第11話 選択

「背に腹はかえられぬか。分かった。その依頼受けよう。ただ、移動はこの子らになるから振り落とされる様なら縛り付けるしか無くなるから気をつけろ。」


「…その仮面は?」


俺は届けると決めてから山賊のアジトを再び漁り顔を隠せる物を探した。その結果、白塗りに黒で凄い良い笑顔が描かれた仮面があったのでそれを付けている。お偉いさんと関わると碌な事は無いのは会社で嫌と言うほど経験している。


「顔を覚えられるのは困るからな。有名人にはなりたく無い。基本会話はしないし家の前に置いてくだけだから事情の説明は各自でやれ。そこまで面倒を見るつもりは毛頭も無い。」


「分かったわ。」


「報酬の受け渡しは自宅に戻ってから一週間後。報酬未払いが発生した場合焼き払うのでご了承下さい。」


「や、焼き払うって凄い度胸ね。」


「罪には罰を。それには身分なんて考慮される事はありません。」


俺は生き餌改め姉の方と妹の方をファングに乗せ残り二人をザンナの後方に積み、振り落とされないギリギリの速度で彼女らの自宅があると言う方角へ走り始めた。速度がぐんぐん上がっている最中にギャーっとか言う悲鳴が聞こえた気もするが気のせいだろう。


三日飲まず食わず寝ずで走り続けると目的地がある都市についた。その都市の作りは頑丈そうで高い壁に囲まれた作りをしている。モンスターが居る世界とは言え少し大袈裟な気さえする。ただ、門が開いてないので壁を登って内部へ侵入する事になった。


「凄っ。」


正直この子らを舐めていたが少し化け物じみてないか?野生動物である事を加味してもこんな垂直な壁を荷物背負ってスイスイ登れるってどんな爪と脚だよ…。


「空に立ってる?」


壁を駆け上がって中に侵入出来たと思ったが透明な床の様な物に遮られ空中歩行をさせられている。パレードじゃないんだぞ?


「穴あけて入って。」


二人に指示を出し強引に押し通り、今度は壁を落ちる様に駆け降りる。


「この速度だと俺でやっと。こりゃ嫌な予感がするぞ。」


後ろをついてきていたファングの方を見ると見事に落とされかけていた。姉の方は完全に落ちてて、妹の方が左でファングに捕まりながら姉の手を握っている。


「妹の方握力凄っ。人間の姿した化け物じゃん…。」


自分と自分より大きな姉の体重を片手で支えられるのだから相当力が強いのだろう。

一般人の俺から見ると異様な光景に見えたが、もしかしたらモンスターも居るぐらいだし人間も俺の知ってる人間では無いのかもしれない。


「えーと、何処だ?」


音も立てずに地面に着地し、上から見えた高級住宅街っぽい場所に走ってもらったが、似た様な家屋が並んでいてこいつらの家がどれなのか見当も付かない。


「お家どこですかー?」


声をかけてみるがさっきの落下で顔色がグロッキーになっていてとても話せそうに無い。仕方ないので俺の後ろに積んでいた積荷に聞く事にする。縄で縛ってる関係上身体に傷がつかない様に全身布で包んでいたためこっちは話せそうである。


「腹減ったとか喉渇いたとか色々あるでしょうが貴方達の家はどこです?」


積荷一が指を指したのでそっちの方角に歩を進める。正直こう言う高級住宅街に俺の様な不審者がいたら警察が来そうなので早めに用事を済ませたい。ついでに下着などを庶民の商店で揃えるつもりなので警察に追われて指名手配や街の外へ追い出されるのはごめんである。


「約束通り家の前に捨ててくので自分の足で自宅に入ってくださいね。流石にお偉いさんの門番の相手をしてやる義理はありませんから…。」


取り敢えず積荷一に全員の家を教えてもらい、次々と家の前に捨てていく。一応何重か布で包んでいるので多少雑に扱っても大丈夫だろう。この布が山賊のアジト産であるため衛生的大丈夫どうかは知らない。一応盗品で売る前の奴だと思われる物を使ってるので大丈夫だとは思うが保証は出来ない。


「グロッキー姉妹。お前らで最後だから自分で降りれるなら降りて無理なら捨てとく。」


「誰のせいだと…。」


「俺はお前らを安全に家に帰した。約束は守っている。多少スリルがあったかもしれないが肉体的には切り傷一つついていないはずだ。」


「そ、そうだけど。」


「俺は約束を守る男なんでね。ではまた一週間後に会いましょう。対価のお支払いお待ちしていますよ。」


「だ、誰だお前!!」


「気づくのが遅すぎます。名乗る程の者はありません。では。」


速攻で姉妹を下ろすと庶民の商店がありそうな場所へと走り去る。重装備な人間が狼の脚力に勝てる訳も無く余裕で振り切り逃げる事に成功した。

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