第145話 砂糖に群がるアリ
謁見が終わってヤレヤレと思っていたが、それからが本当にめんどくさい日々が続いた。
ドナルドおじいちゃんやジェームズが、会うべき貴族たちや日程を調整してくれたが、ひっきりなしに
誰もが気持ちの悪い薄笑いを浮かべてオレと知り合いになりたがるし、自慢の娘と婚約させたがったが、脇に控えるオードリーがにこやかにそれをかわしていったのは、さすがだったよ。
オレが帝都を離れてコーバン侯爵領で暮らすことは帝王陛下や宰相閣下もご存知のことで、帝都にいつ戻ってくるかはわからないので、婚約者を決めるのは時期尚早の一点張りで押し通してた。
お貴族様の中には、オレがダメならクラークかヴィヴィアンとの婚約を提案してくる者もいたが、それは本人たちがキチンと相手と知り合い、交流を進めてから決めさせることにしていると言ってかわしていた。
オードリーは『ジェームズ・コーバン子爵と
オレは『鬼ドリー、いいぞ!、もっと言ってやれ!!』と心のなかで密かに応援した。
オードリーに気づかれると怒られちゃうからね…ヘヘヘ。
お貴族様の常識としては、子どものときから婚約者を決めるのは珍しく無いことだが、オレについては帝都に戻って暮らすようになるのがいつになるかわからないからというのは、お断りする理由としては使えるようだった。
オレはオードリーと貴族たちのやり取りを横で聴きながら、そいつらの額のマーキングを確かめていた。
【好意の緑】には、にこやかに対応したが、【中立の青】や【保留の白】には穏やかな対応で、【嫌悪の赤】にはスーンとした木で鼻をくくった冷たい対応をした。
【殺意の黒】がいなくて良かったよ。そんなヤツが目の前に表れたら、即座に全身を空気を通さないカチカチ結界で包みこんで、窒息させていたかもしれないなぁ…。
しかし、そんなオレの対応の違いなんか気にもとめない
それは南のベトー辺境伯・西のバーイン辺境伯・北のチックリー辺境伯たちだ。
オレが応接室に入ると、辺境伯たちがソファから立ち上がり、床に両手両膝をついて頭を下げて謝罪することで面会は始まった。
直接の加害者ではないが、リチャードとアリアーナの息子たちが創造神様を
オレはそれを見て、帝王や王族たちにこの人たちの耳の垢を飲ませたいと思ったが、辺境伯家の当主たちにそんな姿勢をとらせたままで話をするわけにもいかず、ソファに座ってもらって話をしてみると、それは話を円滑に進めるためのテクニックとしてやったらしくて、結局は『ウチの娘を嫁にもらってくれ』とか『次男なんだから、婿に入ってもいいよね』とか言い出した。
そろいもそろってたくましい身体と迫力のある面構えに額のマーキングを【好意の緑】でピカピカ光らせてオレに詰め寄ってくる辺境伯たちには閉口したよ。
もちろん丁重にお断りしたが、南のベトー辺境伯にはちょっと違う対応をした。
オレが帝都を離れて暮らすコーバン侯爵領のお隣さんだから『あちらで顔を合わすこともあるでしょうから、よろしくお願いします』と言うと、『いつでも遊びに来てくれ!』とニコニコ顔で言って、他の辺境伯からはジトーとした目で見られていた。
その二人からは、
そして、できればオレの結界魔法や広域殲滅魔法を見せてくれ!、試させてくれ!と言い始めた。
アンタたちフザケてるの?、オレの魔法は見世物でも、力試しの的でも無いんだからね!。
だから脳筋ちゃんはイヤなんだよ。
まだ子どものオレに両手両膝を床につけて頭を下げることなんて、脳筋ちゃんたちにはへでも無いことのようだったし。
それに、
他国との国境を守護するというのは大変なことで、必要な武力も経済力も備えているが、力のある者を一人でも多く抱え込みたいというのは理解できるし、いろいろなところに行ってみたい気持ちもあるから、そのうちにソーッと行ってみようかな…。
いつ終わるともしれないお貴族様たちとの面会が続く中、リンドおじいちゃんはヘブバ男爵領に帰っていった。
アーノルドおじさんから、大容量のマジックバックと多額の金貨を受け取ったリンドおじいちゃんはとても嬉しそうだった。
オレが渡した金銀のブロックを売却した一部だということだが、これから十年以上は援助金の名目でさらに金貨を渡せると言われて嬉し泣きしていた。
リンドおじいちゃんは、渡された金貨でヘブバ男爵領では手に入らない農作物の種や苗木や領民たちに振る舞うお酒をたっぷり購入してマジックバッグに入れ、馬車も新しく購入して、ドナルドおじいちゃんが手配したコーバン侯爵家の騎士たちに警護されて帰っていった。
オレもめんどくさいお貴族様たちとの面会をサッサと切り上げてヘブバ男爵領に行きたかったが、まだ面会リストを半分も消化していないとオードリーに言われてゲッソリした顔で馬車を見送ったよ…。
そんなことを言っているくせに帝都で手広く装飾品を扱っている商会に連れて行く時間はどこからか
オードリーとヴィヴィアンが商会の応接室でかなりいいお値段のする装飾品を見ている間に、オレは護衛の騎士たちに警護されながら、街を少しだけ歩き回ることができた。
この世界の文化や文明は前世の知識でいうと、中世ヨーロッパ風で間違いないようで、手工業が産業の主流だが、魔石や魔力を使って火・水・風の初級魔法や生活魔法を使える魔導具とか薬草を加工した薬やポーションも生活必需品として普及しているようだった。
映画やテレビで見たような産業革命前の生活様式に気を取られ過ぎて、サリーエス様から言われた『文明や文化を少し進めるキッカケ』には何をすればいいのかを見定める時間はなかったので、コーバン侯爵領に行ってからジックリ考えるのがいいのかなと思った。
装飾品を扱っている商会に戻って流行りのモノをいくつか見せてもらって、自分で造る参考にした。
オードリーとヴィヴィアンはお気に召した装飾品が手に入ったようでニコニコ顔だったが、かなりいいお値段のするモノのようで、ジェームズがどんな顔をするのか気の毒になったよ。
屋敷に戻ると、さっそくオードリーとヴィヴィアンからはお気に入りの宝石と金銀を使った装飾品のおねだりをされたので、いいお値段のする装飾品は手に入れたでしょうに、まったく欲しがりやさんたちだなぁとボヤきながら夕食後は装飾品を造ったが、オードリーから注意されたのは、地肌に付ける指輪やネックレスなどの装飾品は贈る相手を選ばないとダメだということだった。
そういうモノは婚約・結婚する気の有る女性に贈るモノで、その気が無い女性や、あるいはしつこくねだられたからという理由で装飾品を送ってしまうと、それを理由にして無理やり婚約・結婚させられてしまうということだ。
『その気が無いと言っても、地肌に付ける装飾品を贈ったことは取り消せないから注意しなさい!、ただし家族は別だから遠慮しなくていいのよ』と、とてもいい笑顔で言われてちょっと背筋が寒くなったのでゴザル。
面会リストの三分の二を消化して、もうお貴族様の顔が人族のものではなくて、砂糖に群がるアリに見えてきた頃に事態は起きた。
もうルーティン化しているお貴族様との面会をこなしていると、どこからかギョェェェェェェェーーという鳴き声が聴こえてきた。
うーん、オレ疲れてるのかな。
あのアホゥドリの鳴き声が聴こえてくるなんて…、もう今日は面会の予定をキャンセルして部屋に戻って寝よう…、と思いながらお貴族様の『アラン殿と知己を結びたい』トークをボーっと聴いていると、応接室に警護の騎士が入ってきて言った。
「ご歓談中に失礼いたします。アラン様、緊急事態が発生いたしました」
んっ、何かな…、イヤな予感がする…。
「帝都郊外の鍛錬場に、
あー、聴こえなーい!。
オレには何も聴こえなーい!!。
今日はもうベッドに入って寝るーーー!!!。
あのアホゥドリだけでもめんどくさいのに、
来るんじゃねえよクソが!。
ブスーっとした顔をしているのにかまわず騎士たちはオレを馬車に押し込んで、帝都郊外の鍛錬場にドナドナしていったのであった。
あー、ヤダヤダ。
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