第31話 キャンプの準備

「戻ったで~~」


 そう言ってキノコの森から姿を現した正宗が手を振ってこちらへ向かってきた。


「おう」


「おかりー」


 俺と柚乃は焚火を突きながら返事をした、因みに正宗含め他の全員は配信を切っている。

 同じ場にいた柚乃とドロシーは言わずもがな、正宗に関しては個人配信に突撃してコメントで『今日ここで一泊するから適当に食材とってきて』と言ってある。


「はー? まぁ分かったわ」と頭をぽりぽり搔きながらも承諾した正宗はなんだかんだいい奴だ。


「で? 何採ってきたんだ? キノコの森なんだ、なんか食えそうなもんあったんだろ?」


「おう、色んなキノコあったで~」


 そう言って正宗は鞄から様々なキノコを取り出し、地面に並べた。

 大小色とりどりのキノコがコロコロと転がる、明らかにヤバそうな色のキノコはあるがそれはそれ、しかし四人で食べるにしてはいささか多すぎる量だ。


「……ここから食えるやつだけ選別するにしても、採り過ぎじゃないか?」


「ワイが食べるし、大丈夫や」


 そう言って胸をドンと叩く正宗、こいつが大食漢なのは知っているが、いざ山のように積まれたキノコを目にすれば流石に少し引く。


 元よりキャンプなどする予定は無かったが、遭難に備えて一通りの調理器具や保存食は全員が持っている。

 それで一夜を越しても良いのだが、どうせ食事をするなら美味しいものを食べたいと思うのは当然の事だろう。


「今日は干し肉とキノコのシチューかね」


「バター焼きもいいんじゃない?」


 俺と柚乃がキノコを見ながらそう言えば、正宗が更にゴソゴソとマジックバックを弄り出す。


「まぁ待てや、まだあるねん」


「まだ採ってきたのかよ、ホントに食えんのか?」


「これや!」


 そう言って正宗が取り出したのは、二メートルほどの牛の姿をしたモンスターだった。

 ズシンという音と共に地面に放り出されたそのモンスターは、普通の牛とは違い白と黒の体色が赤と茶色に置き換わっており、更に背中からは緑色のキノコが数本生えている。


「……私、こういう生物マイ〇クラフトで見たことあるわ」


「奇遇だな柚乃、俺もだ。いたよなマイクラに」


 俺と柚乃はどこか既視感のあるその生物をジト目で見下ろし、そんな感想を漏らす。


「牛型やし食えるやろ!」


 満面の笑みを浮かべる正宗はやりきった! という様子だ。


「まぁ、取り敢えずお前が捌いておけよ、俺と柚乃はキノコの選別するからさ」


 そう言って正宗はキノコ牛の解体、俺と柚乃はキノコの選別に取り掛かる、とはいえ一旦は見た目でヤバそうか否かを判断するだけで、最終的には一口舐めてみて舌がピリピリしたら毒有りと判断するような原始的な手段を取るしかない。


 通常ダンジョンの食材は地上に持ち帰り、ダンジョン庁管轄のダンジョン食材研究所で、食用に適するか否かを判断してもらう必要がある。


 探索者が現地で取れた食材を食べて食中毒になったりするのはあくまで自己責任なのだ。


「ねぇアユハ、これどう思う?」


 そう言って隣で黙々とキノコの選別をしていた柚乃が、キノコをずいっと俺の前に突き出す。

 それは上から下までピンク色で、所々に緑色の斑点が付いている毒々しい見た目のキノコだった。


「いやこんなんどう考えても毒だろ……」


「でもほら、ダンジョン食材リストに似たようなキノコがあるんだって、ほら」


 そう言って柚乃はキノコを持ちながらスマホを指差した。

 そこには目の前のキノコと似たような色合いと形をしているキノコの情報が載っている。


「なになに? ピンクマッシュルーム、通称桃ダケ。毒性は無く非常に美味……ふーん、まぁ舐めてみてピリピリしなければいいんじゃないか?」


「分かったわ!」


 他にも情報が書かれていたが、俺は無毒ならいいかと他の説明は特に読まずそう告げる。

 すると嬉しそうに返事した柚乃は躊躇なく桃ダケを舐めて「大丈夫そう!」と声を弾ませていた。

 逞しい限りである。


「躊躇無さすぎだろ……」


「戻った、おや正宗も戻っていたか……なんだその妙に見覚えのある牛は」


「正宗が獲ってきたのよ! 今日はステーキとビーフシチューにしましょ!」


 俺が苦笑いを浮かべていると、ドロシーが薪を抱えたスケルトンを引き連れながらキノコの森から戻ってきた。

 さしものドロシーもキノコ牛を見つけて顔を引き攣らせている、対して柚乃は嬉しそうだ。


「……あの牛、食べれるのかい? というか柚乃も躊躇なくキノコを舐め続けているが」


 隣に腰を下ろしたドロシーがそっと耳打ちしてくる。


「まぁ、モンスターの中では俺たちが良く知る普通の牛に姿かたちは似てるし……柚乃の場合は一応解毒薬あるから大丈夫だろ。効かなかったら全員爆速で地上に帰るしかないな」


「……アユハ、君のギルドマスターとしての手腕や、探索者としての腕前は評価するが、いかんせん君は自分と同じ基準で他者を計るきらいがあるな。今はまだいいが、今後留意することだね」


「説教かよ」


「気遣いさ」


 そう言ってドロシーはフッと笑うと、柚乃の隣へと移動してキノコ選別を手伝い始めた。

 二人を見ていると姉妹のような気分になってくる、ドロシー自身柚乃のことを妹のように感じているのかもしれない。


 あいつがあそこまで他人に肩入れするのは、少なくとも俺が知る範囲では珍しい事のように感じられた。


「捌き終わったで~、少し齧ってみたけど食えそうやわ、肉の色はグロイけど」


 ふと背後で黙々と解体作業をしていた正夢の声がした、振り向いてみれば歯形の付いた紫色の肉を持って笑顔を浮かべている。


「お前、よく初見でそんな夏場に放置して三か月。みたいな色してる生肉齧れたな……」


「流石に私ですらどうかと思うわよ……」


「正宗、流石に……」


 先ほどまで躊躇なくキノコを舐めまわしていた、流石の柚乃も引いているようだ、ドン引きである。

 正直俺としてはお前が引く権利はないと思わざるを得ないが、それはそれとして俺も苦笑いを浮かべる。


「ま、まぁなんにせよこれで材料が揃ったんだ、料理作る前に配信開始するから全員集まれ~」


 俺はそう言って、地面に転がるドローンカメラのスイッチを入れた。


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