第95話 最終手段
大空を駆ける巨大なドラゴン……それを上回る大きさを持つ鳥のような怪物。目がギョロギョロと6個ついており、どう見ても顔は2つ、首の部分から枝分かれしてどちらもこちらを向いている。極彩色の身体はこの世の生き物ではない雰囲気を醸し出し、漏れ出ている息はパチパチと弾けるような音がしている。
大怪獣だってもう少しかわいい顔をしていそうなものだが、ギョロギョロと頻りに動く12個の目は紫色で気色悪い。不意に、全ての瞳がこちらを捉えた。
「回避しろ!」
「私はお前のペットではない!」
俺だってこんなじゃじゃ馬なペットを飼った覚えはない。俺が飼っているペットは今も家を守ってくれているグレイだけだ。
メイが回避行動を行った直後に、2つの首から放たれた赤と青の煙のようなブレスが横を通り過ぎていった。パチパチ音が鳴っているから雷のビームでも吐いてくるかと思ったが、これならメイのブレスの方が驚異的だな。なんて考えていたら……赤と青の煙が混ざった瞬間に、空中でとんでもない大爆発が起きた。
「……どういう理屈か全く理解できないけど、青の煙と赤の煙が混ざると爆発するらしいな」
「こんな生物、いていい訳ないだろ」
口からとんでもない爆薬を吐いてるようなもんだぞ。
気色の悪い金切り声のような奇声を発しながら、怪鳥は空を舞っていた。2つの首からどんどんと煙を吐いていくのだが、混ざり合うことなくそのまま風に揺られるようにしながら空中で停滞している。メイが青色の煙が残っている場所の横を通り過ぎた瞬間に、新たに放たれた赤の煙が接触して大爆発を起こす。
「空中に設置技とか卑怯な奴だな」
「ふん……この程度は簡単に避けられる。それより、さっきから連中が襲ってこないぞ」
メイに言われて周囲を見渡すと、確かに異界の侵略者たちが全員あの怪鳥を遠巻きにしながら地上へと降下しているのが見える。あの怪鳥の攻撃に巻き込まれたくないからなのか……それとも制御できていないからなのか。
「ここ、任せていいか?」
「誰にものを言っている……私はメイラレンティールだぞ?」
「長いからメイで」
「不敬だぞ!」
今は俺が神様みたいなもんだから不敬なのはメイの方なんだよな。
メイからの抗議を無視して背中から飛び降りる。
「
「ちょっと手荒くなるぞ」
空中に飛び出した瞬間に四方八方から魔力の弾丸を放たれたので、身体を覆うように黄金の球体を生み出して全てを防御しながら、球体の外側から周囲全てに向かって黄金の針を飛ばす。針と言っても大きさは人間の身体ぐらいはあるものなので、直撃すれば異界の兵士と言えども無事ではすまないだろう。
こうして黄金を無限に生み出して操れる能力を使っている訳だが……割と魔力の消費が厳しい。元々他人より魔力量が多い方だし、黄金の概念を取り込んでからは身体が作り変えられたかのように更に強くなったことで魔力量も増えているのだが……それでもこれだけの軍勢を相手に無限に戦い続けることは不可能だ。それでもなんとか戦えているのは、仲間がいてくれるからだろう。
最初は俺が1人で戦って、指揮官を殺して敵を撤退させようと思っていたんだが……これだけの敵を倒してもまだ敵の指揮官が姿を現す様子がない所を見るに、実に無謀な作戦だったと思える。
地上に降りった俺は即座に黄金を大量に展開してニクス、マリー、アルメリアを包み込んで守る。メイと共に空を駆けている間、ずっと頑張っていたから少し休める時間を用意してやった方がいいだろうと思ってのことだが、どうやら俺の予想以上にアルメリアとマリーは限界が近かったらしい。
膝をついてそのまま立ち上がれなくなっているマリーと、呆然とした表情で荒い息を整えようとしているアルメリア……やはり2人の力ではここまでだ。特に、近接の
「上は?」
「なんかよくわからない鳥みたいなのが出てきて暴れてる。メイがなんとかしてくれると信じて……こっちの方を何とかしようと思ったんだが」
「助かる。急に敵が増えてこちらも困っていた」
ニクスの力は強大だ。黄金の概念を取り込んだ俺は相当な力を手にしたと自負しているが、ならばニクスを完封できるかと言われたら無理だと断言できるぐらいの力を持っている。
「あの2人を呼ぶことはできないのか?」
「あいつらは私が表に出ている間の隙間を任せている。あちらに入り込まれたら終わりだからな」
「なら時間停止とかでパーッと何とかなったりしないのか?」
「それは少し前からやっている。だが駆除が追い付かない」
あ、やってたのか……そりゃあ、普通に考えたら時間が停止させられたことに気が付ける方がおかしいよな。
「私は火力が低いからな。あれだけの物力で押し寄せられると少し困ってしまうのが現状だ」
「そうなんだ……なら、どうする?」
「どうもこうも……やはり戦力が無ければ話にならない」
ニクスがちらりと疲労困憊の2人に視線を向けた。既に限界だと目で訴えているのだろうが、確かに言わんとしていることはわかる。実際、俺も2人は既に限界だと思うから即座に
少し考え込んでいたら、外から黄金に向かって強い衝撃をぶつけられた。黄金で包んだだけのこのドームは別に無敵の防御壁ではない。このまま数分もじっとしていれば簡単に破られてしまうだろう。
「どうする!?」
「……仕方あるまい。最終手段だ」
「本気か?」
「それ以外に方法はない!」
ニクスの言う最終手段とは……つまり、神々を復活させるってことだ。
俺が止める間もなく、ニクスは世界の隙間に手を突っ込み……何かを変えた。かちりと言う音と共に世界が変わり、同時に周囲を覆っていた黄金に罅が入る。
「あークソっ! 文句は後で聞くから!」
「えっ!? ヘンリーさん!?」
「嘘っ!? 待ってヘンリー!」
2人の腕を掴んで
そのまま2人を放り込んでから、周囲を覆っていた黄金のドームを解除して、その質量をそのまま波として敵を押し流す。
「やるぞ!」
「待て、もう少し時間がかかる!」
「俺1人かよ!」
くそったれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます