第3話 疑似怪獣

 大災害の悪魔カタストローフェ・トイフェル、略称をカタストロイ。

 ソロモン諸島近海から突如現れた有機生命体……は、謎が多く解明されていない事が多い。

 だが、判明している事もある。

 それは……なんらかの理由により、カタストロイの信徒アウスとなった人間を、疑似的なカタストロイに変異させるという事。

 簡易的に、変貌した彼らの事を人々はこう呼んだ。

 疑似怪獣ハイ・カタストロイと。


 ****


 走るユリシーズの背後から、建物が崩れる音がする。巨大化により、建物が形状を維持できなくなったのだ。瓦礫が落ちて行く音が響く。

 それに構わず、ユリシーズは目的地にたどり着いた。

 そこにあるのは、彼の

 カタストロイに対抗するために生み出された人型機動兵器、マシーネ・エンゲル。通称M.E.。

 白を基調とした機体色に黒いラインが全体に入った、右腕に杭打機ゲベート・ナーゲルを着装したM.E.が主を待つかのように佇んでいる。

 ユリシーズは軽やかな動きで、コマンドを入力し右腕の端末からワイヤーを射出してコックピットの前に降り立つと、ロックを解除し中に乗り込んだ。

 操縦席に座ると、操縦桿を握る。それを合図に、M.E.が起動した。

 動き出すM.E.の中、ユリシーズに向けて音声通信が入る。

 その声は、無機質な女性の声だ。


『ユリシーズ・バーレイ准尉。疑似怪獣ハイ・カタストロイをこちらでも確認しました。これより、標的をロンウェーと命名。標的を速やかに排除して下さい』


「簡単に言ってくれるな……まぁいい。これは俺の仕事だ、果たしてみせるさ」


 疑似怪獣ハイ・カタストロイ、ロンウェーがこちらに向かってくる。すっかり人の原型を失い、メタリックな身体に四足歩行、ドリルのような形状をした尻尾を生やしたその姿は、まさしく怪獣そのものだった。

 ユリシーズは、エルプズュンデのブースターを噴かせると一気に前進し杭打機ゲベート・ナーゲルを構える。


「穿つ……!」


 ロンウェーの腹部に杭打機ゲベート・ナーゲルの先端を打ち付けると、シリンダー部分を回転させ五発のタマを打ち込んで行く。青い体液が、ロンウェーから流れるのを確認すると、一旦先端を抜いて後退し距離を取る。

 唸り声をあげると、ロンウェーが尻尾のドリル部分を回転させ、エルプズュンデめがけて振りかざす。

 ギリギリで避けるが、追尾するかのように迫って来る。

 ユリシーズは、右腰のホルダーから拳銃リートゥス・ピストーレを取り出すと、ドリルに向かって特製の弾丸を放ち、牽制しながらなおも後退し距離を取る。


「このままじゃじり貧だな。あれを出すか……音声入力……OK……座標指定クリア。到着まで残り三十秒か」


 牽制を止めると、ホルダーに拳銃リートゥス・ピストーレを戻し、再度ブースターを噴かせて杭打機ゲベート・ナーゲルをドリルに打ち込む。回転を防がれたドリルからまたしても青い体液が漏れ出る。

 その時、ドリルから重さが少し消えた事に気づいたユリシーズは、先端を抜き取ればドリル部分が地面に落下した。視線を向ければ、切り離したのだろう……ロンウェーの尻尾の先端に新たなドリルがあった。


「ちぃ! トカゲの尻尾切りじゃあるまいに……っとぉ!?」


 新たに生えたドリルが回転し、青い光線を放ってきたのだ。間一髪でかわすと、ユリシーズは、ビルの隙間を利用して、攻撃を避けて行く。

 一進一退の戦いに終止符の一手が来るまで――後五秒。

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