05

「テテテン、グレンはグレーガンになった」

「銃みたいにするのはやめてやれ、というかグレンももう少しぐらいは抵抗しよう」


 変形状態はやめさせて床に下ろすように言ってもグレンは佐竹に対して体を擦りつけたりするだけだった。

 自慢ではないが一人のときは俺のところにばかり来るグレンも佐竹がいるところでは負けてしまうらしい。

 いい匂いがするからだろうか? アヤラとは違った魅力を感じるのかもしれない。


「もう十一月も半分すぎたね」

「早いよな、だがまだ四月まで長いから少しアレだ」

「でも、四月になったら入谷先輩はいなくなっちゃうよ?」

「それも悪い理由からじゃないからな、見送ってやるだけだよ」


 ではない、なんで俺も彼女を家に上げているのか。

 グレンが目的なのははっきりとわかっているがそれでも玄関まで連れていってそこまでにしてもらうとか色々あるだろうに。

 しかも話を聞いた後でこれは性悪というか……誘ったわけではないにしても先輩からすればイメージはよくないだろう。


「もう佐竹は帰らないとな」

「確かにもう十八時になりそうだもんね」

「あ、だが……もう薄暗いし一人だと危ないから送るよ」


 これは……仕方がないよな。

 だってどんなきっかけからであれ家まで連れてきたんだから仕方がない。


「いいの? それならお願いしようかな」

「おう、いくか」


 途中、特に理由もなく歩いていた平良を回収して佐竹家まで送った。

 それで二人きりになった途端に軽くでも肘で突いてきて「やるねえ」と言ってきたから首を振る。


「平良が無理じゃないならいてくれるとありがたいんだがな」


 なんて、言っておいてあれだがそれは自分勝手だよなあ。

 異性だからこそごちゃごちゃ考える羽目になる、なんで俺達は同性ではなかったのか。

 それに嫌でもないのに来たがっている相手にいやと断ろうとするのも地味にダメージが蓄積するからな。


「最近は暇しているからいいよ?」

「ん?」

「だからさ、最近は特に予定もないからいいよ? 光だけが何回も修也のお家にいってグレン達と仲良くなるのもずるいし」

「いいのか……? それなら頼むわ。だって佐竹とはほら……」

「あーそれでも気になってしまったのなら関係ないと思うけどね」


 や、やめてほしい、それは悪魔の囁きだ。

 あとなにかがあったときに攻撃されるのはこちらだから言えることだろう。


「なら修也が私のことを好きだったとしてさ、同性でも関係なく光が私のことを好きだということを知っていたら諦めるの?」

「それを先に聞いている状態だったらそうだな、だから入谷先輩と佐竹に関することだって同じだよ」


 というかよく自分のことを出せたな。


「つまらないね」

「でも、仲が悪くなってしまうよりはいいだろ?」

「そうかな、変な遠慮をしていたことがわかったらそれで揉めそうだけど」


 表に出やすくてもそこはなんとか隠していくしかない。

 理想は十年ぐらいか、そこまで友達でいられているかどうかは誰にもわからないがバレるとしてもそこらへんがいい。


「修也がつまらないから帰る」

「おう、だから平良の家の方に歩いてきたわけだからな」


 一人で走り去ったりしなかったからよかった。

 ちゃんと家まで送って一人で歩いていたら『修也の馬鹿』とわざわざアプリを使用して送られてきて苦笑することしかできなかったが。

 元々わかっていたことだが改めて実感したことで来なくなると考えていた自分、それでも翌日も変わっていなくて不思議だった。


「平良、俺を変えようとしているのか?」

「え? ああ……昨日みたいなところは変えようとしているかな」

「んーだけど横取りする人間にはなりたくないぞ、だったら取られた方がいい」


 誰かに攻撃をされない毎日の方がいいに決まっている。

 生きていればなにかしらいいこともあるだろうしまあ……一生恋人なんてものはできないままかもしれないが趣味とかを見つければいいんだ。


「それやめて、大事なのは自分と相手の気持ちでしょ?」

「まあ、それは否定できないな」

「でしょ。だから修也には一生懸命になってほしい、〇〇が気に入っているから好きだけどやめるなんてことをしてほしくないんだよ」

「それこそ平良は?」


 彼女こそ他の誰かを理由に抑え込んでいそうだから引き出しておかなければならない。


「わ、私っ?」

「なんでそこで慌てるんだ? 俺が言いたいのは平良も朝こそこそ会いにいっている相手に対してどうなのかって話だよ」

「はぁ……そもそも私、朝に人に会いにいっているとは一回も言っていないけど」


 そう、毎回「いってきます」としか言わないからずっとわからないままでいた、だがいまならいちいち聞かなくても答えてくれそうな気がする。


「それはそうだな、だがそれぐらいしか考え付かないからさ」

「……グレンとアヤラを見にいっていただけなんだけど」


 多少はそういう日もあったかもしれないが……。


「それだと最近の説明がつかなくないか?」 

「最近は修也のところにばっかりいっていると思うけど」

「まだ本当のことを答えてもらえるほどは仲良くなれていないのか」


 でもまあ、現時点でどれぐらいなのかを本人の行動、発言で知ることができたのは大きい、一人でごちゃごちゃ考えたところで独り相撲にしかならない。

 とはいえ、このままのペースで本当に大丈夫なのかと不安になるときはやはりある。

 付き合えなくても友達とは仲良くがこんなにも難しいとはな。


「本当だけど、見てよこれ」

「えっと……せ、千枚っ? どれだけ撮っているんだよ」

「いや流石にグレンとアヤラの写真は五百枚ぐらいしかないからね?」


 五百枚て……あと平良はグレン派か。

 

「ほら日付を見てよ」

「家に来る前の写真ばかりだな」

「でしょ? というかさ、誰かとこそこそ会って仲を深めていたのならこうして修也と仲良くするのって不味くない? どうせ修也だって男の人と会っているみたいに考えていたんでしょ?」

「あ、ああ」


 いやだってこれは仕方がないだろ、相手は女子だなんて考えにはならない。


「はぁ、そもそも男の人と仲良くしているならいちいち毎日いくことを言うなんて意地悪な子みたいじゃん」

「そうか」

「修也の馬鹿」

「悪かった」


 お互いに喋らなくなって変な雰囲気になりかけたところで「おはよー」と佐竹が来てくれて助かった……ようなそうではないようなという流れになった。


「二人で見つめ合ってなにを話していたの?」

「私が男の人と仲良くしていたわけじゃないって教えたんだよ」

「うげ」

「え、なに?」


 俺も気になる、なんでいまそんな反応をするのか。


「……実は杏花関連のことで嘘をついちゃったからさ」

「あっ、光のせいで修也に誤解されていたってこと!?」

「それがどうかはわからないけど男の子と仲良くしているって、うん」


 ああ、そういえばそんなことを言っていたな。

 別にそれとは関係なく男の人と会っていると考えていたからそのことは既に忘れていた。

 やっぱり誰かと仲良くしていようと自然だからはっきりしてからもなにか変わったりはしない、気になる人がいないから平良に対して頑張ろうとかもない。

 少なくとも現時点ではそう答えるしかなかった。


「こら!」

「ひゃー!」


 楽しそうでいいね……。


「はぁ……本当に酷い子だよ、自分のことについて嘘をつくならまだわかるけどそんなことを言うなんて――待って、私が誰かを気にしていれば修也は好きになっても自分ルールで手を出さないわけだから……つまり光にとってその方が好都合だったということ? もしかして光って修也のことが――」

「勝手に変な風に想像してやるなよ」

「でも、なんでそんな嘘をつく必要があるの? 相手を困らせて喜ぶ子じゃないんだよ?」

「なんでだろうな」


 佐竹とも昔から一緒にいて仲を深めた状態だったらまあ絶対にゼロということもないだろうがそうではないんだ。

 あとは無駄に振られたくないから言葉を重ねていく、正直今回のこれも彼女が俺に意地悪をしようとしているようにしか思えない。


「それはねー私が杏花のことをー」

「真面目に喋って」

「……いや別に杏花のことを困らせたかったわけじゃないし三上君を困らせたかったわけじゃなかったけどあの日はなんか急にそう言いたくなったんだよ、入谷先輩がいたからかな?」

「「あ」」

「え? なにが『あ』なの?」


 自覚すると動くことが難しくなるタイプもいそうだからわからないままの方がいいのかもしれない、それにこういうのは自分で気づいてこそだろうということで返すことはしなかった。


「アヤラにまた攻撃されたりしていない?」

「いや、いまも一回触れてくるのは変わらないな」

「こんな感じだよね、痛くはないけど毎回される。だから私はその理由がわかるまで通い続けると決めたんだよ」


 おいおい、平良も急にどうした。

 

「あ、そのときは佐竹とか入谷先輩がいてくれればいいな」

「なんで? だって昨日は光単体でお家に上げたでしょ?」


 その顔はずるいだろ……。

 困ってどう対応したものかと固まっていたら「なんか二人が怪しいね」とにやにやとやらしい笑みを浮かべた佐竹が追加攻撃をしてくれた。


「なんかさー杏花さんって私が三上君のところにいくようになってから三上君に一生懸命になっていない? まあ、連れていってくれたのも杏花さんだけどー」

「お友達だからね」

「ふーん? ふふふ、怪しいですなあ」

「光、何回もふざけるのは危険だよ」


 うん、滅茶苦茶顔が怖いからここらあたりでやめておいてもらいたいところだ。

 こういうときはこっちにも飛んでくる可能性大だから離れておくぐらいがいいかもしれない。

 でも、すぐに「三上君杏花が怖いよ~」と引き続きふざけて巻き込んできたから逃げることはできなかった。


「待て待て、くっつくなくっつくな」

「うんまあ、これ以上は杏花が可哀想だからやめておくよ」


 切り替えてゆっくりしようとしたときに攻撃されることもなくそこそこ平和に終わった。

 ただ顔は怖いままだったから今日はグレン達に触れてもらうことでなんとかするしかなかった。




「あ、これ可愛い」

「買ってやろうか?」

「え、な、なんで修也が?」


 しまった、最近はよくグレン達にご褒美を買っていたせいでその調子で口にしてしまった。

 イケメンの男子に言われたら嬉しいだけであってそうではない人間から言われても……なあ。


「……世話になっているから、だな」


 それでも聞かれたからには答えなければいけないから……これは仕方がないはずだ。


「本当にいいの?」

「い、いいのか?」

「え、はは、修也がそうやって聞くのはおかしいでしょ」

「いやほら……ちょっと勘違いしているみたいで気持ちが悪いだろ?」

「驚いただけでそんなことはないけどなーそれにラッキー……と汚い自分が現れました」


 くぅ、本当は気持ちが悪く感じていても表には出さないところが流石だ。

 でも、やっぱり普段は抑え込んでいそうで不安になるタイプでもある。

 徹底しているからどうすれば吐いてくれるのかを今度こそ真剣に考えなければならない。


「なら買ってくるわ」

「う、うん」


 千円未満だったことも悪い方? に繋がった。

 少し前までの俺なら絶対にこんなことはしていなかったことは確かだ。


「はい」

「ありがとう」

「もう少し見て回るか?」

「ううん、もういいよ――あ、これを買ってもらったからじゃないよ?」

「はは、いいんだよそんなことは言わなくて」


 少し歩いてきているから店の中を回った時間と帰る時間を合わせれば丁度いいぐらいになる。

 想定外のようでそうではなかったことは家のところで帰らずに付いてきたことだ。

 奢らせてしまったから気にしているんだろうか。


「グレン達がちょっと羨ましいなあ」

「平良にも休みたくなるときがあるってことか」

「それは人でも動物でも誰でもそうじゃない?」

「だな、俺だってそうだ」


 積極的に外出しておいて矛盾しているが本当に苦手だからな。

 ただ今年は本当に猫パワーや人パワーが強くてほとんど気にせずにいられている。

 ただこれは最初に言ったようにそういうパワーがなくたって、ただただ寒さに弱っていたって通うしかないんだからあくまで普通の状態でしかないんだ。


「はあ~私もごろごろしようかな~」

「それなら家まで送るよ、というか上げている時点で矛盾しているからやばいんだよ」

「あ、ふふ、いまは入谷先輩も光もいないよ? というかあれは改めて聞くけど私が異性だからだよね?」

「そうだ」

「でも、これまでも上がったり上がらせてもらったりしていたからよくわからないな」


 実際、そんなことを考えつつ繰り返しているんだから学習能力がないとか以前に守る気がないのかもしれない。

 何回も断ることでそもそも一緒にいられる可能性がなくなることに恐れて欲望に正直になった結果かもしれない。


「男なんか単純なんだ、気を付けてくれ」

「はははっ、真顔で言うことじゃないでしょっ」

「まあ……頼むわ、グレンなら外まで連れていってやるからさ」

「んーだけどそれはグレンが望んでいるとき以外はストレスになっちゃうからね、中なら自分から来てくれるからいいんだよね」


 あとグレンはお客が来たときの対応が完璧すぎた。

 これでこちらに飽きたかと思えばそうではないからこちらに対するそれも上手かった。


「なら玄関、そこまででどうだ?」

「嫌だ、お家で遊ぶぐらい気にしなくていいよ、気を付けるとしても相手に気になる異性ができてからでいいでしょ?」


 いやだって簡単に上げられるようになったら今度は本命ができたときにダメージが出てきそうだろ……。

 結局、またまた彼女にとってはなにも影響がないから言えることでしかなかった。

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