第5話(上)いよいよ出発ですが


「じゃあ、私はこの人と一緒にアラーナ国に?」


 アリシアの顔にはきっとうれしさがほとばしっていたのだろう。


 聖女はやめれるしいきなりこんな見目麗しい男性とも知り合えるなんてと。


 「アリシア。聖女がそんなはしたない顔をするもんじゃない。それに今はっきりわかったが、バルガン君の父はロッドリー・バルガン子爵。母はホワティエ家の血を引くグロリアだ」


 「はい、両親をご存知で?」


 「ああ、君は本当の事を知らされてはいないのか?」


 「何のことでしょう?」


 ヴィルがいぶかしい顔をする。


 「君とアリシアは双子の兄妹になるんだ。バルガン君の本当の父親はこの国の国王ルキウス・デヴィアヌス。母親は元ペルシス国の王妃だったマデリーンなんだ。訳あって君は養子に出された。バルガン子爵の元にな。こんな形で再会することになろうとはなぁ…」


 「でも、双子なんて…髪の色も瞳の色だって違うじゃありませんか!」


 いきなりそんな事を聞けば誰でも狼狽える。


 「ああ、中にはそう言う双子もいるんだ。男と女。顔も髪色も違うって言う双子が…それに君はこの国の王家の人間と言う事にもなる。だが、王妃は君の存在さえ知らないしアリシアも毛嫌いしているんだ。この国の王太子は正妃の生んだリチャード様と言う事になる。もちろん王女はソフィア様のみ。それは心得ておくようにアリシアにもそのことは充分に話してあるから、そうしなければどんな災いが起きるかもわからない。この事は絶対に他の人間にさられてはならない。いいな」


 「チッ!アリシア。君はそれでいいのか?」


 ヴィルは信じれないというような顔で不満そうに聞いた。


 アリシアだって驚いている。ヴィルフリートが兄だなんて…


 「私は王家には関わりたくないから、それでいいわ。でも、あなたが私の兄になるって事…うそみたい。信じれないけど。大司教その話ってほんとなんですか?」


 「ああ、私はマデリーンのお産時には私は隣の部屋で付き添っていた。マデリーンが産んだばかりの双子を見たから確かだ。そう言えばヴィルフリート君と呼ばせてもらっても?」


 大司教がヴィルフリートに聞く。


 「えっ?ああ、どうぞ」


 ヴィルフリートもまだ信じれないのだろう。頭がついて行かないって顔で。


 「君にはその…不思議な力とかは?魔力はあるのか?」


 「俺にはそんなものはありません。今までごく普通の暮らしをして来ただけで…」


 「そうか。まあ、母親が聖女だからって男は違うのかもしれんしな。でも二人が兄妹と分かれば心強いだろう。とにかく急いでこの問題を解決するために頼んだぞ」


 「アリシアとか言ったな。お前どうするんだ?引き受けるのか?」


 「そりゃもちろん。これは国いえ大陸を救うためですから、さすがに嫌とは言えないですよ。それにマイヤは具合が悪いだけかと思っていたのに意識が戻らないって聞いたし、フィジェル宰相なんかマイヤの心配より魔狼が逃げ出した原因を事故だって言い逃れする事ばっかりだし。あの人、人をいつも見下してるような人だから人に弱みを握られるのはいやなのよ。私が本当のことを言ってやろうかしら…」


 「アリシア言い過ぎだぞ。宰相にも立場って言うものがあるんだ。あれは事故だ。アリシアわかってるんだろうな」


 ガイルがそろそろ口を閉じろと声を荒げた。


 「でも、大司教だってフィジェルの事嫌ってましたよね?」


 おいおい呼び捨てかよと思うがあの人は嫌いなんだから仕方がない。だってそもそもこうなったのは…フィジェルがマイヤを聖女にしたからで。


 「問題はそんな事じゃ済まない。聖女をやらせたのも間違っていた。その責任を追及されてみろ。私の立場がどうなると思ってる?アリシアお前にだってお前がしっかりマイヤに指導していればこんな事には…」


 「そんな、ひどいですよ。私の責任じゃありませんから。でも、とにかくこの仕事は引き受けます。もちろん大司教のためじゃありませんから。国のためです。それに聖女辞めることは約束ですからね大司教」


 アリシアは大司教に確認を取るように彼を見た。


 ガイルはやれやれと言うような顔で頷いた。


 「まあ、そういう事でヴィルフリートさん。どうかよろしくお願いします。でも、いきなりお兄さんとは思えないかもしれませんけど」


 「ああ、それは俺も同感だ。でも、俺にも家族がいたのかと思うと…あれ?俺何か忘れてる気がするけど…まあ、とにかくアリシア一緒に頑張ろうな」


 「まあ、とにかくわたし。聖女はやめるつもりなのでこれを初仕事と思って頑張るつもりですので…そうですよね大司教?」


 アリシアは今一度大司教の顔を見て彼がうなずくのを確認する。


 「なのでヴィルフリートさんどうかよろしくお願いします」


 アリシアは引きつった笑みを浮かべた。


 この人がお兄さんなんていきなり過ぎる。



 「おいおい、大司教。それで俺達は何をすればいいんだ」


 レオンはひとり放っておかれたみたいでふてくされたように割り込んだ。


 「大隊長あなたにはもっと大変な仕事を頼みたい。実はドークを言う黒い妖精の行方が掴めないんです。ドークを捕まえて魔界に返さないと…もっと魔界の魔獣を解き放つかもしれません。どうかドークを引き戻すために協力をお願いします、玉の方は回収できて元には戻したんですが何が起きるかはまだはっきりとはわからないんです…」


 「ああ、そうだろうな。それでどこを探す?」


 「取りあえず神殿の奥の洞窟の中をお願いしたい。私は王都に怪しいところがないか調べるつもりですので」


 「もちろん。わがゴールドヘイムダルの命に代えてもドークを探し出す。任せてくれ!」


 「ありがとうございます。よろしくお願いします。おふたりともどうかここでのお話は全て内密にお願いします」


 「ああ、オーディン神に誓って約束する。だが、ヴィルが国王の…なぁヴィル驚いた」


 レオンが目を丸くした。


 「それ俺が言うセリフですよ。ったく、でも生き返れたんだしやるしかないじゃないですか」


 ヴィルもまったくと髪を掻きむしる。


 「ではさっそく準備に取り掛かって頂きます。アリシアとヴィルフリート君は出発の用意を急いでくれ!」


 こうしてアリシアとヴィルフリートはアラーナ国に向けて準備に取り掛かった。


 アリシアは大司教にせかされながら思った。


 もともと大司教とフィジェルはあまりいい関係ではなかったけど、この事件の事では利害が一致さいたらしいいんだよね。


 お互いにこの一件を事故として片付けようともう必死。


 国王にもなんの心配はないと言っているみたい。そんなわけないのに…


 でもフィジェルの立場が悪くなっているのは確からしいからいい気味だ。


 まっ、聖女がこんなこと思うのは不謹慎かもね。


 それにマイヤの意識が戻らないのもどうやら魔界の邪気を吸い込んだためではないかと思われている。


 マイヤの意識を取り戻すには魔狼を倒せばいいのかさえもわからないんだけど。


 それも何とかしてあげたいしなぁ…


 アリシアは大きくため息をついた。


 


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