第8話 第一階第六号室~砂塵~

「この部屋は・・・砂漠みたいに暑い!!」


 沙月がその部屋を抜けるとそこには地面が砂で出来た、まるで砂漠の真ん中にいるような感覚に襲われた。風が吹き、視界が遮られる。今までの部屋の中で一番危険な部屋だった。


 『ようこそ、神条。あたしはお前らを殺したい。理由?そんなものはない。ただ血が飛ぶのを見たいだけ。』


 「な、そんな適当な理由でやられてたまるか!!」


 沙月は危険を察知し身構える。すると突然その女の霊は高速回転を始めた。


 『はははははっ!!どうだ!この砂塵の中あたしを倒せるかな?』


 回転力が増し、その部屋の中に竜巻が発生した。砂も風も実在するものだからうかつに近づけない。かといってそのまま待っていても回転力が弱まるはずがない。何故なら対峙しているのは実体のない、体力が無限に近い霊なのだから。


 「じゃあ、私から近づくね。って痛い!砂が弾丸みたいに襲ってくる!!」


 『それじゃ、埒が明かないよ?さぁどうやって攻略する?神条よ!』


 沙月は高速でぶつかってくる砂によって全身が傷だらけになっていった。しかし策がないわけではなかった。竜巻によって周囲に影が出来ていたのだ。それを察知した沙月は霊鎮の術の構えをする。


 『どんな攻撃もあたしには効かないよ!何故ならこの砂と風があたしを守るからね!!』


 「それはどうかな?霊鎮の術その5・幻影の牙。」


 沙月が唱えると、回転している女の霊の足元から赤く染まった牙が女の霊に噛みつく。それと同時に悲鳴が聞こえ、回転が弱まった。


 『な、なにをした!お前!!』


 「君が竜巻を起こしたからその竜巻が自身を守っていると勘違いしたんだね。まさか足元に竜巻の影が出来ているとは知らずに。影さえ出来ていればこの術は発動出来るの。それが君の見落としていた点だね。」


 『うっ、畜生!!』


 女の霊は考えが甘かった。自身の戦略が自身に向かう牙になるとは知らずに。しかし抵抗を見せ、幻影の牙から無理矢理抜け出し、沙月を殴りかかろうとした。すると沙月はにやりと笑みを浮かべ、次の術を繰りだした。それは霊鎮の術その9・禁呪の封魔だ。


 『う、体が動かない!!それになんだこれ、砂時計!?』


 「君は過去に何人も殺したんだろうと思ったよ。だってそんなに血走っている目を見せているんだから。だから完全に封印してあげる。その砂時計の中の砂が下に落ちるまで約百億年はかかるかな。それまでそこで磔になってなさい。」


 『や、やめろ!!だ・・・』


 砂時計から鉄壁の鳥籠が出て、女の霊を取り込む。どんなに強い力を持った霊だとしても、その術の理から出られない。完全に扉が閉ざされた。


 「はぁ、びっくりした・・・。痛てて、砂がこんなに強いと思わなかったよ・・・。少し休憩してから次の部屋に向かおう。鼻から血が出ているし・・・。」


 沙月は術の使い過ぎによる体力の低下に伴い、寝る選択を取った。


・・・


 ───一方その頃早苗はとある人と協力して除霊を行っていた───


 「うっ・・・やっぱり術を使うと疲れる・・・。沙月はよくこんなに体にくる力を何発も出せるよね・・・。」


 早苗は自身の力で既に3つの心霊スポットを浄化していた。しかしまだそれらは全国各地に散らばっている。だから仲間を一人連れてきていた。その人の名は一条家の最高霊能力者、一条カスミ。神条家と一条家は昔から行動を共にする事が多かった。だから今回の騒動も協力して鎮めようという話になったのだ。


 「ありがとう、カスミさん。」


 「礼には及ばないよ、早苗さん。君の力は実に素晴らしい。こちらは助けられてばっかりだよ。」


 「またそんな事言って。さぁ行くわよ!」


 「はい!」


 カスミは早苗の力を尊敬している。しかし、自身をそこまで強いと思っておらず、気が弱かった。神条家に匹敵する程の力を有しているのにいつも劣っていると考えていたからだ。・・・しかしその考え方がのちに命取りになるとは・・・。


・・・


 「ふぁぁ、よく寝た。・・・ってもう朝じゃん!早くしないとしきたりの期間に間に合わない!急げ!!」


 沙月は急いで次の部屋、第七号室の扉を開けた。

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