第27話
「ご、ごめんって、な? リーヴァ。頼むから、そろそろ機嫌を直してくれよ」
人には触れちゃいけないものが1つくらいあるものだということは理解しているが、リーヴァにとってはかなりデリケートな部分だったみたいで、もう宿の前まで帰ってきたというのに、あれからリーヴァはずっと口を開いてくれなかった。
「……シフルは、誰かと妄想とか、したの」
「え? お、俺はリーヴァ……ぁ、い、いや、なんでもない。誰ともそんな妄想してないよ」
危ない。
危うくリーヴァの真っ赤になった顔を見てそれどころじゃなかった……みたいなことを言ってしまうところだった。
どう考えても火に油を注ぐようなものだし、自分のことながらによく踏みとどまったと思う。
「ッッッ……ふ、ふーん。し、シフルは私で──そ、それなら、ほ、ほんとにしてあげたって──」
「あ、宿についたな」
「…………」
良かった。宿につく頃にはリーヴァの怒りも収まってくれたっぽいから、助か──
「な、なんで殴るんだよ」
──たと思ったのも束の間。またポカポカと俺が痛くないように手加減をしてくれつつも殴ってくるリーヴァ。
「……ばか、ばか、ばか!」
「ご、ごめん」
さっきのことをまだ怒っているのか、それとも何か別の理由でまた怒らせてしまったのかは分からないけど、俺は言い訳することなく、直ぐに謝った。
「……こ、ここで止まってたら目立つから、宿の中に入ろう、な?」
「……せっかく、私が──スしてあげようと思ったのに。……ほんと、ばか」
「ご、ごめん」
声が小さくて肝心のところが聞き取れないけど、もう一度俺は素直に謝った。
「…………でも、また今度なら、してあげるから。今日はシフルがチャンスを逃したんだから。後悔して」
「えっと……あ、ありがとう?」
俺は何かのチャンスを逃していたらしい。
それが何なのかを聞ける雰囲気じゃないし、俺は分からないながらもお礼を言った。
「……ぅん。早く、戻ろ」
今度こそ、許されたっぽかった。
……この失敗を活かして、リーヴァの地雷はこれ以上踏まないように気をつけよう。
そう思いつつ、リーヴァと一緒に俺は宿の借りている部屋の中に戻った。
その瞬間、リーヴァと繋いでいた手がやっと離れた。
ずっと繋いでたから当たり前なんだけど、流石に手汗が気持ち悪いな。
リーヴァのか俺のか……多分どっちもかな。
いくらリーヴァでも、手汗くらい掻くだろうし。
そんなことを思いつつ手汗をズボンで拭いた……ところで、リーヴァがこっちを見てきていることに気がついた。
「り、リーヴァと手を繋いでたのが嫌だったから、拭いてるわけじゃないぞ? 手汗を掻いてたからさ」
「……シフルが私と手を繋ぐのを嫌がるわけないことくらい分かってる」
……事実なんだけど、リーヴァの口から堂々とそんなことを言われると、なんか……恥ずかしいな。
「そ、そうか」
「あ、あー、リーヴァは手、拭かないのか? 俺の手汗で汚しちゃっただろ」
小っ恥ずかしい気持ちを誤魔化すように俺はそう言った。
「…………はい、これ、お昼。食べたかったんでしょ。……一緒に、食べよ」
無視されてしまった……ことはリーヴァの出してくれたまた俺の知らない料理の匂いのおかげで直ぐに忘れて、俺のお腹の音だけがその場に響いた。
「そ、そうだな。た、食べるか」
小っ恥ずかしいというか、最早普通に恥ずかしい気持ちを誤魔化すように、俺はそう言って机の前に座った。
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