第19話 ランクアップ試験
さらに数日が経った事だった。
のどかなバナルの街に、いかつい装備に身を包んだ兵士がやって来ていた。
「貼り紙の確認にやって来た。ちゃんと掲出されているだろうな」
「はい、もちろんですとも」
どうやら、しばらく前に大陸中の冒険者組合に配られた賞金首のポスターを確認しに来たようだ。という事は、この兵士たちはコリーヌ帝国の兵士というわけである。
兵士たちはじっと貼り紙を見つめながら、組合の職員へと話し掛ける。
「どうだ、情報はあったか?」
「いえ、今のところはまったくで……。しかし、これは誰なんですかい?」
ミュスクが答えると、兵士は剣を抜いて突きつけてきた。
「ひっ!」
「そんな事はお前の知るところではない。ただ、この人物に関する情報を渡せばいいだけだ。余計な詮索は、命を縮めるぞ?」
「わ、分かりやしたぁ……」
兵士たちの脅しに、ミュスクは膝から崩れ落ちていた。
「いいか。何か情報を掴んだらすぐに知らせろ。女帝陛下をあまりお待たせするでないぞ」
そうとだけ言い残し、兵士たちは冒険者組合を去っていった。
それと入れ替わるようにして、ステラとリューンが冒険者組合にやって来た。
「あら、ミュスクさん。床に座ってどうしたんですか」
目の前のミュスクの体勢に、思わず突っ込まざるを得ないステラである。
その指摘に、慌てて立ち上がるミュスク。そして、ごほごほとごまかすように咳払いをしていた。
「なんでもない。それより、今日はどんな依頼を受けに来たんだ?」
「ええとですね。リューンの成長を受けまして、ちょっと難易度を上げたものを受けようと思います。確か、冒険者ランクの試験がありますよね?」
「ああ、確かにあるな。もしリューンに受けさせるのなら、ステラは手出し無用になるぞ?」
「ええ、分かっています。なので、私は試験官として同行しようと思うのです」
「なるほどな……」
ステラの言い分に納得するミュスク。
「だがな、それを決定できるのは俺じゃなくて組合長だ。裏にいらっしゃるから、ついて来てくれ」
「分かりました」
ミュスクの後について、ステラとリューンは組合長の部屋へと移動していく。
奥の部屋に移動すると、そこにはミュスクよりもさらに筋骨隆々の男性が座っていた。なんともいかつい感じの男性である。
「おう、ステラか。久しぶりだな」
「お久しぶりです、プヴォル組合長」
筋骨隆々の男性に頭を下げるステラ。さすがにバナルで冒険者登録した時に顔を合わせているので、ステラはしっかり覚えていた。
「話は聞こえていたぞ。そっちの少年のランクアップの件だったな」
「はい、その通りです」
プヴォルがリューンの方を見る。リューンは怖いと感じたのか、縮こまって下を向きながらプヴォルを見上げている。
そのリューンに対してプヴォルが近付いていき、そっと頭を撫でている。
「ははっ、俺が怖いか。まあ、君みたいな子どもにしてみれば、俺は怖いだろうな。ガハハハハハッ」
にかっと笑ったかと思えば、突然リューンの頭をぐしゃぐしゃに掻き乱している。あまりに突然だったので、リューンの体が力に負けてふらついている。このままでは危ないと思ったステラは慌てて止めに入った。
「もう、力任せにするのはやめて下さい。怪我でもしたらどうするんですか」
「おう、それは悪かったな」
ステラが抗議すると、プヴォルは笑いながら謝っていた。
「それで、ランクアップの試験官についてだが、ステラに任せよう」
「組合長、いいんですか?」
プヴォルの決定にミュスクが形ばかりの異議を唱える。
「なーに、ステラが公平な目を持っている事くらい、お前だって分かってるだろう?」
こう言われると黙るしかないミュスクである。
リューンのランクアップの試験官をステラが務める事はすんなり決まったものの、リューンは既に疲れているようだった。筋骨隆々な組合長に絡まれたのだ。幼いリューンには厳しかったのだろう。
ステラはリューンを庇うように前に立つと、ランクアップ試験の話を始める。
「えっと、リューンのランクは現在一番下でしたっけか」
「いや、その1個上だな。ステラが居るという事もあってか思ったより結果がよかったのでな」
「なるほど。となると、鉄級から銅級のランクアップになりますね」
「そういう事だな」
冒険者ランク。それは冒険者の強さの証ともいえるもの。
下から、紙、鉄、銅、銀、金、白金という風にランクづけられていて、それは冒険者に着用が義務付けられているタグに記録されている。
そして、そのランクによって受けられる依頼が変化するのである。ちなみにステラは銀級である。
「鉄から銅となれば、ランクアップ試験の内容はなんでしたっけかね」
「それだったらこれだな」
プヴォルは棚から本を持ってくる。そして、パラパラとめくってとあるページを開いて見せる。
「グレイウルフの討伐、ですか……」
グレイウルフと聞いて、リューンの体がビクッと反応する。
それもそうだろう。初めての依頼で出かけた時に襲われた魔物だったからだ。あの時ステラが駆けつけていなければ、間違いなく死んでいた。そのためにリューンの中で恐怖の対象として残ってしまっているのである。
「リューン、どうしますか? 無理をして受ける必要はないのですよ?」
ステラが確認をする。
そのステラの顔を見て、リューンはぎゅっと拳を握りしめる。
「……受けます」
受諾の言葉が、はっきりとリューンの口から出たのだった。
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