俺、悪役令息。妹、魔王。~断罪されてから始まる妹とのダンジョン攻略!

サエトミユウ

第1部

第1話 いきなり断罪、そして転落

 ――あれ、このシーン知ってるぞ。

 そんなバカな考えが頭に浮かんだ。

 そんなことを考えている場合じゃないんだけど、思いついてしまったんだ。


 俺は九十九髪つくもがみレオン。十六歳。厨二病がイマイチ抜けきらないお年頃だ。

 だからなのだろうか、今のこの状況を「あれ、コレって、あのゲームのワンシーンじゃね?」って思ってしまったのは……。


 今の俺の状況?

『クラスで一番モテてる同級生を筆頭に、女子生徒に囲まれて槍玉にあげられてる悪役令息』って状況だよ!

 この、ゲームならありふれていそうで現実には滅多にないような断罪劇の、断罪される側に立っているのが俺だ。


「……思い出した」

 いや、タイトルは思い出せないんだけど、俺を責めているコイツら、あのゲームのヒーローとヒロインじゃん。

 そして俺は、ゲームの最初のほうで退場する悪役令息じゃん。

 そこまで考えて、唐突に天啓を得た。


 ……あ。

 俺、前世の記憶があるわ、と。


 ――そう、かれこれ二百年ほど前、世界中にダンジョンができたという。

 今は当たり前なんだけど、当時は資源枯渇や温暖化で世界中がヤバいことになってたらしく、滅亡かって時にダンジョンができて、そこから得られる資源で頑張ってここまで繁栄させた、って歴史で習った。

 それを【世界異変】って言うんだけど、俺の前世は世界異変より前の時代っぽい。

 断片的すぎてわからないけど、まだ資源があって平和そうだった。


 で、その平和そうな時代にやりこんだゲームで、俺も含めて登場人物が同じ名前の連中が今ここにズラッと並んでいるんだよ。


「おい! 聞いてるのかよ! お前、反省もしていないのか!?」

「……お兄様。未遂ですから、謝れば許します。謝罪してください!」

 いかにもヒーロー、みたいなオーラを放つイケメンと、いかにも悲劇のヒロイン、みたいな薄倖そうな美少女から責められている俺は、始終俯いたままだ。


「どうして認めてくれないんですか? 謝ってくれれば何もなかったことにします」

「アヤメがこう言ってくれているんだぞ? お前、いい加減にしろよ! 俺自身は、お前をぶん殴りたいのを我慢しているんだからな……! アヤメにきちんと謝れ!」


 と、別の女子も出てきた。俺を責めているヒーロー、池端いけはしエイユウの取り巻きの一人だ。

「……九十九髪君、一言謝るだけでいいんです。それで、美美久みみきさんはなかったことにしてくれるって言ってるんです。だから……お願い……」

 なぜか泣き出す。

 すると池端エイユウが泣いている女子の背をさすり、さらに俺に怒鳴る。

「ヒルガオ……! おい! 九十九髪! ヒルガオが泣いてるんだぞ! これでもお前、何も思わないのかよ!? お前、そんな奴だったのかよ!?」


 何を思えというのだろう。

『なんでこの寸劇に俺を巻き込まんだ? そんな奴も何も、俺、お前らと仲良くないよね?』……って尋ねればいいのか?

 それとも、『よってたかって俺を悪人にしようとしているお前らこそ悪人だ!』……とでも叫べばいいのか?


 だって冤罪だ。


 そもそもが、俺は女子と話したことがない。

 女子と、話したことが、ない!(二回言った)

 つまり……陰キャなのだ。

 女子とは目も合わせないし、というか見ないようにしている。

 そんな男がどうして女に手が出せよう? マジ無理だし。

 俺は唯一気軽に話せる女は、妹(現在四歳)だけだ!

 家政婦の安松火さん(現在五十六歳)ですら、気軽には無理だからね!


 確かに、美美久アヤメさんは、うちにいた。

 父が「どうしても下宿させてほしいと頼まれた」と渋い顔で言って、紹介されたんだ。

 なんでも、父の知り合いの知り合いの娘だとか……ソレ、知り合いですらないよな?

 別に、父の家だから父の好きにすればいいけどさ……。うちは家政婦がいるし。

 全て安松火さんに任せておけばいいから、誰が下宿しようが俺は関係ない。――そう、思っていたんだ。


 美美久アヤメさんは初日から死んだ目をしていて、絶対関わり合いにならないようにしよう、って思って避けていたのだが、死んだ目をしているわりには「お兄様」と言いつつ積極的に話しかけてくるので、俺はひたすら逃げ回り、自室にこもりきりになった。


 そうやって接点を減らしほぼ会話をしなかったら、俺が風呂に入っているときに押しかけようとしたのだ! 痴女だ!

 妹がまんま「痴女!」と叫んでいるのがドア越しに聴こえ、俺は慌てて風呂から出て着替えた。

 以降、妹か家政婦さんが俺の風呂やトイレの時にドアの前に仁王立ちする騒ぎとなった。

 最終的に部屋へも侵入しようとしてきたので、怖くて妹と寝ることになった。

 むしろ、未遂ながら俺が襲われそうになっていた側なんだよ!


 ……と、主張したいけど、話せないし、勝手に話は進んでいくし。

「最っ低。下宿先の女に手を出そうとするなんて犯罪よね。退学になればいい」

 と、これまた池端エイユウの取り巻きの一人、玖田医モクレンが俺を蔑み、話を大きくし、俺を退学にする運動を始めた。

 そして俺は、あれよあれよという間に、学校を退学処分にされてしまった。


 さらには。

 直後、父が汚職疑惑で捕まり、家を追い出されたのだった。


          *


 俺には『モモ』って名前の、腹違いの妹がいる。

 俺の母親は既に亡くなっていて、妹は父の再婚相手との間にできた子だ。ちなみに義母も亡くなった。

 どちらも同じく魔性硬化病だった。

 前世にはなかったこの病気、ダンジョンが現れて以降に出てくるようになったそうだ。


 ダンジョンが現れて以降、人間は急激に進化した。

 他の動物も進化しているみたいだけど、人間はわかりやすく、魔術が使えるようになった。

 前世じゃ、それこそ小説やゲームの中の話だったけど、今は普通にいる。

 もちろん、使えない人もいる。魔術を使える神経器官がないか、少ないらしい。

 この、魔術を使える神経器官がおかしくなって発症するのが魔性硬化病だ。

 この病気に、俺を産んだ母と、妹を産んだ母がかかり、産んでから間もなく亡くなった。


 父は政界にいて多忙のため、あまり帰ってこない。

 だから、妹は俺が育てたといっても過言ではない(過言である。ベビーシッターが育てた)


 ――なんでか知らんが、俺を退学に追いやった居候の美美久アヤメさんは俺を「お兄様」って呼んでいたが、彼女は養女なワケでもなければ親戚でもない。父の愛人の子ですらない。

 俺の妹は、一人だけ。

 俺を「兄ちゃん!」って呼ぶ、生意気かわいいチビッコだ。


「兄ちゃん! あの痴女と離れられて良かったな! でもって、もしまた襲ってきたら、あたしが守ってやるからな!」


 ……うちは資産家で裕福だったので、俺は御令息、妹は御令嬢と言われる立場だったのだが、妹はけっこうなガラッパチに育った。

 そして現在、六畳一間の安アパートに住んでいるのに、めっちゃ元気だ。

 なんならお嬢様をやっていた頃よりも元気だ。


 ――父が捕まり帰ってこなくなり、警察がうちに押しかけてきて、「それカンケーなくね?」ってモノまで「押収」とうそぶきながら持ち去っていった。

 俺たちは家を追い出され、親戚を頼ろうとしたら刑事から「お前らが行った先の親戚の家も怪しいだろうな。そこも運び出ししねぇとな」という謎の脅しをされ、どこにも行けなくなった。

 ちなみに、キレた妹がソイツの顔面に跳び蹴りを喰らわしていたので、逃げたのもある。


 探し回って、ようやく見つけたのが、保証人なし誰でも借りれる安アパートだ。

 たぶん、ワケありしか住んでないと思う。

 ……あの刑事たち、俺の預金通帳まで全部かっさらっていったんだよな。

 だけど、俺はへそくり的なものを隠していたのだ! 古の、箪笥貯金だ!

 服や下着と一緒になんとかバレずに持ち出せたのでそれで生活用品は揃えられた。


 とはいえ、この金だけじゃ暮らしていけない。

 折よく(?)退学になったことだし、働きに出ることにする。

 ……とはいえ、俺が普通にバイトをしたら、間違いなく妹に跳び蹴りされた刑事がやってきて邪魔をするだろう。

 いろいろ考え抜いた俺は、探索者になることにした。


 探索者ハンター

 それは、ダンジョンに潜り、魔物を狩っては素材を持ち帰り、稀少な金属を見つけては持ち帰り、宝箱を開けては持ち帰る、ダンジョンを探索する職業だ。

 ダンジョン探索協同組合連合会Federation of Dungeon Exploration Cooperatives、略してFDECというのが世界的にあり、ここは政府や警察もそう介入できないらしい。日本の組織よりグローバルなFDECのほうが強いのだ。

 父がたまに「FDECの横ヤリで……」という呪詛を吐いていたのを耳にしことがあり、へー、すごいんだな、って思ったことがあったので、妹を養うためにも働く、ってなったときに真っ先に思い浮かんだ。


 ただ、モモをこんなアパートに一人で置いていくのは非常に気に病むところなんだよな……。

 ……って思ったら。

「兄ちゃん、あたしも『たんしゃくしゃ』になるぞ!」

 とか言いだしたよ。

「『探索者』、って言えるようになってからだな。おとなしく待ってろ」

「やだやだ! ぜーったい、いっしょに行く!」

 とか、駄々を捏ねた。


 だいたいは妹のことを許す俺だが、こればかりは絶対に無理だ。

「モモ。無理に決まってるだろ? 年齢制限があるだろうし、遊びで行くんじゃない。命懸けなんだ。そんなところにモモを連れていけるわけがない」

 かがんでモモの顔を覗き込み、真剣な顔をして諭したら、いきなり平手打ちをおでこに喰らった。

「いてっ!」

「……兄ちゃん。しょうがないから、あたしの秘密を教えてやる」


 は?


 モモが睨むように俺を見て、

「正座!」

 って言ってきた。

 しかたないので、拾ってきたちゃぶ台(ローテーブルと言いたいところだが、ちゃぶ台としか言えない)に、向かい合わせに正座する。


「あたしは、異世界のてんしぇーしゃなんだ」

「……妹よ。どこでそんな言葉を覚えた?」


 真剣な顔でホラを吹くモモに、そう返した。

 誰かに変な言葉を教わったんだな。異世界の転生者とか……前世のラノベじゃあるまいし。

 四歳で厨二病に罹患するのは早すぎだろ。

 俺が呆れていたら、妹が怒る。

「ムキー! 言うと思ったらまんまと言ったな! 言っとくけど本当だ! あと、兄ちゃんもてんしぇーしゃだって知ってんだかんな!」

 俺は驚き、目を剥いてしまった。

 モモは得意げに言った。

「兄ちゃんのオーラは特殊だからな! すぐわかったぞ!」

 えぇえ……。

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