1-4 魔族の象徴
「ちょっと待て」
俺はすべての服を脱がされた状態で、ヴィンセントもすべての服を脱いだ状態でベッドにいる。
「この状態で待てをするなんて、レン、実はサディストだったの?」
ヴィンセントの表情が艶めかしい。恐ろしいほど迫ってくる。ヴィンセントは意外と着やせするタイプなんだなー、とか、筋肉もしっかりつけているんだなー、とか、お肌も綺麗、とか、とりあえず今はその辺はどうでもいい。
「いや、ヴィンセント、ソレを俺に挿れる気か?絶対に無理だろ」
俺は大恩人に対して申し訳ないがその行為を中断させた。中断せざる得なかった。
ヴィンセントは男としてものすごく立派なものをお持ちだ。
彼が裸になってはじめてわかった。
当たり前だが。
俺に性的興奮を覚えてくれるのは嬉しいが、今まで見た中でダントツ一番の大きさではないだろうか。
男性としては羨ましくなるサイズなのだが、自分が挿れられる側となると話は変わる。
女性同士で明け透けな会話をしているのを飲み屋で小耳に挟むこともあったが、男は大きければ良いというわけではないことを身をもって理解する。
こんなものを挿れられたら、俺のケツは崩壊する。
「大丈夫だよ。俺に全部ゆだねて」
甘い言葉には絶対裏がある。
せっかく助かった命なのに。
「大丈夫じゃないだろっ。絶対に痔になる」
「ならない、ならない。大丈夫ー」
わー、軽い口調過ぎて信用ならない。
ヴィンセントは俺を強引に押し倒した。
結論から言うと、ヴィンセントに気持ちよく抱かれました。
何なの?うまいの?コツでもあるの?標準的なサイズの俺には必要ない知識だと思うけど。
ヴィンセントは俺の額にキスを落とす。
「ごめん、ごめん。実は毎日レンに入れていた座薬って、熱を下げるためだけのものじゃないんだ」
「ん?」
「俺のって他人より大きいから、入念な準備が必要なんだよ。特に相手が男性となると、ね」
はい、理解しましたっ。
本当にヴィンセントははじめから俺のカラダ目当てだったことを。
ヴィンセントの下準備のおかげで、俺は男性相手初心者なのに、あんな大きなサイズのモノで気持ちよくよがることができたわけですねっ。
性欲を抑圧されている聖職者じゃないのかよっ。完全に俺より知識が上じゃんっ。
「王子がもう昼寝から起きてくるから、続きは夜にね」
夜まで?王子が寝た後に、またヤる気なのだろうか。声や物音で王子は起きないのかな?
妖艶な笑顔をにじませて、ヴィンセントが俺を見る。
あ、この人、大きい上に、無尽蔵の性欲をお持ちのようだ。もしかして絶倫なのか?
抑圧され過ぎると、変に歪むって言うし。宗教って怖いよね。
お互いの体液でお互いドロドロになっていたが、ヴィンセントの魔術であっさり綺麗なカラダに。
「ん?」
「残念ながら、カラダをふく時間はないからね」
と言いながら、ヴィンセントは俺に服を着させてくれる。
いや、そういうことではない。
「毎日、カラダをふいてくれていたのは?」
今のように、完全に魔術でささっとできたことなのでは?
俺は献身的にかいがいしく世話してくれていたと思っていたのだけど。
「そんなもったいないことしないよ。せっかく好みのカラダに触れるのに」
あー、はい、そうですかー。
ヴィンセントの人間味あふれる欲望に忠実な面がわかって嬉しいでーす。
「そういや、この家に鏡ある?」
「私の部屋に鏡台があるよ。前の持ち主が置いていったものだけど」
自分の趣味じゃないということを、ヴィンセントが主張している気がする。どんな鏡台なのか、反対に興味が湧いてしまった。
「見せてもらってもいい?」
これはヴィンセントの部屋と鏡と両方の意味で聞いた。
「うん、いいよ」
承諾を得たので、ベッドから立ち上がろうとするとカラダがふらつく。
ヴィンセントがすぐさま支えてくれる。
「病み上がりに無理させちゃったね。大丈夫?」
「うん、大丈夫」
腰がだるいけど、歩けないほどではない。
ヴィンセントの部屋を見せてもらうと、綺麗に片付いていた。
が、ピンクの家具が一角に寄せられている。
コレが前の持ち主の趣味なのか。
「はい、鏡台」
ピンクの鏡台にある椅子に腰かける。この鏡台は観音開きの三面鏡のようだ。
深呼吸する。
今の自分の姿を確認するために。
ヴィンセントに触れられるとよくわかる。
このカラダは非常に細くなった。
そして、ヴィンセントに横に並んで支えられるとよくわかる。俺、身長が縮んでないか?
うん、絶対に縮んでいる。
愕然とした。
ギフトを失うと、身長も失うの?『蒼天の館』がなかったら、コレが俺の本来の身長なの?
それとも、ギフトや筋肉だけでなく身長まで奪われたの?
うん、何が言いたいのかというと、とにかく自分の外見が変わってしまったのを実感している。
決定打として、鏡を見るのは怖いが。
意を決して、三面鏡の扉に手をかけて、開ける。
「レン?」
鏡を見て動かない俺を心配したのか、ヴィンセントが声をかけてくる。
「誰だ、コレ?」
首を傾けると、鏡の向こうも傾げる。
うん、俺なのだろう。信じられないけど。
あまりにも刺される前とは違い過ぎて、どうしようもないと諦めるレベルだ。
クセのある
伸びたと言えば伸びたのだろうが、一か月でここまで髪は伸びるだろうか。
クセ毛だったからこそ手入れが面倒で短髪にしていた。
黒髪から白く変わっただけでも印象はものすごく変わるのに、前髪を垂らしていたらもう誰だかわからない。
面影を探すどころか、どう見ても別人だ。
そして、目が果てしなく赤い。充血しているってワケじゃない。
ひたすら赤い。どうしたらこうなったのだろう。あー、色はダンジョンコアの色に似ているかな。
元々赤かったということはないはずだが、『蒼天の館』がなくなったからといって目の色まで変わるとは思えない。
顔は若返ったという感じだが、単純に若返ったわけではない。
十代後半あたりと思える顔立ちだが、俺がこんな優男らしい顔だったことはない。
俺は幼い頃から訓練に明け暮れており、顔も目つきも険しい感じだった。じっと鏡とにらめっこすれば面影がまったくないわけではないが、昔の知り合いに出会ったところで俺と認識されないレベルである。
逞しい筋肉がない今、白髪でなければ、外見はまあまあ見目良い青年といった感じになるだろうか。
ヴィンセントが自分より若いと言っていた理由がわかった気がする。
身長もヴィンセントより低ければ、抱くのにちょうど良い体型なのか?
顎に手をやると、そういやと思い出す。
ヒゲとか伸びてこない。ヴィンセントが処理してくれているのかと思ったが、そうではなかった。
意識がはっきりしてくると、彼に何をされているのかというのはわかる。
ヒゲ剃りは一度もしていない。髪は伸びたのに、ヒゲは伸びない。不思議だな。
「うーん?」
この顔で、俺がザット・ノーレンだと伝えて信じてもらえるかというと疑わしい。同姓同名の別人と思われるのがオチだろう。俺が英雄になった後に生まれた世代からはザットという名前は氾濫しているし、アスア王国では公爵家の一族しか名乗れないノーレン姓だが、他国では普通に見られるので、同姓同名がいないわけではない。
「ヴィンセント、」
俺は尋ねる。
聞きたくないと思いながらも。
「俺、二人に会ったときから、こんな姿だった?」
「うん、そんな姿だったよ。泥塗れ、血塗れだったけど」
「あー、そうかー、そうだよなー」
二人に会ったときがすでにこの姿なら、二人はこの姿の俺しか知らない。
じっと鏡を見る。
産まれたときから白い髪という一族を知っている。
「ああ、コレで目の色が紫なら、魔族と間違えられたくらいだな」
この世界の魔族は魔力が強い一族のことであり、人類の忌み嫌われる敵という位置付けではない。ただ、少数民族であり、流浪の民なので、親族でもなければ普通の人間が出会える機会はほとんど皆無である。大金持ちだけが彼らに仕事を依頼ができる。
魔力が強い人間は非常に重要なので、この世界の魔族は出会ったら拝み倒される崇拝の対象である。
「いや、白い髪、紫の目は一般的な魔族の象徴だよ。上位の魔族はレンのように赤い目だ」
つまり、より強い魔族は紫ではなく赤い目ということか。
「さすがは神官。詳しいな」
「そう?そうでもないよ」
ヴィンセントの表情が少し固まった気がした。
そういや神官ってこと、彼の口から聞いたわけではない。俺の推測だった。まあ、口から出てしまったし仕方ない。
ヴィンセントも否定しなかった。
「だとすると、この外見は魔族のように見えるのか。白髪はともかく、この赤い目は目立つな」
数は少ないが生まれながら白い髪の者は存在する。が、白い髪の紫の目、赤い目となると魔族だけで、外見が一致する他の民族は存在しない。
目の色を何とかしたい。と思ったら、目の色が暗くなってきた気がする。
「もっと暗くなれば」
俺が願うと、目の色は
一般人と化した。
「レン、」
横を見ると、怖い笑顔を浮かべているヴィンセントがいた。
一体どうした?
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