第29話 クズスキルなどないんだよ(3)
「相変わらず勝手なんだから、あの公子は!」
リョウタやリンデンとともに別室に消えてしまったヴォルハート公子について、キルシュが文句を言う。問題のパーティ三人組はこの事態をどう判断したらいいのかわからず、落ち着かない様子だ。もちろん私たちも意味が分からない。
アーヴァとコフィが手分けして出してくれたお茶と菓子を、彼らが戻るまで口にしながら私たちは時間をつぶしていた。そして、小一時間過ぎたのち、ギルド副会長ことヴォルハート公子をはじめとする三名が戻ってきた。
「待たせたな、リョウタとようやく話がついたところでな」
冒険者ギルド副会長は言った。
「話って何の?」
組合役員のキルシュが質問する。
「まず借金なんだが、スキルが算定したのは三名分で大金貨百枚だったな。これをまず半分にする方法がある。君たち、リョウタに使わせたスキル効果を彼に返す気はあるか?」
今度はパーティ三人に副会長が質問する。
「効果って軽量化してもらったこと?」
「今さら……」
「意味が分かんない、でもそれで半分に減るんだったらいいかも……」
私も過去に荷物を軽くしてもらったのを『返す』という意味が分からない。
無効にするということだろうか?
すでに終わったことを?
「よくわかんないけど、いいぜ。返してやるぜ」
ヴュロンが答える。
すると、四人の間に魔力の移動が行われるのが私たちにも見てとれた。
ただ、それがなんなのかわからない、実際それが終わっても彼らには何の変化も見られなかった。
『パーティ借入金、大金貨五十枚分』
声だけが部屋に響いた、これがスキルプライスチェック。
「第一段階完了ですな。続いてさらにその額を半分にすることがリョウタの意志でできます」
今度はリンデンが説明を始めた。
「今まで世話になったパーティだけど、あなた方が僕をいらないというのなら仕方がないです。ただ、パーティを出る前にここで僕と勝負してください」
リンデンに促され、リョウタは自分が元いたパーティ三人に告げた。
「勝負?」
「誰と? 何の?」
「まさか、正気か? リョウタ!」
リョウタの言葉に意表を突かれしばらくぽかんとしていた三人だったが、やがて笑い出した。
「おいおい、リョウタ?」
リーダーのヴュロンが笑いながら質問する。
「あなたとサシで勝負したいのです」
リョウタは言い切った。
「なにそれ? いや、ウケるわ! 俺どころかジャールにもかなわないお前が、俺と一対一で?」
リョウタを小ばかにするような言い方をヴュロンはする。それを受けてほかの二人も大笑いをする。
「受けるのか? 受けないのか?」
副会長の公子がヴュロンに返事を促した。
「いや、その……、俺はもちろんかまわないけど、ぼこぼこにしたことを後で文句言われても困るなって話で……」
笑いながらヴュロンが答える。ほかの二人もまだ笑うのをやめない。こいつらとことんリョウタを馬鹿にしているのだな。
「ちょっと、公子! あんた何勝手に話し進めてるのよ! そもそもこの会議が何のために行われているのかわかっているの?」
キルシュが割って入って抗議する。
「ああ、しかし、一番大事なのは
公子が答える。
「何が一番良いよ! あんたが
キルシュも負けない。
「これまでのことや僕のスキル、それからこれからのことを総合的に判断して僕が望んでいることです。勝負を受けてくれるなら今回の件はなかったことにしてもいいと思っております」
リョウタが答えた。
「ああ、勝ち負けにかかわらずそれで手打ちだ、どうだ、受けるのか?」
公子が返事を促し、そういうことならとヴュロンは勝負を受けることにした。
「じゃあ、隊員の練習部屋借りるぞ。あそこなら素手のタイマン勝負ができるだろう」
そして、コフィに打診しさっさとことを進めにかかる。
私たちはあっけにとられながらも、公子やリョウタの後について行った。
部屋には剣や格闘の模擬試合をするのに都合のいい場所がある。実践形式の試合では、四方を魔法バリヤで囲み行うのだという。
「勝負でチャラになるのは、残った借金の半分と今回の事件の追求だ。さらに残っている大金貨二十五枚分と今後のことは四人でちゃんと話し合う、その際には俺かリンデンが立ち会うのでそのつもりでな」
公子がパーティの三名やほかの見学者にもわかるように大きな声で説明する。
キルシュはまだ納得がいかず怒っている。
私たちも納得はしてないが、あまりにも展開が早く抵抗する間がなかったのだ。
「そういえば、こういう人だったな、公子って……」
シアンが頭をかきながらつぶやいた。
「こういう人ってどういう人?」
私はシアンに質問する。
「『男ならこぶしで語り合え』なんて本気でいうような人」
シアンが答えた。
そういう人は前世でもいたな。
でもそれは、現実ではなくマンガや小説の世界の中にだが……。
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