超熱血空手家がもしスキル0で異世界転移したら
希塔司
プロローグ「異世界に来ました、押忍!」
「ピッピッ!」
笛の音が鳴り、相手の方へ審判が腕をあげていた。
あの日おれは負けてしまった。
夏の全国大会、小学校の頃から始めていた空手の。ついに、ついにここまで辿り着いたのに...
あのとき負けた光景や期待してくれた人たちの悔しがる声、残念そうに俯く人。
応援してくれていた人たちの期待を背負っていたのに...
ーーーーーー
おれ、鈴木勝利は空手をやっている。
普段は都内の高校に通うただの一般人。勉強もそこそこで友達とワイワイ楽しむのが好きなごく普通な男子高校生だ!
今日も学校が終わり、家に帰って空手の道場へ向かうところだ。
「おーい勝利ー!」
「おー正俊!」
こいつは佐藤正俊、小学校からの同級生でずっと一緒に空手をやっている親友だ!
思えば空手を始めるきっかけも正俊からだったから今思えばすごく感謝している。
「なぁなぁ、今日の稽古終わったらあの山に行かないか?天体観測したくてさ!」
「いいなそれ!よし、終わったら一回帰って行こうぜ!」
今日の稽古は張り切れるな。
それから道場に着き、稽古を始めていく。
ここ『如月流護身術』はなんと150年続く流派であり、初代の師範は各国の強者と戦って来たそうだ。
ボクシング、テコンドー、少林寺拳法、太極拳、骨法、レスリング、相撲、そしてムエタイ。
様々な格闘技があるがやはり自分にピッタリ合うのがこの空手だ。
突き、打ち、蹴り。
その技一つ一つが心を震わせた。
既に段位を取り、周りには敵なしとまで言われていた。
そして今日の組み手の相手は正俊だ。
正俊も同じくらい努力して同じ段位まで登り詰めた男だ。手加減はなし、真剣勝負だ。
「それでは見合って...
ピー!」
師範が笛を鳴らし組み手が開始される。
組み手では互いの間合いや駆け引きが試される。相手がどの技を使うか、上段.中段.下段のどこを攻撃してくるのかを一瞬の所作や癖をいち早く知り防御に転じるのか。
そして自分は相手のどこを攻撃していくか、蹴りか突きかなど、とても面白い!
組み手など3分間の時間制限があるがおれの中では正に100倍ある心理戦だ。
ましてや実力が拮抗しているとさらに長く感じる。
正俊は中段の前蹴りから始めていく。
すかさず防御をしていくと次々と攻撃を繰り返していく。
上段.中段中心に正拳や裏拳を使った突きや打ち。
下段や肋に向けて回し蹴りや横や前の蹴り上げなど幅広く技を使っていく。
かわしたり防御したりして相手から隙を作っていく。だがそんなに甘くはない。
それを見越してみぞおちに平拳をくらう。
痛い、だがおれの熱が体を動かしていく!
中段の脇腹に胴回し蹴りを放った。よろめいた正俊はすぐに体勢を立て直そうとするがそんな簡単には直せないぞ。
呼吸も少しずつ荒くなっていく正俊。
動きが大きくなっていき隙が生まれる。
そして手の甲や手の平で正俊の胸を攻撃をしていき...
既にフラフラな正俊。
「ピッピッ!」
ここで笛が鳴り、師範はおれの方へ腕をあげた。おれの勝ちだ。
「だはぁーまた負けたかー!
マジ悔しいわ、あぁー!」
「残念だったな!40戦21勝でおれの勝ち越しだな!」
おれらは互いに握手をして組み手を終えた。
それからは後輩たちの指導も行い、今日の稽古もたっぷりと体を動かしたから満足いく内容だった。
正俊とは山の入り口に待ち合わせをすることになり、一旦解散した。
ーーーーーー
夜の21時、帰ってシャワーと飯を食ってから合流した。当然私服に着替え直している。
「よーおつかれ!」
「おう!」
合流すると正俊の手には天体望遠鏡を担いでいた。小学校の頃から思ってたけどほんとに星が好きだよなと思いつつもおれもたまに夜空を眺めたりするから星は好きだ。
階段を登り、しばらく道なりに進んでいくと広い原っぱに出てきた。
今日は雲ひとつない快晴でここは小学校の時から来ているからいわばおれたち2人の秘密の場所。
「おぉー!今日もすっげぇ綺麗だな!」
「だな!やっぱりここはいつ見ても空気が綺麗だから星空満点だな!」
おれたちは持って来た望遠鏡で交代でのぞいていく。
「見ろよあれ?『アル.タルフ』って星だ!」
「聞いたことない星だな、なんだそりゃ?」
「蟹座のβ星でちゃんと意味もあるんだぜ!
『ひたむきな人生の主役』、まさに勝利のような星って感じだよな!」
「そう言われてみれば確かにw
じゃ次からはそれ格言にでもしようかな?」
確かにこの意味はとってもおれの心に響いた。友情、努力、勝利。それがおれの人生の根本だからスッとその意味を受け入れられた。
楽しくしばらく談笑していた。
すると森の奥から
「こっちにおいで...」
何か声が聞こえて来た。
最初は気のせいだと思い無視していたがまたしばらくすると森の中から光がほのかに見えた。
「おい、なんだあれ?」
「さぁ、こんな山奥に誰か人がいんのかな?
行ってみようぜ。」
正俊はそう言うと起き上がり、おれに着いてこいと首を振る。
仕方なくおれもついていき森の中を歩くと狐を祀っている神社に来た。
神社の境内に狐の像が置いてあるからそう思っただけだけど。
「あれ、こんなとこに神社なんてあったっけ?」
「いや知らないなこんな場所。小学校の時か
ら来てるけどこんな神社があるなんて今初めて知ったぞ。」
辺りを見渡してもそうだ、こんな神社は今日初めて来た。
「まぁまた今度詳しく見てみようぜ、とりあえず戻るか。」
正俊がそう言った瞬間、あの狐の像が光だす。
「おいおいなんだありゃ!?勝手に光ってんぞ!」
「ほんとだ!マジなんなんだこれは!?」
試合とかでは感じないような恐怖の感覚。
不安や焦りとかがおれたちを襲う。
そしておれたちの周りにその光が照らされていった。
「「うわぁぁー!?」」
おれたちは光の中に消えていった。
ーーーーーー
目が冷めると山の中ではなく周りが野原になっていた。
「おい正俊しっかりしろ!」
「うーん...
あれ、ここどこだ?」
何が起きたのかわけもわからず起き上がって辺りを見渡した。
夜だったはずが、今は太陽が昇っている。
どうやらおれたちはこの時間まで気絶してしまっていたらしい。だがなんで森の中にいたはずのおれたちがこんななんもない原っぱにいたんだ。
すると草むらから何かが飛び出してきた。
なんかゲームで見たことあるようなやつ。
「おいなんだこのゼリー上の生き物!?
見たことねぇぞ!」
「落ち着けよ勝利、とりあえず無視しよう。」
すると正俊目がけて跳ねて攻撃してきた。
「痛っ!なんだこいつ急に攻撃してきやがった!このやろう!」
正俊はかかと落としをしたがなんとそのゼリー上の生き物には全くきいてなく、むしろ跳ね返されてしまった。
「正俊!?
今度はおれの番だ!」
おれはその生き物に次々と突きや手刀や蹴りを次々と叩きこんでいく。
極め付けは跳び回し蹴りまで、だがその生き物は傷一つ負ってなく全て跳ね返されてしまった。
「嘘だろ...」
「おれたちの攻撃が何一つ通用しねぇ!?」
そして次第に後ろへ後退していくも追いつかれてしまう。その繰り返しだった。
「正俊、なんとかならねぇのかよ!?」
「そんなこと言われたって...
ん?なんだこれ。」
どうやら何かを見つけたみたいだ。
「何か見つかったのか?」
「勝利、目をよく凝らすんだ。
なんかあそこに白い矢印みたいなのが見えるんだが。」
確かにほんとに目を凝らさないとわからないけど、ほんとに小さく矢印が見えた。
「んでなんか下のバーがあるよな。
敵の情報を知れるみたいだな!」
そこの欄にはおれたちの情報、アイテム、魔法、特技、防御、そして敵の情報と書いてあった。
その敵の情報を矢印を目力で開いていく。
《スライム》
LV.1
HP 8
MP 0
ATK 10
DEF 4
と記載していた。
「おい、このスキル欄見てみろよ...」
スキル欄は確か下に...
スキル
物理攻撃完全無効
と書いてある。
「え、嘘だろ...
んじゃおれたちがいくら攻撃してもこいつにダメージ与えらんねぇのかよ。」
「もうこうなったら走って逃げるしかねぇ!行くぞ!」
そうしておれたちはその生物からダッシュで逃げていく。すると猛ダッシュでそいつも追いかけて来た。
正俊が途中で転びおれは立ち止まってしまった。マズイ、このままじゃ正俊が危ない。
「正俊!!」
そう叫んだ時、上から何かが来た。
そしてその生物は真っ二つに切れた。
剣で倒したようだった。
「ぷっあははは!
あんたたちスライムで逃げ出してんのー?w
ダサすぎなんだけどw」
女の子だった。狐の耳に軽装の鎧を着ている。そして剣を持っているからおそらく彼女が倒してくれたんだろう。
ん?狐の耳?
コスプレか何かかな。
「危なかったー!
助けてくれてありがとうございます!」
「いーえ、てかあなたたち見ない顔だけどどこ出身なの?」
「あぁ、おれたちは東京から来たんだよ。」
「東京?なにそれ知らないんだけど?」
「え、外国の人かな?
えっと...ジャパンから来ました。」
「いやだからジャパンってなに?
もしかして新しくできたパン?」
いやいくら外国の人でも日本、ジャパンは知ってるだろ。
「なぁ勝利、まさかおれたち俗に言う異世界に来たんじゃねぇのか?
この子狐の耳をしてるから。」
まさかそんなこと、ありえるわけないだろ小説やアニメじゃないんだし。
「あたしはアンナ、ここはフィスト大陸。
今私は街に戻るところなんだけどあんたたち弱いから護衛してあげる。あ、街に向かってね。ありがたく思いなさいよw」
え、そんなまさか...
「「ほんとにここ異世界ー!?」
こうしておれたちは成り行きで異世界に飛ばされてしまった。
情報を得るためにアンナさんが向かう街に向かい詳しい情報を手に入れることにする。
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