第7話 忘れ物の謎
中村咲が「モーニング・ハーモニー」の扉を開けると、早朝の静寂が迎えてくれた。昨日の特別イベント「サンデーブランチ」は大成功だった。咲はその余韻に浸りながらも、新しい一日を迎える準備に取りかかった。
カフェの中を整え、焼きたてのパンをカウンターに並べていると、石田誠がいつものように入ってきた。「おはようございます、中村さん。今日はまた特別な一日ですね。」
「おはようございます、石田さん。昨日のイベント、本当にありがとうございました。お手伝いしていただいて助かりました。」咲は微笑んで答えた。
「こちらこそ、楽しい時間を過ごさせていただきました。また何かあれば声をかけてください。」石田は席に着き、コーヒーを注文した。
すると、カウンターの端に置かれた小さな袋に気づいた。咲が手に取ってみると、それは昨日のお客さんの忘れ物だった。中にはノートとペン、そして小さなアクセサリーが入っていた。
「これは昨日のお客さんのものですね。誰のか分かりますか?」石田が尋ねた。
「いえ、誰が置いていったのか覚えていないんです。お客さんが多くて、気づかなかったんです。」咲は困惑しながら答えた。
そのとき、山本美咲が子供たちを連れてカフェに入ってきた。「おはようございます、中村さん。何かあったんですか?」
「おはようございます、美咲さん。実は、昨日のお客さんの忘れ物があって、誰のか分からないんです。」咲は袋を見せながら説明した。
「それは困りましたね。でも、きっと誰かが取りに戻ってくるでしょう。しばらくここに置いておけばいいんじゃないですか?」美咲は提案した。
咲は頷き、忘れ物をカウンターの目立つ場所に置いておくことにした。カフェの中は、次々と訪れるお客さんたちで賑わいを見せ始めた。
その中に、小林悠も入ってきた。「おはようございます、皆さん。今日は少し執筆を進めたいと思って来ました。」
「おはようございます、小林さん。昨日のイベント、楽しんでいただけましたか?」咲が尋ねた。
「ええ、とても楽しかったです。そして、今日は新しいアイデアが浮かんでいるので、それを書き留めたいと思います。」小林は微笑みながら答えた。
時間が経つにつれ、忘れ物のことは少しずつ気にならなくなっていた。しかし、昼過ぎにカフェに入ってきた若い女性が、その袋を見て驚いた表情を見せた。
「すみません、それは私のものです。昨日ここに忘れてしまったみたいで…」その女性は恥ずかしそうに言った。
「そうでしたか、良かったです。見つかって安心しました。」咲は微笑んで袋を手渡した。
女性は深くお辞儀をして感謝の言葉を述べた。「本当にありがとうございました。このノートには大切なメモが入っていて、なくしたら困っていました。」
「見つかって本当に良かったです。これからも気軽に立ち寄ってくださいね。」咲は優しく言った。
女性はカフェを後にし、咲は再びカウンターの裏に戻った。石田が微笑んで、「忘れ物が見つかって良かったですね。」と声をかけた。
「ええ、皆さんの協力のおかげです。」咲は満足げに答えた。
小林はそのやり取りを見守りながらノートにペンを走らせていた。「こういう日常の小さな出来事が、物語の中で生きてくるんですよね。」
咲はその言葉に微笑み返した。彼女のカフェ「モーニング・ハーモニー」は、人々の日常の中で、小さな奇跡を起こす場所であり続ける。それが、咲の心からの願いだった。
外の街が少しずつ賑やかさを増す中で、咲は今日もまた新しい出会いに期待しながら、カフェの扉を見つめた。
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