第47話 通信手段

 港に入っていくと、マスコミの車が多く立ち並んでいた。


「何なのよ、あれ? 流石に止めた方が良いんじゃないの?」


 エーデルワイスの言葉を聞いて、雫は深い溜息を吐く。


「そう思うのも致し方ない……わよね。一応報道規制は敷いている。けれども、こんなものを見せられちゃあ、やっぱり見に行きたくもなってしまうのでしょう。……人間というのは、興味にはどんな意思も覆せない。興味があるからこそ、人間というのはここまで繁栄してこれたのでしょうし」

「……何だか高尚な考えを持っているのは充分理解したけれど、それとこれとは話が別では?」

「まあまあ。一応立ち入り禁止エリアには入っていないし、何かあっても自己責任とは謳っているし? 別にそこまでああだこうだと言う話でもないとは思うけれどね」


 確かに、マスコミは少し先にあるバリケードから先には、入っていない。

 つまり彼らとしては、テリトリーを破っていないのだから別にここから取材しても良いだろう——ということなのだろう。現場に居るカメラマンやアナウンサーのことなど、あまり考えていないのかもしれない。

 彼らからしてみれば、センセーショナルなスクープが取れて仕舞えば良い。

 それによって彼らのマスメディアという財産は潤い、さらに新しいスクープを取り込めるようになっていくのだ。

 バリケードの手前にあるゲートで、バスは一度停止する。

 運転手はゲートの警備員に挨拶し、


「ご苦労様です。この先へ?」

「ええ。彼らを連れていくためにね」

「ふうん……」


 警備員は車内をぐるりと見渡すと、ゆっくりと頷いた。


「……了解した。気をつけて」


 バスはそのままバリケードを越えて、先に進んでいく。

 竜巻がどんどん近づいていくのを、パイロットの面々は誰しも怖がらなかった。


「……到着したぜ」


 運転手の言葉を聞いて、聡に瑞希、そしてエーデルワイスの三人は外に降り立った。


「……風が強い」


 瑞希の言葉は、言わずとも分かりきっていた話だった。

 しかし、言わなければ理解出来ないことだってある。

 そして、認識を一致のため言い切ることも大事だ。


「じゃあ、皆——頼むわよ」


 雫の言葉を聞いて、全員は頷くと——各パイロットはオーディールを呼び出した。



◇◇◇



 聡のコックピット——公園。

 その端にある鉄棒にて、少女が——アルファが逆上がりをしていた。


「いやはや、こうも襲撃者が連続してやってくるとかなり大変だねえ。もしかしてこの世界、狙われているのかな? 彼らにとって、とても有意義な空間であると言えるのかもしれないね。だとすれば、それを退け続けないといけないのだろうけれど」


 逆上がりは、失敗する。


「難しいなあ……」

「アルファは……何をしているんだ?」

「あれ? 名前、言ったっけ?」

「いや——瑞希と一緒に居る少女——ベータから聞いたよ」

「ベータはおしゃべりだからなあ。わたしとは大違いだよ。わたしは必要な情報しか喋らないからね。勿論、きちんと質問してくれればこちらだって情報提供ぐらいするさ」

「本当か?」

「まあまあ、先ずは状況整理としようじゃないか。……一回ぐらいは成功したかったな」


 鉄棒から移動して、中心にある砂場へと向かうアルファ。

 そして聡もそれに従って、砂場へと向かった。

 砂場の中心には、小さい竜巻が渦巻いている。

 今までは固定だったような気がするのに、如何して今回はこうなっているのか——聡には全く分からなかった。


「さて、何か良いアイディアでもあるかな?」

「……何でもかんでも、良いアイディアを常に持ち歩いていると思ったら大間違いだぞ」

「言えている」


 アルファは笑みを浮かべる。


「まあ、そんな冗談を言っている場合でもないかな。……きっとこれ以上強くなると、周囲に居る人間や建物をも吸い込んでしまうんじゃないかな? だとすれば、甚大な被害が発生する。それはきっと、誰しも回避せねばならないこと。そうだよね?」

「……そうだよ」


 それぐらいは、分かっている。

 聡はそう言っておきたかった。全く意見を通せないとばかり思われていては、意味がないからだ。

 確かに彼はシミュレーションマシンでの戦闘で、完全なる敗北を喫した。

 さりとて、それを延々と引っ張る必要性は皆無であること、それは聡だって分かっていた。

 しかし——だからといって、それが簡単に出来る程人間は楽な生き物ではない。

 だからこそ、聡は何か良いアイディアを発案して、この場をリードしたいとさえ思っていた。

 リードさえ出来れば、自分の存在意義を見出せると思ったからだ。


「……今は三機のオーディールが居る。これらが協力すれば、きっと何か具体的なアイディアが生み出せると思うけれど?」

「シンクロが出来るのか? それともそれぞれのオーディールと通信が出来るのか? 意思疎通は出来ると……そう言いたいのか?」

「出来るよ。ポケットを弄ってみなよ」


 アルファから言われた聡は、言われるがままにズボンのポケットに手を突っ込む。

 そして——そこに何かが入っているのを確認した。手で触れるととても堅いし薄い——とても馴染みのある形状をしていた。

 それを取り出すと——そこにあったのはスマートフォンだった。


「……何で?」

「通信手段は本人の思考に依るけれど、まあ、この時代でこの科学技術レベルならば、そうなってしまうのも当然かな。安心して、きみが考えるやり方で、三機のオーディールは通信を取ることが出来るから」

「まさか、そんなことが……?」


 しかし、ここで躊躇う必要はない——そう思って、聡はスマートフォンを耳元に近づけた。

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