第11話 先輩冒険者の実力
食事を終えると、再び冒険者組合に戻ってくるステラとリューン。
今日は朝からいつもおっさんがお休みだったのだが、どうも昼にも姿を見せていない。一日お休みのようなので、薬草の依頼の時に対応してもらった別の職員に話し掛ける。
「あら、ステラさん。今度は何でしょうか」
今日三度目となる訪問に、さすがの職員もびっくりしているようだ。
なぜなら、基本的にステラは無駄な行動をしない。冒険者組合に来るのは、イレギュラーを除けば依頼を受ける時と達成時の報告のみだからだ。だから、二度目より多く訪れる事はないというわけだ。
「裏の訓練場と木剣を2本、お貸し願えますでしょうか」
この要求に加えて後ろに居る少年。なるほどと職員はすぐに理解した。
「承知致しました。では、私がご案内させて頂きます」
職員は立ち上がると、受付のカウンターの脇にある扉の方へと移動していく。ステラはリューンを連れてそれについて行く。
扉を開けた先には、石壁に囲まれたスペースが備えられていた。これがステラが言っていた訓練場である。
「すごい……、なんて高さの石壁なんだ。これが外から見えなかったなんて……」
あまりの高さの石壁に、リューンはものすごく圧倒されていた。
「幻視魔法をかけて、外からは分からなくしているんです。見ての通り相当の高さですから、景観に影響しちゃいますのでね」
「へえ……」
ぼーっとしているリューンに対して、ステラは先程職員から渡された木剣を投げる。
「おっとっと……」
リューンはそれに反応して木剣を受け止めていた。完全に意識の外にあったはずなのに、しっかり受けっていたのは意外だった。
(ふむ、リューンのお父様が話されていた内容は、これで信ぴょう性が増しましたね)
しっかり受け取ったと思ったら、ちょっとお手玉をしていた。木剣なのでそう簡単に切れる事はないけれど、ちょっとそこは心配になってしまった。
だが、受け取った事を確認したステラはリューンに声を掛ける。
「リューン、剣を構えなさい」
「は、はい」
リューンは木剣をしっかりと構える。さすがにここまでワイルドラットにゴブリンと経験を重ねているので、剣の構え方自体は様になっている。
「あら、ステラさんは1本でよろしいのですか?」
そう言って立っているのは案内してきた職員である。よく見ると木剣をもう1本持ってきていた。
「ええ、初めての手合わせですからね。いきなり双剣相手は厳しいと思いますもの」
「ああ、そうですね。ステラさんの熟練でいらっしゃいますものね。という事は、ハンデみたいなものですかね」
「そういう事です」
ステラは剣を持って構える。普段は双剣を扱っているが、片手剣でも十分様になっていた。
「さて、私は攻撃をしませんので、どうぞお好きにかかってきて下さい」
余裕の態度のステラに、リューンは思わず息を飲む。
(うっ、さすがに隙が無い……)
なんとなくは感じていたものの、実際に対峙してみるとよく分かる。なんとも近寄りがたい圧倒的なオーラ。小さなステラの体から、それがあふれ出ているのである。
楽しみにしてはいたものの、まさかこれほどのものとは思っていなかったのか、リューンはステラを前に冷や汗を流している。
「ほら、攻撃してきてくれませんと稽古になりませんよ。それとも、私の攻撃を受けてみたいのですか?」
ステラがさらに挑発する。
その様子に、リューンは意を決したように息を飲むと、ステラ目がけて走り出した。
先輩冒険者に稽古をつけてもらえるせっかくの機会、活かさなくてどうするというのだ。
……結果は分かり切ったものだった。
リューンはステラに一撃も入れる事ができず、全部躱されてしまっていた。
ステラは仮面をかぶっているので死角が多いはず。だというのに、死角から放った攻撃すらもあっさり躱されてしまっていたのだ。それこそ、すべてがはっきりと見えているような動きだった。
「死角からの攻撃とは考えましたが、君の動きは手に取るように分かりますよ。若い方によく見られる、実に素直な動きです」
「若いって……、ステラさんも十分若くないですか?!」
「ふふふっ、女性に年齢に関する質問はタブーですよ」
リューンの反応をぴしゃりとはたき落とすステラである。実に容赦がない。
「見てて思いましたが、剣筋は素直ですけれど、剣への適性は十分にあると思います。それこそ体力や筋力をつけて、鋭く振れるようになればかなり変わるでしょうね」
ステラはそう言いながら、冒険者組合とは反対側の訓練場の壁を見据えている。
「剣も極めてくれば、このような事もできるようになるはずです」
剣を構えて集中するステラ。一体何をするというのだろうか。
「はあっ!」
気合いの入った声は響き渡ると同時に、ステラは木剣を思い切り振り抜く。
すると、ステラの振るった木剣から衝撃波が放たれたのだ。
その次の瞬間、衝撃波がぶつかって大きな音が響き渡る。もうもうと立つ土煙が晴れてくると、石壁に大きな穴が開いているのが確認された。
「ちょっとステラさん?!」
大きな音に驚いてやって来た職員が、石壁に開いた穴を見て騒いでいる。
「ダメですよ、やり過ぎては」
「失礼致しました。すぐ直します」
ステラはそう言って石壁まで走っていき、手を当てて魔法を使っている。すると、見る見るうちに石壁に開いた穴が塞がっていった。
「これで元通りですね」
石壁を二度ほど叩くと、ステラはリューンと職員のところまで戻ってきた。
「せめて、この技が放てるようにはなってもらいたいですね」
「が、頑張ります」
仮面で分からないが、ステラは笑っているようである。その隣では、リューンと職員が複雑な表情をして立っていたのだった。
冒険者ステラの実力を見せつけられたリューンは、一体何を思ったのだろうか。
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