第3話 キス


「あー。憂鬱だわ」


「だね」


楓の言葉に同意する芹那。


「私達はこんなに嫌なのに、何であんたら二人は楽しそうなの」


楓にジト目で睨まれる。


「別に嫌じゃないから?」


桃花の言葉に二人は信じられないって顔をする。

 

「私も別に嫌じゃないかな。なんなら少し楽しみだけど」


「冗談でしょう!?巴!自分が何を言ってるかわかってる!?」


楓は私の肩に掴みかかる。


「そんなに嫌かな?」


「私も巴と一緒で楽しみだけど。体力テスト。今の自分の実力がわかるし」


「あんたらおかしいわ。普通は嫌よ」


私と桃花の発言に楓は即座に否定する。


「どんなに嫌がっても体力テストからは逃げられないわよ。諦めて行こう」


私は芹那を桃花は楓の腕を引っ張って体育館へと向かう。




「……えー、それでは皆さん。体力テスト頑張ってください」


校長の長い話しが終わり、体育委員の指示に従って移動する。


普通は男女に別れて体力テストをするが、2年だけ女子が多いため、私達のクラスだけ女子クラスだ。


そのため、出席番号前半後半に別れて移動する。


私は前半、三人は後半なので今日一日は別行動だ。


「じゃあ、三人共頑張ってね」


「うん。巴もね」


「後でね」


「ご飯の時間までじゃあね」


三人と別れて、最初に決められた種目の50m走の場所に移動する。


先生の指示に従い種目をしていく。


今の自分の実力が知れて嬉しいからか、あっという間に時間がすぎていき、気づけば4時間目の授業の終わりのチャイムが鳴った。


「チャイムは鳴ったけど途中までやってるから最後までやって終わろう」


反復横跳びは2回やらないといけない。


1回目が終わったところでチャイムが鳴った。


また午後にあと1回のためだけに並ばないといけないのは、みんな嫌だったので誰も文句は言わずに2回目を終えてから教室に戻った。


「お疲れ。遅かったね」


教室に戻ると桃花が最初に気づき声をかけた。


「うん。反復横跳びの1回目でチャイムが鳴ったから、2回目やるまで終わらなかったの」


「ああ。それはどんまい」


楓は私の肩をポンポンと叩く。


「本当だよ。お腹空き過ぎて途中から大変だったのに」


私は鞄から弁当を取り出す。


「想像つくわ。お腹の音鳴らしながらやってる姿」


楓が目の前で爆笑する。


「笑い事じゃないよ。本当に大変だったんだから」


お腹が空き過ぎて途中でお腹が痛くなった。


何でもいいから食べたかったのに、体力テストのせいで教室に戻れなくてどれだけ大変な思いをしたか。


「まぁ、でも腹が満たされれば午後からのは問題ないでしょう」


芹那の言葉に私は自信ありげに「もちろん」と答える。


私のドヤ顔に三人は笑う。


私もつられて笑う。


午後の授業が始まるまでたわいもない話しで笑った。


楽しい時間はあっという間に終わる。


チャイムが鳴り私達は腰を上げ残りの種目を終わらすため、また体育館へと向かう。




体力テストからあっという間に時間が経ち木曜日になった。


今日は図書委員の中で昼休みにじゃんけんに負けた四人が代表として掃除をすることになった。


私は見事に負け、掃除係になった。


いつもならじゃんけんしなくても立候補したが、今日は秋夜と放課後デートする予定だったので気分は最悪だ。


さっさと終わらせて帰ろうと思ったのに、何故か本の整理までしないといけなくなった。


ある程度は先生がやってくれていたみたいだが、四人でやるにはきつい量だ。


私は泣きたくなるのを我慢して作業する手を早める。


少しでも早く終わらせてデートの時間を長く確保するために。


そのとき、後輩の女の子が重い段ボールを運んでいるのが目に入った。


今にも倒れそうな様子に慌てて駆け寄る。


「大丈夫?」


「巴先輩」


「私が運ぶよ。貸して」


「あ、いえ。私が運びます」


後輩の女の子は申し訳なくてそう言ったが、腕は限界でプルプルと震えていた。


「実は私細かい作業は苦手なの。だから代わってくれると嬉しいんだ」


後輩は私が細かい作業を淡々とこなしているのを見ていたので嘘だとすぐに見抜いたが、自分が負担に思わないようそう言っているのだと知り、その気遣いに感謝する。


「ありがとうございます」


「気にしないで。お互いさまじゃん」


私は後輩からダンボールを受け取り、図書室から出て、三つ隣の部屋へと運ぶ。


「お、桜庭が持ってきて……って、それ物凄く本が入って重くないのか?」


教室に入りダンボールを置くと先生が心配そうに尋ねる。


「大丈夫です。こう見えて私は力持ちなんですよ」


力こぶを作ってみせるも、ブレザーのせいで筋肉は見えない。


「そうか。桜庭は頼りになるな」


「でしょう。残りも運びますね」


「ああ。頼んだぞ」


そう言われ教室を出ようとしたら誰かにぶつかった。


「あ、すみません」


ぶつかった人に謝る。


誰かと思い後ろを向くとそこにいたのは茜と秋夜と同じグループで学校のモテ男ランキングトップ3に入る藤堂蓮(とうどうれん)だった。


ゲッ。


私は最悪だと思った。


藤堂蓮


私はこいつが苦手だ。


「藤堂。お前も運んでくれてるのか」


「はい」


「そうか。二人なら早く終わるな。頼んだぞ。俺は今から部活に顔出すから終わったら鍵を閉めてくれ」


先生は鍵を私に渡し、そのまま部活へと行った。


手伝ってはくれないんだな、と思いながら私達は先生の背中を見送った。


「……」

「……」


暫くお互いに見つめ合っていた。


気まずくて早くこの部屋から出ていきたかったのに金縛りにあったみたいに動けなくなった。


彼もそうだったのだろうが、先にそれから抜け出し口を開いた。


「なぁ、これってどこに置けばいいんだ?」


藤堂はダンボールを少し上げる。


「ああ。奥の扉の……開けるよ」


ダンボールを持ったままあげるのは無理だ。


ダンボールを置けば問題ないが、一々置いて持ち上げての動作は面倒くさい。


私もさっき先生に開けてもらったし。


そう思い、私は奥の扉を開けた。


「どうも」


その会話を最後に私達は黙々とダンボールを運んだ。


気まずい空気が流れたが、作業しているからと一応言い訳できるのが救いだった。


「終わった」


全てのダンボールを運び終わり達成感がでた。


「じゃあ、鍵返してくるから先に帰っていいよ」


気まずくて私はそう言ったのだが「俺も行く」と言われ何故か二人で職員室に向かった。



「失礼しました」


「おお。ご苦労様」


鍵を返しに行くと丁度教頭先生がいた。


頭を軽く下げてから職員室をでる。


職員室を出ても私達の間に会話はなかった。


ただ、教室に戻るには同じ道を通っていくしかないため一緒に向かう。


私は7組。彼は2組。


それに私のいる7組は女子だけのクラスのせいか、一番奥の教室で例年とは少し違ったところにあるが2組を通らないと7組にまでは辿り着かない。


嫌だが我慢するしかない。


どうせあと少しの辛抱だからとそう言い聞かせて教室に向かうが、少し前を歩いていた藤堂が急に立ち止まり驚いた表情をして固まった。


一体何を見たんだ?


そう思って彼の視線を辿ると自分の喉からヒュッと音がしたのが聞こえた。


藤堂は慌てて私の腕を引っ張り、その場から連れ去ってくれるが遅い。


見てしまった。


1組の教室で彼氏の秋夜と幼馴染の茜が抱き合っていたのを。


そしてそのまま流れるようにお互いが顔を寄せ合いキスしたのを!

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