第5話 キューピッド・ストーン

河川敷を吹き抜ける5月中旬の風はとても心地が良い。暑すぎず、寒すぎず、なんていい季節なのだろうか。深く息を吸うと、春の落ち着きと少しずつ夏に準備する草木の香りが鼻腔をくすぐる。


私は、ミスター・オニシゲにバレないように回収したポッキーの余りを一本取り出した。


ああ、なんて憐れなナナ。まだオニシゲに捕まっているんだろう。奴に早く帰れと言われて仕方なく彼女を置いてユウダイと2人で帰っているが。なんだか彼女のためにひとつ詩でも読んでやりたいような気分かもしれない。あぁダメダメ、そんなの私、慈悲深すぎて女神になってまうわ!


「なぁ、見て」


1人脳内で茶番を繰り広げる私の隣を歩くユウダイが声を上げて道の先を指差した。

「アレで久しぶりに遊ばん?」

蹴飛ばすには丁度いい大きさの石が道の真ん中に転がっている。


2人で帰る時、特に中学生の頃はよくこのゲームをしながら帰っていた。石ころを順番に蹴っていって、土手の左右から転げ落ちていったら負け、ただし前の人よりも遠くに蹴らないといけない。ルールはそれだけ。

よくジュースや駄菓子屋のお菓子を賭けては競っていた。


「懐かし! いいよ何賭ける?」


「ほんなら、負けた方が本屋横の自販機のジュース奢りな」


ユウダイは余裕だと言わんばかりに腕まくりをして首を鳴らしている。

「いいねぇ」私も負けじと右腕をぶん回した。


「......腕使わんのに何で腕回してんねん」

「ふん、じゃんけんするで」


最初はグー、ジャンケン......ポン!!


「ヨシッ!」


「何......だと、!」


私がパーで、ユウダイはグー。このゲームは圧倒的に先攻が有利なため、ユウダイが自らの拳を疑うのも分かる。だが今回は私が先攻だ。

目の前にある石を左右にブレないように少し弱めに蹴り飛ばす。

コッ、カッ、カッカッ、コロン。



先に転がっていった石に追いついたので今度はユウダイがもう少し強めに蹴る。


コン、カッ、カッカッ、コン、コッコロン


「うわ結構飛ばしたじゃん」


私たちは前に飛んだ石を追いかけるように歩を進める。

次は私。ここが勝負時だ、と迷わず思いっきり蹴った。


コン、カカッカッ、カッ、カッ、カッカッコロン。


危なかった......石ころは道の左端の近くで止まり、いい感じに遠くまで飛んだ。

「攻めるねぇ」

少し悔しそうな顔で遠くに転がった石ころを見つめた。


「これで俺が蹴って落ちなかったら勝ちだな......よし。」

ユウダイは意を決して大きく蹴り飛ばした!


ガッ!!


「あっ!」


なんということだろう!!靴が勢いよく地面に擦れると共に石は高く蹴り上げられてしまった!


左側から蹴ったので、軌道は完全に土手を通り越して、遠くの草がボーボーに生い茂っている川側の斜面に飛んでいってしまった。


「よしきたァ!!」「痛ぁい!!」「負けたぁ......」


石が土手を大きく超えていったのを見て、思わずガッツポーズを決めた私は「じゃあジュース奢りな!」と振り向いた。

するとユウダイはなぜか、どこか不思議そうな顔をしているのだ。


「ちょっ、今なんか声せんかった?」


「え?」


勝利を喜んでいた私には何も聞こえなかった。


「気のせいじゃないの?だって私何にも聞こえんかったけど」

「ほんまに?」

「それより、『ジュース』!ちゃんと奢ってもらうで!」

「それは全然いいんやけど......」

あれ、おかしいなぁ、とどこか腑に落ちないような顔をするユウダイ。

「しゃーなしやで。ポッキー、一本あげるから元気出し。」

女神になりかけの私は、ユウダイに最後の一本のポッキーを差し出した。



なんだかんだいいながらそのまま土手を歩いていると土手の右側、川の流れている方から声が聞こえてきた。


「おーい君たち! ねぇ石!石投げたのは君たちでしょ?」


えっ?と2人で顔を合わせる。

声のする川の方を見ても声の主が見えない。


ユウダイはやっぱり、とでも言いたげな顔で私をチラリと見て叫ぶ。

「どなたですか、姿が見えないんですけど!」


「も〜お、ここだよ。ここ!」


すると、土手の斜面に生い茂った草むらの中で黒い何かがもぞっと動いた。

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