第60話 語られる真実

『さて、それじゃスピーカーにしてくれたかい? アユハ君』


「ああ」


 俺はヘルメスの要望通り、正宗とドロシー、アレキサンドラを集めてスマホをスピーカーモードにした。


『さて、そこにいるであろうアレキサンドラ嬢……いや、嬢と呼ぶのは失礼かな?』


「……何者ですか?」


 アレキサンドラが不機嫌そうに口を尖らせた。


「俺の知り合いだよ、少し物知りな、ね」


「そうですか」


『うんうん、それじゃ少し心は痛むがレディの過去を暴く会といこう。いやぁ大変にお下劣な趣向だが、今回ばかりは致し方ない』


 どこか楽しそうなヘルメスの声に、アレキサンドラは表情を歪めて眉間にシワを寄せている。

 レディの過去――つまりはアレキサンドラの過去を暴こうというのだから仕方ないだろう。


『さて諸君、そこにいるアレキサンドラ・ヴァシーリエフとは何者なのか? その正体は十大ダンジョンが興ったその時から生き続ける原初の探索者の一人……可愛らしい容姿に騙されるなかれ、実年齢六十を超える君たちの先達だよ』


「「「は?」」」


 俺たち三人の声が重なった、当のアレキサンドラは少し赤面したまま項垂れている。


「……なんで知ってるんですか」


 そんなか細い呟きが聞こえてきた。


「え!? マジで!? おばあちゃんやん!」


「ふむ、これがロリババア……実在したのか」


「いやいやいや! ロリババアとかそういう次元じゃないだろ! どっからどうみても幼女、いくら魔法とかがあるからってこの見た目で六十越えはありえねぇって!」


 それぞれが感想を漏らすが、ヘルメスは気にせずそのまま言葉を続けた。


『ははは、まぁそのカラクリは彼女の魔法にあるわけだが……まぁ今回は関係ない、是非仲良くなって本人から聞いておくれ』


 一番気になるわ! という気持ちは俺たち三人共通のものだったようで、それぞれが目を見合わせた後に項垂れるアレキサンドラに視線を落とす。


『さて、彼女は帝国に数十年仕えてきた偉大な軍人であるが、それは忠誠心によるものではない……そうだね?』


 ヘルメスの言葉にアレキサンドラが微かに肩を揺らす、それを知ってか知らずか、僅かな沈黙の末にドロシーが横から口を挟んだ。


「それはどういうことだ? 協力者殿」


 因みに電話の相手がヘルメスであり、ダンジョン庁長官の神野とは俺以外誰も知らない。あくまでも俺の協力者という体になっている。


『君たちと彼女は手を取り合えると……僕はそう思っているんだよね』


「それはっ……! 無理です、有り得ません。私があの方を裏切るなど、不可能です」


 アレキサンドラが初めて俺の前で声を荒げてみせた、それにしても脅されている……? 俺は首を傾げて口を開いた。


「おい、話が見えてこない、結論からサッサと言え」


『はぁ、いいじゃないか。久しぶりのお話だってのに、本当にアユハ君は毎度毎度連れないなぁ……』


 そう言って軽く溜息を吐くと、ヘルメスは再び言葉を紡いだ。


『彼女が脅されている原因を排除することが、君たちがその国を無事脱出できる手段だって言ってるのさ』


「むっ無理です! あの方に挑むなど……!」


 その言葉にアレキサンドラが絶叫で応えた、しかしそれを柳に風と受け流し、俺は軽く思考の海へと潜っていく。


 考えてみれば、俺たちがこの帝国内から脱出するにはヘルメスの言う通りアレキサンドラを派遣してきた大元を叩くか、どうにかして日本海を渡るしかない。


 ドロシーのグリフォンなんかで海を渡れるかもしれないが……戦闘機に囲まれて終わる未来しか見えない。

 そこまで考えて俺は口を開く。


「……俺たちはデメテルを倒してる、そこに正宗とお前が加わったらそうそう負けないんじゃないか? あの方とやらがどんな奴かは知らないけどさ」


「私たちは貴様たちを恨んでいる、柚乃の怪我と正宗の誘拐、アユハが満身創痍なのも全て貴様らのせいだ……だが、お前が何か抜き差しならない状況でそうするしかなかったと言うのなら、少しは――考えてやらんでもない」


「ワイはババアに興味ないんやが、まぁはよ柚乃ちゃんと会いたいしサクッと終わるならそれが一番やわ」


 俺の言葉に続いてドロシーと正宗が続き、待ってましたとばかりにスマホからどこか満足気な声が響いた。


『サーシャ、そうだねぇ……君が仕える"あの方"であっても大丈夫さ、これは僕が保証しよう』


 アレキサンドラが弾かれたように顔を上げた。

 因みにサーシャというのはアレキサンドラという名前の一般的な愛称だ、呼び易いので俺も今後そう呼ぼうか……いや、馴れ馴れしいだろうか、迷う。


 そんな事を考えていれば、サーシャの表情は驚愕に染められ、これでもかと見開いた目で俺の持つスマホを凝視している様子が視界に映った。


 俺が脳内にクエスチョンマークを浮かべていると、スピーカーから今日一楽しそうなヘルメスの声が響く。


『さて、それじゃあツァーリ帝国の現帝……悪魔の大公爵アガレスのお話も、するべきだね?』


 ★★★


 いつもご愛読ありがとうございます!

 お久しぶりです!1週間近く更新できず申し訳ございませんでした、少し仕事とプライベートがバタバタしておりまして……

 

 徐々に更新速度戻していきますので、引き続き本作をよろしくお願いいたします!

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