憑かれるのはついてくる女子高生と幽霊

水瀬真奈美

プロローグ

壁に達筆で書かれた朱印のあるお札に、床には盛塩の白い皿。

「さすがにしつこいぜこいつ!」

男は数珠をもって浄化呪文を唱える。

赤い血で染まった生成り色のワンピースの女は、薄気味悪い笑顔を向けると部屋から消えていった。

「くそっこれで何連敗だよ!!」

男は悔しそうに商売道具である一式をカバンに詰め込むと部屋を出て行った。


「それで、今回で何連敗だ」

薄暗い事務所で不機嫌そうに語るのは、依頼人であるオーナーの婆さんだ。

「あれほどしつこいのは俺も初めてだっつーの!」

「とはいえねー、依頼を遂行してもらわん限りこっちとしても困るんだけどね」

「そうはいってもほかの霊媒師だってダメなんだろ……」

俺はあきらめ顔でそういった。

「シャラップ! おまえの両親ならいともあっさりと片付けていたろうにな、高見沢要一郎。あんたは高見沢家の“要”なんだよ」

「そうはいっても、俺だって家業を継いだばかりだぜ、両親のようにはいかないってばよ」

「泣き言なんて聞きたくないね」

婆さんはキセルを吹かすと一服する。

俺はパイプ椅子に座り火鉢で手を温めながら、なんだかんだ半分諦めている。


客が入ってきたのか自動ドアが開いた。

監視カメラには中の良さそうな男女が入ってきた。

いちゃつきながら、パネルを見ながら部屋を選んでいる。

おれはぼんやりとその様子を眺める。

「何号室へ消えていったんだ」

「五〇五号室だ」

すぐにパネルから五〇五号室の明かりが消えた。

「あれ一室消えちゃったね。 じゃあ四階のこのお部屋どうかな」

「君がそれでいいならそこにしようか」

男はパネルのボタンを押してフロントと小さく書かれた小さな窓口へとやってきた。

婆さんは無言で四〇七号室のキーを渡す。

男は受けキーを無言で受け取るとカップルは、いちゃつきながらエレベーターへと向かった。

丁度、男女がつくとエレベーターのドアが開く。婆さんがスイッチを押して操作しているのがここからだとまるわかりだ。

これもサービスなんだろうなと、感心している。


だが対応の終わった婆さんはこちらを向くと無心て語り出した。

「あの子はかわいそうな子だった」

「あの幽霊のことか」

「男には妻子が居たみたいだから、会うのは決まってこのホテルだったようだ……」

吹かしたキセルの灰を火鉢に落とす。

「さぁ、用件は終わったんだから今日は帰んな」

「そうだな妹が心配するしな」

「もってけ泥棒」

「いつも済まない」

俺は片手で拝むと封筒を受け取った。依頼料だ。

霊の成仏はできていなかったが、部屋に閉じ込めることはできた。しばらくは五〇五号室からは出てこないだろう。

それだけでもホテルとしては機能できるからな。ありがたい存在だとのことだ。

ほかの霊媒師ではそうはいかない。除霊師の名門である高見沢家だからできる技でもある。

確かにラブラブの行為中に幽霊が出できたら、ラブホテルとしては終わってしまうからな。帰るとき五〇五号室のパネルを見たが、しばらくは明かりがつくことがないだろうなと思いながら、ラブホテルを後にした。

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