ!」


 むっ……そんなにキレないでよくない?たしかに在庫管理はわたしだけど、足りなくなる時だってあるじゃん!在庫が残り過ぎたらオーナーに注意されるし、注文を多めにするのも限界あるじゃんよぉ!

 

「でもまぁ、ブルーバイオレットだったらアッシュ(ブルー系)とバイオレットを混ぜれば良くないですか?」


「ハァ?じゃあ何のためにブルーバイオレットがあんだよ!これでしか出せないからブルーバイオレットがあるんだろ!」


「いや、現状それが無いんだから、しょうがないでしょ?」


 プロなんだから、調合でなんとかしろよ!同じメーカーのカラー剤なんだから調合すれば同じような色が作れるだろ?むしろ調合したほうがいい色が出るときもあるよ。まったくこれだから応用が利かないヤツは……


「悪かったな、応用が利かないヤツで!」


 あれ?声に出てましたか……すみません(謝るのは声に出さない)。


「とりあえず、わたしが作りましょうか?カルテ見せてください」


「いい、自分でやる!お前のせいで、いつもの色に仕上がらないかもしれないけど……」

 

はぁ!?なにそれ!

 

「貸してください!わたしが同じ色作ります」

「いいって!」

「やりますって!」

「ウゼェって!おこめ!……ヤベ……」


 ……お米?……は?……何?……何のこと?もしかして悪口?……あだ名?ヤバいって何がヤバいの?


 ついつい、口走った「お米」というワードを聞かれてヤバいと思ったわけだよね!


 つまり、「お米」は「わたし」ということ……そして、それは数名のスタッフの間だけで使われているであろう「隠語」!?


「お米」……それってどうなん?お米が好きってこと?まぁ好きだけど、パンも好きなんよ!じゃあ何?


 まさか……「米つぶ」みたいなヤツってことかぁ!


 ブチギレっぞ!スーパーシャンプーマンになっぞ!


「あの……「お米」って何ですか?(ちょっとキレ気味)」


「お……おう……は……肌が色白だなぁ……って」


「……」


「なぁ〜んだ!そういう意味なんですね!そっか、そっか〜!わたしってお米のように色白ですもんね〜」


 って嘘つけ!

 

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