第9話 リューンの父親
リューンとゴブリン退治に行った日の夜。
ステラが家で休もうとしていると、ふと何かを感じた。
寝間着に着替えてベッドに入ろうかとしていた瞬間だったので、ステラはその状態で仮面と双剣だけを装備する。
(まったく、何者でしょうかね。私の家を知る者など、誰も居ないはずなのですが?)
ステラは警戒しながら、窓越しに外を見る。
家の近くには怪しく光る玉が浮いている。
(あれは、生活魔法の照明でしょうかね。こんな場所でそんなものを使ってまで来るだなんて、正直、正気の沙汰とは思えません。……ちょっと様子を見に出てみましょうか)
寝間着の状態にマントだけを羽織り、ステラは装備を携えて外へと出て行く。
辺りはすっかり真っ暗になっており、森に近い場所にあるステラの家の近所はまったく何も見えないくらいだ。そんな中をわざわざここまで来たという事は、重大な決意があっての事だろう。
念のための警戒をしつつ、ステラは玄関から外へと歩み出てきた。
「誰でしょうか。こんな夜分に危険を冒してまでやって来るとは」
ステラが呼び掛ける。
その声に反応して、光が移動してくる。そこに居たのは、見た事のある顔だった。
「あなたは確か、リューンのお父様でしたね」
「はい、その通りでございます」
ステラが問い掛けると、リューンの父親がどういうわけか丁寧な言葉で反応する。
どういう風の吹き回しか、ステラの表情が(仮面でよく分からないが)曇る。
「なぜ丁寧語なのですか? 朝も途中から態度が変わっていましたし、一体どうしたというのでしょうか」
「それは……」
疑問に思うステラが数歩詰め寄っていく。すると、リューンの父親はどういうわけか言い淀んでいる。ステラはどうにも解せない。
「危険を冒してまでここに来たのです。つまり、私に対して人には言えない話をしようとしているわけですね」
状況を整理しながら話し掛けると、リューンの父親は黙ってこくりと頷いていた。
そして、ズボンのポケットから何かを取り出してステラに見せる。それを見たステラは、驚かされてしまう。
「それは……。つまり、あなたとリューンはその血を受け継いできたというわけですか」
「そういう事になります。朝、最初こそ機嫌が悪かった事もあって酷く当たりましたが、あの時あなたが着けていたそのマント、その裏側が見えてしまって気が付いたのですよ」
「……分からないように裏返しに羽織っていたんですが、気付いてしまったのですか」
ステラは思わず黙り込んでしまう。
そして、人前で外した事のない仮面を外して、リューンの父親を見る。
「もう、本当の私を知る者は居ないと思っていたのですけれどね……。こうして出会えたことは、感謝しかございませんね」
にこりと笑うステラである。
「おおお……、ご先祖様から聞いていた通りのお顔。必死に家を守ってきただけの事があるというものです」
リューンの父親は泣き崩れていた。
その様子を見ながら、ステラは再び仮面をかぶる。
「……よくあなたのご先祖様はご無事でしたね」
「はい。ご先祖様はちょうどあの時城を不在にしておりましたゆえ、難を逃れたと伝えられております」
「そうですか。私は必死に逃げさせられましたので、あの後どうなったのか分からないのですよね。詳しくお伺いしてもよろしいですか?」
「はい、承知致しました」
ステラの質問に答えるように、リューンの父親は先祖代々受け継がれてきた話を語っていく。
その話を聞いていたステラは、何とも言えない気持ちになっていく。
「そうですか……。そんなに長い間、私の事を待っていたのですね」
「はい。ですから、知った時には思わず涙が出そうになりました。息子の指導をして下さっていると思うと、夢じゃないのかと自分の頬を引っ叩いたくらいです」
リューンの父親は涙ながらに話している。その姿を見ると、その気持ちが嘘でない事がよく伝わってきた。ましてや、過去の自分を知る、現状唯一の人間だ。ステラの中には嬉しさと戸惑いの感情が同時に湧き上がっていた。
正直、かなりの年月が経っているので、当時の関係者が居るにしてもその思いも消えてしまっているものだと思っていた。ステラ自信が既に諦めていた事なのだから、なおのことそう思ってしまう。
だが、現実は違った。今も諦めずにその気持ちを持ち続けている人物が居たのだ。
思わずステラは泣き出してしまう。それはもう、仮面を取って涙を拭うほどに。
そのステラに対して、リューンの父親が跪く。
「ステラ様、どうか我が息子の事をよろしくお願いします」
「分かりました。お任せ下さい」
真夜中の森の近くで交わされた約束。それを胸に、リューンの父親は家へと戻っていく。
ステラは送ろうとしたのだが、リューンの父親はそれを拒んで一人で戻っていった。
(本当に、こんな事があるんですね)
ステラは姿が見えなくなるまで見送ると、家の中へと戻っていく。
(とうの昔に諦めていた事ですけれど、再び夢見ていいのでしょうかね)
まとっていたものを外し、再び寝間着姿に戻るステラ。そして、懐かしさと嬉しさを胸にベッドで横になったのだった。
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