第22話 男同士の絆
「はい。お任せ下さい。料理と魔法には自信があるんです」
そう言って笑う彼女の笑顔が眩しい。
彼女の中で何かが変わったのだろう。
これからも笑顔で過ごせるように、俺に出来る事をしていこう。
「ああ。楽しみにしているよ」
純粋に楽しみだ。
あの味気ない食事とはおさらばできる。
「今後の事も話し合わないといけないが、先ずは三人を弔ってやろう」
「はい。ありがとうございます。彼女達も浮かばれます」
彼女を連れて三人を安置している場所へと連れて行く。
「……。クレア。ナターシャ。ミランダ。ごめんなさい。私は約束を……」
一人一人の頬に手を触れ、声を掛けていく。
ボタボタと涙が零れ落ちる。
彼女が乗り越えなければならない現実。
俺は見守る事しか出来なかった。
それ以上の事をしてはならないと思った。
暫くするとルシアナさんは『彼女達を埋葬したい』と言ってきた。
エルフは郷を見下ろす小高い山に棺に入れて埋葬するそうだ。
「ヘルピー」
【はい、マスター】
「エルフの郷の方角は判るか?」
【神殿予定地の真裏の方角ですね】
さすがヘルピー。
この世界の事は何でも知っている。
「ルシアナさん。エルフの郷は世界樹の裏側の方角だ。世界樹の根元に埋葬してあげよう」
「ありがとうございます。彼女達も喜ぶと思います」
ルシアナさんに聞きながら棺を作り、丁寧に埋葬した。
石造りの墓標を土魔法で作り、『姫巫女の騎士』の称号と共に彼女達の名前を刻んだ。
「クレア。ナターシャ。ミランダ……。ゆっくり眠って下さい」
俺は傍を離れ、家へと戻った。
四人の会話によそ者の俺は不要だから。
「という事でヘルピー。手持ち無沙汰だ」
【やる事は沢山あるでしょ?】
「そうなんだけど。彼女と決めたい事があるし」
【あの女の事など、気にする必要はありません。マスターはあの女に甘過ぎです】
「もしかしてヘルピー。ヤキモチですか?」
【誰が誰に対して嫉妬しているのですか? 最近マスターがあの女の事ばかり気に掛けて、私に話しかけてくれないから、私が嫉妬しているとでも?】
寂しかったのねヘルピー。
可愛い奴め。
少し寂しがり屋でヤキモチ焼きのヘルピーさんと他愛の無い会話をしていたら、ルシアナさんが戻ってきた。
「使徒様ありがとうございました。彼女達も喜んでいる事でしょう」
「俺はたいした事はしていない。気にするな」
「それでも、お礼を言わせて下さい。ありがとうございます」
「君の気持ちは受け取った。ありがとう」
「まだ君は本調子じゃ無いだろう。少し休んでおいた方が良い。身体を動かすのは少しずつ、様子を見ながら。決して無理はしないように」
「その事なのですが。全く問題ありません。今まで生きてきた中でも最高の状態です」
「えっ。そうなの?」
「自分でも不思議なのですが……」
【マスターが与えたカロリーバーの効果です。一口で体力が全快します。この女が口にした量を考えれば、何ら不思議はありません】
そうなのか。
知らなかった。
カロリーバーにそんな効果があったのか。
「あー……。カロリーバーの効果らしい……。結果オーライだな。良かった良かった」
「あの食料にそのような効果が……。凄いです。さすが使徒様です」
「ルシアナさん。その、使徒様と呼ぶのは止めて欲しい。俺は確かに女神クレティアの使徒だが、敬うのはクレティアであって俺じゃ無い。俺は使徒では無くカミーユだ」
「しかし、使徒様は使徒様ですので……」
「頼む。俺はカミーユだ」
「そ、それでは……。カ、カ、カカカカッ、カミーユ様」
か、か、かかかかっ、噛みすぎだ。
彼女は顔を真っ赤にしている。
しかし、此処まで気持ちよく噛まれると清々しい気持ちだ。
「あー。様付けもなしね。俺は君と対等の関係でありたい」
「……。カミーユさん?」
「何故疑問形?」
「何故でしょう?」
「「ふふっ。あははははぁ」」
示し合わせたように同時に笑い出した。
「うん。君には笑顔が似合う」
「カミーユさんも笑顔がステキです」
距離が近くなった気がした。
彼女の笑顔が増えるように気を付けよう。
傷ついた心は元には戻らないと何かで見た。
それなら、此処での生活で上書きしてやれば良い。
「おっ。丁度良かった。俺の親友を紹介するよ」
いつもよりかなり遅く世界樹へとやってきた熊どん。
昨日は熊どん達もテンション上がっていたからな。夜更かしでもしたのだろう。
「ルシアナさん。俺の親友の熊どん」
「……。ルッ、ルシアナです。くっ、熊どんさん。よっ、よっ、よろしく」
あれ? おかしいな。
かなり引きつった顔をしている。
「熊どん。こちらルシアナさん。仲良くしてくれ。みんなにも伝えといてくれよ」
熊どんはルシアナさんに頬ずりしている。
ルシアナさんは固まっていた。
「ルシアナさん。熊どんは見た目は怖いけど凄く良い奴なんだよ。衝撃的な出会いだったけど」
「私は今衝撃を受けている最中です」
熊どんの事を正しく理解して貰わなければ。
「ルシアナさん。熊どんは良い奴なんだよ。最初の出会いは本当に死ぬかと思ったんだけどね。何せこの世界に来て初めて見た生き物が熊どんでさ。もう敵意むき出し。確実に死ぬかと思ったよ。まあ、石ころ投げたら肩に当たって、熊どんの肩が吹き飛んじゃったんだけどね」
「そっ、そうなんですね。石で……。粉砕? 出来るのかー。あー……」
何故だろう、ルシアナさんが若干引き気味のようだ。
まだ熊どんの優しさや愛らしさが伝わっていないのかな?
「……。という感じで熊どんは本当に良い奴なんですよ。正に男の中の男って感じ」
完璧に伝えきった。
十分以上熊どんについて熱く語ってしまった。
んっ? 熊どん照れるなよ。
俺も照れてしまうだろ。
ルシアナさんは疲れた表情をしていた。
少し話しすぎたか。
「えーっと……。カミーユさん。私は今まで生きてきた常識という物を捨てました。えぇ。きれいさっぱり捨てました」
「しかし、これだけは伝えなければなりません」
どうしたのだろう。
何か思い詰めた顔をしている。
熊どんの事が伝わらなかったのか?
「熊どんさんは……。熊どんさんは、メスです」
「なっ……」
そんなバカな。
ヘルピーでさえ知らない事実があるだと?
【いえ、私は最初から知っていましたよ。まさかオスと思っていたのは私も驚きです。と言うか、ドン引きします】
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