第8話 地下通路

意識が戻ったとき、俺は薄暗い地下室の床に横たわっていた。

目の前には石壁と木製のドアが見える。



ゆっくりと身体を起こし、頭を振って意識をはっきりさせた。

グレンがいないことに気づき、辺りを見回すと

見知らぬ人がこちらを見つめていた。


「誰?」

「安心してください。私はグレンさんに頼まれて、あなたをここまで運んできたんです」

「!」


その男は静かに答えた。


「名前はカインです。ここは安全です」

「グレンさんは……?」


カインは一瞬、目を伏せた。


「彼は戻って戦っています。私にあなたを守るよう頼んでいました」

「何だって!?私も戻らなきゃ……!」


カインは肩をつかんで制した。

「今行っても無駄です! あなたはまだ力が足りません」


「でも、街の人たちが……」

「グレンさんも同じことを言っていました。 彼はあなたが成長するまでの時間を稼ぐために、命を賭けています」


その言葉を聞いて、俺は唇を噛み締めた。

何もできない無力感が胸に押し寄せる。


それでも、今はカインの言う通り、もっと力をつけるしかない。


「わかった。もっと訓練するよ」


「いいえ。あなたはこれ以上訓練する必要などありません」

「え?」

「グレンさん言ってなかったですか? あなたの戦闘456ですから、充分なのです」



そう言えば……



「そうか、俺は肝心なことを忘れていた。YouTube登録者数を増やさなければならないんだっけ?


「はい」

「だったら、君が俺のチャンネルを登録者になってくれれば」

「いいえ」

「?」




「チャンネル登録者数は自然流入が原則なのです」

「どういうこと?」



「意図的にチャンネル登録するとYouTube規約違反のため、攻撃力には反映されないのです」



「そうなの!?」

「あなたが地道に動画配信を続けていくしかありません」

「なるほど……」

「あなたがチャンネル登録者を増やせれば、強い魔族とも戦えるようになるはずです」

「わかったよ」



「行きましょう。ここも魔族に見つかってしまうかも知れません。街から逃げてきた人たちが先に行っています」

「街の人たち、全員無事なの」

「いいえ。避難できた人はほんのわずかです」




「く……」

それを聞いた瞬間

俺は怒りと悔しさで

胸が引き裂かれそうだった。



「急ぎましょう、優斗さん」


俺たちは少し急いで地下通路を進んだ。


20分ほど進んだところ


「優斗さん、もう少しで出口です」

「ああ」


出口が見えてきた。



出口が見えてきた瞬間、俺の胸にわずかな希望が灯った。


しかし、その希望はすぐに不安に変わった。

出口の先に何が待っているのか全く分からないからだ。



カインの足音を聞きながら

俺は心の中でグレンのことを考えていた。



彼が戦っている間に、俺は何をするべきなのか。


「カイン、この出口の先には何があるんだ?」

「ここから先は、避難している人たちの集まる場所です。 そこに行けば、街の人々と再会できるかもしれません」




「わかった。 でも、俺たちが安全にここを抜け出せる保証はあるのか?」

カインは少しの間、黙っていた。そして、静かに言った。



「保証はありません。 ですが、今の状況ではここに留まるよりも安全です」


その言葉に、俺は頷いた。

確かに、この地下室にずっといるわけにはいかない。


グレンが命を懸けている今、俺も何かしなければならない。

そう思いながら、出口へと向かう足を速めた。


出口を抜けると、薄暗い地下室から一転して

外の明るさが目に飛び込んできた。

周囲を見渡すと、避難してきた人々が集まっていた。


皆、不安そうな表情を浮かべている。中には泣いている子供もいた。


「ここが避難所か……」

「そうです。 ここでしばらくの間、安全を確保するつもりです」


カインはそう言って、避難所の中心にあるテントを指差した。そのテントの周りには、怪我をした人たちが集まり、治療を受けていた。


「優斗さん、ここでしばらく休んでください。私は他の避難者の様子を見てきます」

「わかった。でも、俺も手伝えることがあれば言ってくれ」


「ありがとうございます。その時はお願いします」

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