羽を毮る

シト

羽を毮る

プロローグは三人で

プロローグ ――天羽創来――

 ――それは秋のある日。

 大学のホール。

 その控え室で俺は目を開けた。


 目の前には戦友がいる。

 俺達は駄目だった。落ちこぼれだった。


 それでも、なんとかしがみついてきた。自分たちにはそれしか無かったから。ピアノが本当は好きだったから。


 一度は手放してしまったものを、無理矢理繋ぎ止めてくれていた人がいる。尤も、そいつは完全に自分の為にやったが。

 俺はそいつの為に今、音を奏でている。


 俺はそこそこ有名になったかもしれない。

 それでも、あいつを見つけられない。

 ならもっと有名になるしかない。それこそ、あいつを俺の目の前に引き摺り出すくらいに。


 舞台袖から俺達は出る。

 明るい世界へ、羽ばたこうとしている。


 ステージの中央には黒く光るグランドピアノが二台。これは俺と戦友の為だ。

 そう、これは俺達の為の演奏会。


 俺は客席に視線を向ける。

 今に見てろ。


 俺はお前を見つけ出す。

 俺はピアノの力で、無理矢理ピアノと俺を繋ぎ止めたお前を俺の前に引き摺り出してやる。


 俺はもう、あの頃の俺じゃない。

 今なら、俺はお前に俺のピアノを聴かせてやれる。


 あんな演奏で満足させてやるもんか。





 ――――俺は俺を見せる為に、ピアノを弾く。お前はいつまで隠れているんだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る