第33話 戦車は砲で、人は弾
グスタフ級シルドクローテンの中から帝国兵がわんさかと出てきた。
トロイの木馬かよ!
いや、でかい砲弾の中に兵士詰めて発射ってか!?
ナントカ人間砲弾的な? そんなの俺も知らないが!
「大将! 逃げるぞ! ぬおらぁ!」
俺はフレデリカさんに引っ張り上げられ、そのまま本陣方面に駆けようとするが止める。
「フレデリカ! 逆だ! 本陣は手薄過ぎる! この状態で自爆特攻されてみろ! 王宮まで届くぞ!」
そうなったら俺自身が無事なのは今だけ、ということを暗に理解してくれたフレデリカは、馬をUターンさせてくれる。
「はんっ! 良い度胸してるぜ大将! 褒美をたんまり、奮発してくれよぉ! ヒャッハー!」
敵兵士の集まるど真ん中に繰り出して馬を暴れさせ、その隙に多数相手に何とか持ち堪えているミーナに手を伸ばす。
「来い! ミーナ! 俺に良い考えがある! ナディとクララも俺に続けぇ!」
「ちょっ! ソーヤ! なんで……んもぉう!」
文句を言うミーナだが、声色は嬉しそうだ。
そんなに戦いが好きか? ミーナの戦闘狂め。いっぱい戦わせてやるよ。
ナディとクララは不服そうな顔をしているが、上司である俺の言うことに従ってくれるらしい。
「ミーナ! 背後は!?」
「敵兵全部まとめてコッチを追ってきてるわよ!」
釣りは上々。やはり狙いは俺の首か。
敵兵は歩兵しかいないが、鎧もなく武器だけの軽装であるため足が速い。魔法で身体強化もしているのだろう。
逃げるには逃げられるが、逃げ切るには時間が掛かる。下手をすれば挟み撃ちだ。
だったら――。
「俺が隙を作る! 集団をまとめて狩れ! フレデリカ!」
「ぃよっしゃぁ! 突っ込むぜぇええ!」
フレデリカは馬を止め、反転させて敵集団に突撃する。
「ミーナ!」
「ふふん、みなまで言わずとも分かるわ! とぅ!」
ミーナは俺が何をするか聞く前に、馬の背から小さく飛ぶ。
その瞬間、フレデリカは馬を高く跳躍させた。
敵兵の目線が全部上に行く。
そこに、ミーナが慣性の法則による勢いのまま地面を滑り、敵集団をボーリングのように吹っ飛ばす。
もちろんこれで終わらせない。
「ナディ! クララ! 刈り取れぇ!」
「任せな旦那ぁ!」
「素晴らしい作戦ですわソウヤ様!」
2人が敵集団の端から斜めに、交差するように切り込み、馬の勢いを止めぬまま突き抜ける。
俺の乗ったフレデリカの馬は、ミーナが開けてくれた場所に着地し、ミーナを乗せて再び反転し、駆け出す。
混乱しながらも慌てて追い掛けてくる敵兵集団だが、先程突き抜けたナディとクララが遅れて反転しており、敵背後から壊滅的打撃を与えてから合流してくれた。
「全員無事だな!? 完全勝利、圧倒的だな! 素晴らしい働きだったぞ!」
俺の言葉に自慢気な顔をするのは俺の後ろにいるミーナだけであり、ナディとクララは嬉しいけれど喜べない微妙な顔をしている。
「敵兵の練度が低過ぎだぜ。まるで民間から徴集したての新兵だ。あんなの蹴散らしたくらいで褒められても……なぁクララ?」
「そうですわ。しかもクバール帝を取り逃しましてよ……」
俺は周囲を見渡す。馬で引き摺っているのかと思ったがいつの間にかいない……。
周囲は瓦礫の山だ。
「せっかくの首級だが……仕方がない。べハンドルング帝国の捨て身度合いが想定外過ぎる。みんなが全員無事でいるために、俺達はできる限りのことをする!」
俺がそう決意した瞬間、瓦礫の山の向こうから、赤々とした真っ直ぐな光が天に昇る。
ナディとクララがその光の下に向かい、クバール帝を捕らえ、馬で駆けてきた。
だが、ナディとクララは血相を変えた顔をしており、対するクバール帝は狂ったように笑っていたのだった。
「旦那ァ! 全力で、逃げろぉおお!」
ナディに言葉の意味を聞く前に、フレデリカが馬を走らせた。
次の瞬間だった。
空から貨物列車のコンテナのような岩がバンバン降ってくる。
すぐ後ろだ。
馬が走っていなければぺしゃんこだった。
そして、その岩が割れ、中から兵士が……いや、兵士とも言えないみすぼらしい人間が、ボロボロの弓や剣を持って、力無い足取りで出てくる。
しかし、俺を見るなり、エサを見つけたゾンビの如く走ってくる。
状況はベティが教えてくれた。
『謎の赤い光が出現後、全てのシルドクローテンが動きを止めた! だが、口から……人を吐き出し、岩石魔法の内部に押し込めて発射している! ソウヤ様は無事なのか!? ……また赤い光……青の光も!?』
またクバール帝が赤い光を空に発射しやがった。
そしてなぜか俺からも青い光が天に発射される。
さっき何か魔法を掛けられたのか……。
本気で俺を殺すつもりのようだな。
逃げている最中に離れ離れになったクララからも連絡が入る。
『クバール帝はわたくしが縛り上げております! 意識は手刀で刈ったのですが、赤い光が数秒に1回空に放たれます! 青い光はソウヤ様ですの!?』
「青い光は俺だ! もちろん好きで発射してる訳じゃないからな! クバール帝に変な魔法を掛けられたんだと思う! クララ! そのままクバール帝を王宮までお連れしろ! 俺も王宮に向かう! こうなったらさすがに王様も守ってくれるだろ――」
そこに、ソレは割り込んできた。
『――ならん。ソウヤ殿、もしそうなれば反逆罪を適用せざるを得ぬ』
ザクセン王だった。王の言葉に色は無く、何の感情も感じさせない冷たい言葉が、ただ紡がれる。
『ソウヤ殿、勇者らしく最前線にお戻りを。無駄死にしろとは言わぬ。もう直、アウグスト騎士団長率いる全ての上級騎士が戻る。それまで戦うのだ。これは王命である』
退けば反逆、進めば決死、逃げることすら許されない。この青い光のせいでな。
「大将……」
馬を走らせるフレデリカが、心配そうに声を掛けてくれる。
「聞いたな? ベティ、クララ」
『……あぁ』
『はい……』
俺は一瞬だけだいぶ明るくなった空を見て、目を閉じ、前を向いて目を開ける。
「ベティはエマに連絡して本陣に用意した薬を出させろ! クララは王命に従え! ナディは開けた場所を選定し、フレデリカを誘導してくれ! フレデリカ……」
「…………」
俺は返事をしてくれないフレデリカに頼む。
「本当にヤバくなったら、俺を捨て――」
「ねぇよ。大将は、スゲェな。そんな大将を捨てて逃げねぇよ。誰もな!」
そう言って、フレデリカは本陣へと馬を走らせた。
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